上・東京市電自治会市民向けビラ1926.12.6
1万2千人東京市電争議 1926年の労働争議(読書メモ)
参照「協調会史料」
「東京交通労働組合史」東京交通労働組合(1958年発行)
全支部に向けた緊急動員指令
緊急動員通牒
資本主義の必然的運命であるところの不景気は、今や加速度をもって一般無産大衆の上に労働条件の低下、失業者の続出等に重得されつつある。我が市電自治会大衆の上にも、日一日と一般大衆による労働条件の低下、苛酷なる労働に、大衆の生活を極度に脅している。かくのごとくの情勢の下における我々市電自治会15年度大会は、この生活の劣悪化に対する資本家との抗争を決議したのである。すなわち日給制の確立、二重賃金制度の撤廃等々の獲得に・・・・。去る10月上旬に開催した中央委員会は待遇改善提出を決議し、その後各部よりの実行委員会は現在における一般的社会情勢をも充分に考慮し、慎重なる態度をもって協議の結果、最低限の待遇改善27ヶ条を決定し、去る10月30日に局長以下理事者と会見提出し、誠意ある回答を期待し首を長くして待ったのである。しかるに去る11月24日の回答は何ら誠意を示さず、かえって改悪に等しい回答を興えたのである。
我等は直ちに要求として提出し、当局として猛省を促すことこそ至当なりと考えるものである。社会的影響と更に産業的立場を考慮し、再嘆願として提出し、当局の誠意ある回答を待ちつつあるのである。しかしながらその後の情勢は我らに取って決して楽観を許さざる状態にある。来る12月6日の再度の回答は恐らく我らの期待を裏切るであろう。
全自治会1万5千の大衆の切望は蹂躙され、闘争への進出は今や目の前に迫りつつある。6日の回答には実行委員をして真に意義ある力を彼らの前に示させよ!
大衆の動き、それのみによって我らの運命は決定されるのだ!!
6日午後1時までに、本局食堂に、公休、中休、すべての会員を総動員せよ!!!
当局をして我らの威力の前に降伏せしめよ!!!
大正15年12月4日
市電自治会本部
各支部御中
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全国の友好労組へ
檄‼
資本主義没落過程における不景気は、今や刻一刻として深淵を加え、資本家階級の搾取と弾圧とは無産階級として餓死の巷を彷徨(さまよわせ)つつある。労働者の一般的な賃金低下、労働時間の延長あるいは操業短縮による工場閉鎖による失業者の続出、さらに農村における耕地立入禁止に立毛差押さえ等々に。
この一般的資本の攻勢による必然的結果として、我が東京市電局においては、市電自治会の1万5千大衆に、最近異常なる賃金の低下と過酷なる労働と厳重なる処罰等によって極度なる生活の劣悪化を強要しつつある。
我らは、この資本家の暴圧の前に生活権を擁護する為、さる10月30日27か条の嘆願書を電気局に提出した。しかるにこれに対する11月24日の回答は何らの誠意を示さず、もっぱらに表面のみを欺瞞し改悪に等しき回答をしたのである。
我等は直ちに要求として提出し徹底的に抗争を開始するこそ至当なるものと信じたのであるが、しかも我らは更に陰忍自重し、再嘆願の形式により当局に再度の考慮を促したのである。しかるに去る6日の回答は全然我らの誠意を裏切り殆ど一蹴するに至った。かくなる上は最早最後である。6日の自治会第10回中央委員会はもこの無誠意なる当局と徹底的に闘争することを決議した。今や戦端は開始され芝浦工場1千の兄弟は今朝より総罷業を決行するに至った。我等は自治会の玉砕を賭しての闘争を開始した。
この戦いは自治会1万5千の死活を決する闘争であると共に資本の積極的暴圧に抗争する全無産者階級の闘争でなければならぬ。今や我が無産階級の死活に関する闘争は、東京市を中心として開かれんとしている。
親愛なる全国の友誼団体諸兄よ!! この決死的闘争に対して全力を挙げて応援せられよ。全無産者階級の力を集中して資本家階級の暴圧を撃破せよ!!
大正15年12月8日
東京市電従業員自治会
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東京市電従業員自治会の闘い
東京市電気局の日本交通労働組合聯盟東京市電従業員自治会1万2千人(全従業員13,700人)の代表らは、1926年(大正15年)10月30日午前11時に電気局大道局長らと面会し、「最近電気局は収入減を理由として運転車両数へ無謀なる削減を加え、極端なる事業縮小をしている。そのため一般乗客の不便痛苦は勿論の事、私共従業員の収入が大幅に低減余儀なくされ、日常生活に極度の苦しみが迫られている」として賃金などの待遇改善27項目を要求した。11月24日、自治会本部緊急中央委員会は、今後の争議に備え、山崎今朝治弁護士と松谷与二郎弁護士に顧問を依頼した。
要求
一、二重賃金制撤廃
一、最低賃金制制定
一、賃金・昇給改善
一、作業服、外套の改善
など27項目
(11月28日自治会各支部の決議)
軌道部「我等が勝つか彼らが勝つか最後の勝利まで貫徹する」
電力部「最後まで初志を貫徹す」
工場部「全員一致して目的を貫徹す」
水道部「水道部に属する臨時人夫が工事が完成したことを理由に、11月10日120名中52名もの仲間が解雇されてしまう。水道部の問題として解雇手当増額運動を起こそう」
郊外部「王子電鉄会社の労働者で組織する王子支部が市電争議の支援表明」
(示威行動挙行の計画と緊急動員通知)
自治会は当局の回答次第では、いよいよ大衆行動、示威行動の挙行を計画した。12月6日午後1時に電気局食堂に非番の労働者全員が押し寄せるデモンストレーション、示威行動に決起すべしと、12月4日に各支部に上の「緊急動員通牒」を発した。これを知ってあわてた所轄警察署は、「多数が集合して示威行動に出ることは禁止する」と自治会幹部に圧力を加えた。やむなく自治会は一旦は示威行動の中止を決め、「本日発送の緊急動員通牒は官憲の注意ありたるにつき取消す」と各支部に緊急通知した。
(市民向け声明書)
12月8日には、市民向けの6日付け声明書(上の写真)ビラ5万枚を印刷し配布した。
(12月8日自治会本部の運動方針)
一、友誼団体に応援を求める
二、各支部で総会、大会を開催と結束を強める
三、回答当日は拡大中央委員会を開催する
四、満足なる回答がない場合は同盟罷業(スト)を決行する。電力部(架線工事関係)は怠業中心とする
五、各支部は争議基金を銀行等から払い戻して用意する事
六、各支部より本部に派遣する連絡委員の手当は各支部で負担する事
七、争議基金一人2円の臨時徴収
(自治会工場部がサボタージュ闘争をはじめ、永代橋の開通式も延期に)
8日、自治会工場部の約400余名は、出勤はしたが工場内の各所に集合して作業に従事しない同盟怠業(サボタージュ)闘争を決行した。午後1時工場の全動力が停止し、工場の作業は一切止まった。永代橋の架設工事の材料の制作もできず、同架設工事も中止した。12月20日に予定されていた同橋開通式も延期となった。
(芝浦工場スト突入)
8日朝、芝浦電車工場では700名の総罷業(スト)の火ぶたが切られ動力が止まった。続いて9日から車庫、軌道、電力、営繕など各支部3千余名も総怠業(サボタージュ)に入り、いよいよ全面スト決行を覚悟した。運輸部もすでに全員「完(安)全デー」の名の下で怠業闘争に入った。
(自治会の闘争方針)
自治会本部は12月10日より総怠業(サボタージュ)闘争決行を決めた。
具体的方法として以下の具体的行動を決めた。
(イ)運輸部は、スピードを制限速力以内とし、同時に乗客数を規定により制限する
(ロ)電力部、軌道部の架線及び軌道の修繕工事は出来る限り遅延すること
(ハ)車庫部と電車修繕は、「完全」にするためにできるだけ時間をかける
(ニ)芝浦工場支部はできるだけ出勤し、現状の罷業状態を継続する
(ホ)支部旗全部を本部に集め飾り、気勢を挙げて、上の「檄文」を友誼団体に発送する
(陸軍を使った当局のストつぶし対策)
(イ)現在、職員の中で運転手免許を有する999人を運転手として、車掌は市役所職員2千名を使い、約600車両を運転させる
(ロ)自動車部は、陸軍自動車隊の動員を要請した
(ハ)電力部は、陸軍中野電信隊電気中隊の動員を要請した
(ニ)工場部は、工場閉鎖の方針
(ホ)車庫、軌道は臨時募集の見込み
等
また総罷業(ストライキ)の場合は、
本郷連隊区在郷軍人会約600名、深川軍青年団約600名から当局に協力したいという応援の申し込みを受けて、運転できるものは運転手として、それ以外は以下の要所の警戒に動員する。
要所
(イ)変電、変圧開閉所ほか41ヵ所
(ロ)電車出張所、派出所、車庫ほか29カ所
(ハ)自動車出張所、桜田門ほか7カ所
(ニ)ガソリンタンク 桜田門ほか3カ所
(ホ)芝浦工場
(へ)本局
(ト)鬼怒川水電会社、黒部取入口、下瀧発電所
(西久保市長)
東京市西久保市長は「(ストライキ参加者は)一人残らず片付けてしまう」と烈火のごとく怒った。陸海軍関係者で組織する国防協会は、市長に対し、「市理事会は自治会に団体権を認める事、市従業員の左傾分子の一層、ストの時は在郷軍人・青年団らが電車運転に協力する」を申し入れた。
(自治会各支部長らの動揺)
各支部長らよる最高幹部会が開催され「回答以前のストライキ決行は、市民の反発を招き、かえって不利に陥る危険があるので、直ちのスト決行は早計である。またストライキは最後の手段として万やむを得ぬ場合にのみ決行するものである。目下の情勢では市民の反感を買わない方法で、同盟怠業(サボタージュ)を行う策戦が最も当を得たものである」の意見多数で、この方針を採用した。
(大正天皇の危篤で急遽争議中止)
12月9日、東京市電大道局長は自治会に対し、「陛下の御不例中にあたり市電気局内において争議を継続することは、おそれ多いことなので、また市民の反感も買う結果になるので、争議の一時和解を希望する」と大正天皇の危篤を利用して争議の停止を求めてきた。自治会各支部長ら最高幹部は秘密裡に芝公園五重塔の下に集まり、大道局長の妥協の申し入れについて協議した。自治会本部執行委員会は、大道局長の提案を拒否すべしと主張した3名を除いた多数委員が大道局長の申し入れを受け入れることを決め、急遽12月10日からの総怠業と争議の中止を決めた。この日は芝浦工場の労働者のみが出勤してストライキを続けた。