蔵書目録

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「フリッツ・クライスラー氏 バイオリン大演奏会曲目」 (1923.5.1、4)

2021年04月04日 | ヴァイオリニスト ハイフェッツ、小野アンナ他

  

    フリッツ・クライスラー氏
  バイオリン大演奏會曲目
     大正十二年五月 一日火曜日)二日(水曜日)三日(木曜日)四日(金曜日)五日(土曜日) 午後七時半開演
     御入場料 特等ー金十五圓 一等ー金十三圓 二等ー金十圓 三等ー金四圓 四等ー金二圓
    帝國劇塲

 五月一日 クライスラー氏演奏曲目
         ピアノ伴奏  ミカエル・ラハイゼン
                    (スイタインウェー・ピアノ使用)
    (第一)
一、甲 競奏曲 ハ長調         ‥‥‥ ア・井゛ワ゛ルディ作
    活氣ある快速調
    哀愁を帶べる併步調
    最快速調
  乙 前奏曲と快速曲         ‥‥‥ ガエターノ・プニャーニ作
二、奏鳴曲 ト短調           ‥‥‥ バッハ作
   (ワ゛イオリンのみの奏鳴曲)
    緩徐調    ‥ 遁走曲
    シチリ舞踊調 ‥ 急速調
三、い、小併步曲            ‥‥‥ (パードレ・マルティーニ作 クライスラー編)
  ろ、路易十三世の歌とパワ゛ーヌ舞曲 ‥‥‥ (ルイ・クープラン作 クライスラー編)
  は、『ローザムンデ』中ノ舞曲    ‥‥‥ (シューバート作 クライスラー編)
  に、歌劇『金鷄』中ノ太陽ノ讃歌   ‥‥‥ (リムスキー・コルサコフ作 クライスラー編)
  ほ、維也納 狂想曲         ‥‥‥  クライスラー作         
  へ、支那の皷            ‥‥‥  クライスラー作
 
  □クライスラー氏「演奏曲目解説」(各種寫眞版二十頁挿入)塲内女子案内人携帶發賣致し居り候
  □クライスラー氏の名著、歐米兩洲に於て二百萬部を賣り盡したる『塹壕の四週間』(ワ゛イオリニストの實戰記、帝國劇塲音樂顧問牛山充譯)も發賣致し居り候

    フリッツ・クライスラー氏
  バイオリン大演奏會曲目
     大正十二年五月 一日(火曜日)二日(水曜日)三日(木曜日)四日金曜日)五日(土曜日) 午後七時半開演
     御入場料 特等ー金十五圓 一等ー金十三圓 二等ー金十圓 三等ー金四圓 四等ー金二圓
    帝國劇塲

 五月四日 クライスラー氏演奏曲目
         ピアノ伴奏  ミカエル・ラハイゼン
                    (スイタインウェー・ピアノ使用)
    
一、奏鳴曲 ト長調 作品七十八     ‥‥‥  ブラームス作
    疾速調 併し甚しくなく
    緩徐調
    快速調 最も中庸に
二、第二競奏曲 イ短調         ‥‥‥  ヂ・ビ・井゛オッティ作
    中庸調
    緩徐調
    最激動調
三、い、歌調              ‥‥‥  バッハ作
  ろ、細步舞曲            ‥‥‥ (ポルポーラ作 クライスラー編)
  は、音樂のとき           ‥‥‥ (シューバート作 クライスラー編)
  に、印度の歌(歌劇『サドゥコ』より)‥‥‥  リムスキー・コルサコフ作
  ほ、道化役者の黄昏曲        ‥‥‥  クライスラー作         
  へ、ボヘミア幻想曲         ‥‥‥  スメタナ作
 
  □クライスラー氏「演奏曲目解説」(各種寫眞版二十頁挿入)塲内女子案内人携帶發賣致し居り候
  □クライスラー氏の名著、歐米兩洲に於て二百萬部を賣り盡したる『塹壕の四週間』(ワ゛イオリニストの實戰記、帝國劇塲音樂顧問牛山充譯)も發賣致し居り候



 上の写真は、大正十二年五月、フリッツ・クライスラーの帝劇公演の広告絵葉書のものである。

 帝劇のクライスラー音楽会

 クライスラー提琴大音楽会   自一日至五日毎夕七時半開演  帝国劇場
  
  御入場料   特等 拾五圓 一等 拾三圓 二等 拾圓 三等 四圓 四等 貳圓
  特別一般割引 四月三十日迄に前賣切符お買求めのお方に限る
          特等 十二円 一等 十円  二等 八円 三等 三円 四等 一円五十銭
  特別團體割引 毎日各等二百人丈三十人以上の学生及学生團體に(座席限定)かぎる
         一等 七円 二等 五円 三等 二円

  クライスラー氏は一八五七年〔一八七五年〕ヴヰンに生る。氏の父は有名な刀圭家である。併し今日では氏は一個のオーストリヤ人でなく、國籍を超越せる世界人で、氏の藝術は淵のやうに深い、ロマンティシズムなポースを融合させたのが彼獨自の技巧だと云はれる。また氏は人格者として知られ、米國では「紐育の基督」と云はるゝ程の人である。

    

 上左の写真:『国際写真情報』 大正十二年 六月号 第二巻 第六号 に掲載されたもの。

  世界的提琴家クライスラー氏を東京駅に迎へた帝劇の女優連。

  Actressess of the Imperial Theatre welcoming Mr. Kreisler, a famous violinist of the world, at Tokyo Station.

 上右の写真:『写真通信』 大正十二年 六月号 第一百十二号 に掲載されたもの。

  名提琴家クライスラー氏を迎へて

  蓄音器のレコードで既にお馴染みのヴアイオリンの世界的名手クライスラー氏が我国を訪れ五月初旬帝劇で霊腕を振ひ聴衆に深き印象を刻みつけた。五月三日には畏くも秩父宮久邇宮両殿下台臨を給ひ名ヴアイオリニストは見に余る光栄に号泣した。甲冑界の新人三島章道子は千駄ヶ谷の自邸に遠来の珍客を招待し盛大な園遊会を催した。写真中央は三島子爵邸に於ける園遊会で右図は帝劇で演奏を終へた同氏左図は帝劇御成りの秩父久邇宮両殿下

 MR. KLEISLER, POSSESSOR OF THE WORLD-WIDE FAME ON VIOLIN COMES TO JAPAN

 

    クライスラー

 私はホルマン翁からクライスラー夫妻を紹介された。それで一夕遙々來朝したこの大提琴家に歡迎の微意を表しようと友人達と謀った。それでその旨をクライスラーに通じると夫妻は喜んで受けて呉れた。
 クライスラーは、世界大戰の時は軍人として戰線に働いたりして苦勞をした故か、思ったより年をとって見えた。日本の樂壇についての感想を述べ、極東の日本人が、西洋音樂を鑑賞する態度が斯樣に進んでゐるとは思はなかったと感心し、今度の旅行でジャワ、シンガポール、香港、上海等を演奏して歩いたが、その音樂會の聴衆は大部分が西歐人であった。土地の人といふべき東洋人は極く纔かで、その殆ど多くは、支那人でなく日本人であった。それ故、日本人は音樂が好きだといふことは想像してゐたものゝ、日本に來るまでは音樂會を催しても聽衆は西歐人の方が多いのではないかと思ってゐた。處が、實際を見て驚いたことには、東京は申す迄もなく、何處の土地に行っても、聽衆は殆んど日本人で、西歐人はほんの少數で、今迄とは全く正反對であったと話した。クライスラーはなほ言葉を續けて、その上驚くことには、日本の聽衆が好む曲は何れも立派なクラシックの音樂で、これは日本人の音樂の造詣がいかに深いか證明するものであると云った。クライスラーのこの言葉は、決してこの晩のコンプリメントではなく、クライスラーが歸國後その友人に同じことを語ってゐることから推しても、實際に感じた僞らざる印象であるらしい。
 暫く雜談の後、クライスラーは演奏をしてくれることゝなった。伴奏はクライスラーの伴奏者として一緒に來朝したラックハイゼン( Michael Racheisem )といふピアニストであった。このピアニストは、獨逸は勿論歐羅巴でも、この人の右に出る者はないと言はれる程の有名な伴奏者である。演奏は最初に、ベートーヴェンの「クロイッツェルソナタ」が彈かれた。その演奏は實に見事なものであった。このやうな曲はサロンで靜かに聽くのが本當なのであらう。次にクライスラーは、最も得意とする小曲、ボッケリーニのミヌエット、自作の「愛の喜び」「愛の悲み」などを演奏した。世界の何人も許す一流中の一流のこの演奏は、人々を非常によろこばせた。私達はこのやうな素晴らしい音樂を聽かせてくれたクライスラーに滿腔の感謝を捧げずにはゐられなかった。一同は、演奏が終っても恍惚として我を忘れ、いつまでも美しい夢に見入ってゐるやうであった。
 クライスラーは、有名な愛妻家であるといふことを私は聽いてゐた。そしてそれはこの晩にも證明された。といふのは、皆があのクライスラーでなければ聽くことの出來ない輕妙な美しい音樂に、未だ醒めやらず恍惚 うっとり としてゐるうちに、クライスラーの妻君は、今ストラディヴァリウスのヴァイオリンを大切さうに箱にしまってゐる夫君に向って、「フリッツ、あなたの仕事はもう濟んだのでせう、これから私のためにフォックス・トロットを彈いて頂戴」と云った。するとクライスラーは微笑し乍ら肯いて、ピアノの前に座って、實際にフォックス・トロットを彈き出した。人々は呆氣 あっけ にとられて、クライスラーとの妻君とを見較べたものである。

 上の文と写真は、昭和十八年三月三十日發行の 『薈庭樂話』 徳川賴貞 春陽堂書店 にあるものである。
 写真には、次の説明がある。

  クライスラーの筆蹟



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