写真・木本事件朝鮮人犠牲者追悼碑
1926年の朝鮮人労働者の運動(読書メモ)
参照 「在日朝鮮人運動史」 朴慶植著
「日本労働年鑑第8集/1927年版」大原社研編
1、1926年(大正15年)当時の朝鮮人の生活(労働年鑑)
大阪府社会部調査課によると朝鮮人労働者の多くはバラックに居住し、職業は土方、人夫、職工、手伝いで、収入は大体一日一回90銭の賃金。下宿料で月24圓とられ、生活費を除いて6圓ほど残してこれを故郷に送金する。
2、在日朝鮮人の運動
1926年、新しい朝鮮人労働組合が続々結成された。1月には大阪、京都、兵庫の朝鮮人労働団体が連合して関西朝鮮労働組合連合会、3月には東京、神奈川、山梨などの各府県下の朝鮮人労働団体を連合した関東朝鮮労働組合連合会を結成した。在日朝鮮労総加盟数は1926年10月には25団体(関東12、関西13)、9,900余人となった。
4月には在日朝鮮労総第二回大会が大阪で開催され、代議員80余人、傍聴者約120人であった。しかし、「吾等在日朝鮮労働者は彼の異族より被征服者的及民族的の悲哀を限りなく体験せり」の大会宣言を読み上げている最中に大会中止を命じられた。
1926年は年の初めから労働組合法案、労働争議調停案、暴力行為等処罰法案のいわゆる三悪法反対運動を、在日朝鮮人労働者においても熱心に取り組まれた。東京で関東朝鮮無産階級団体協議会で反対決議(1月)、関東労働組合主催の反対大会、大阪での大阪労働組合会議主催の反対大会(2月)に参加した。この年のメーデー集会には前年に比べ多数の朝鮮人労働者が参加し、「不穏」行動があるとして東京、大阪、堺で計35人が検挙されている。
毎年民族的団結と闘争の日とされた3.1記念日には東京朝鮮留学生学友会主催で250人が参加し万歳を怒号しようとして解散させられた。また震災記念日には東京、大阪、兵庫などで追悼会が催された。東京では「数千の同胞なぜ死したるや」と悲惨の情を訴え、「われわれ同胞を殺したのは征服者、被征服者の関係から来たれり」「日本帝国主義の銃剣のもとに虐殺された」と叫んだため解散命令を受け、19人が検挙された。
この年4月に李朝最後国王純宗が死去し、朝鮮では6月5日の国葬日を期して独立運動が展開した。東京でも留学生学友会が呼応し示威運動を計画したが、事前に主催者6人が検挙され、青山会館に集まった民衆約1,500人の23人が検挙された。
3、在日朝鮮人労働者の主な労働争議
この年の在日朝鮮人労働争議は前年よりさらに増加し、84件、参加人数4,476人に達した。その原因は解雇手当要求29件(390人)、賃金不払19件(1,235人)、賃金値下げ18件(2,197人)、解雇5件(52人)、その他132件(602人)であり、争議形態としては、ストライキ18件、サボタージュ闘争2件、妥協42件、要求貫徹・拒絶13件、未解決6件である。
主な労働争議は2月から3月の尼ヶ崎大阪製麻争議に朝鮮人292人が参加、2月愛知県下地町で朝鮮人土工、賃金問題から日本人親方を襲う、5月神奈川高座郡寒川村砂利採取場で朝鮮人土工、待遇改善を求めたストライキ、6月茨木県土浦町常南鉄道工事場で賃金不払いで朝鮮人ストライキ、9月大阪長谷川箴(はり)製作所で朝鮮人労働者が解雇され解雇手当要求、同月中山炭鉱で賃金2割の値下げに反対した日本人、朝鮮人労働者合計3千人がストライキに突入して勝利、同月岐阜県滝呂町に於ける製陶労働者250名による滝呂町空前の大争議が起きたが、40名の朝鮮人労働者も共に闘った。この争議の要求の一つに「朝鮮人の賃金と待遇を日本人と同じにしろ」も含まれている。10月滋賀県奥田製油所で時間短縮・解雇手当を要求してストライキ、朝鮮人労働者150人も参加、同月大阪住吉区西田辺町朝鮮人土工、賃金不払いで日本人親方に抗議、同月大阪北区森硝子工場朝鮮人労働者150人が職工大会を開き賃金3割値下げ反対、待遇改善等を求めストライキ、暴力団正義団の妨害をはねのけて勝利、11月大阪東淀川区摂津染物工場の朝鮮人労働者50人が待遇改善を求めてストライキを挙行したが10名が検挙された。
4、三重虐殺事件
1926年(大正15年)1月2日、3日三重県木本町の道路工事従事の一朝鮮人労働者への日本人の暴行に抗議した朝鮮人労働者約60名に対して、「朝鮮人が襲ってくる」というデマにあおられた警察、自警団、消防組、青年団、町民など約2千人が朝鮮人を襲撃し、25歳と29歳の朝鮮人労働者2名を殺害した事件が勃発した。急遽、東京では在日朝鮮労働総同盟、一月会、学友会、三月会など12団体によって同事件調査会がつくられ、自由法曹団、水平社、大阪朝鮮労働組合関西連合会などとともに調査を行い、2月同調査会は東京で自由法曹団などの応援を得て三重事件批判大演説会を、3月には大阪で同事件糾弾大演説会を開催し、自由法曹団により事件の真相が発表されたが、官憲側は三重事件で朝・日双方各20名を検挙し、朝鮮人14人、日本人17人を有罪としたが、朝鮮人側に長期刑罰を言い渡した。
調査に当たった自由法曹団の布施辰治弁護士は、
「・・千二三百人の町民が、鐘をたたき、ラッパを鳴らし、学校備え付けの兵器武器を取り出して朝鮮人飯場を包囲した結果、朝鮮人土工は工事場に逃げ込み、追撃の町民群衆にダイナマイトを投げつけた。林林一、高橋萬次郎など日本人労働者も、勇敢に朝鮮人を保護し、凶悪なる木本町民と闘った。朝鮮人側死者2名、行方不明2名、騒擾罪で14名が収監され、その後200名朝鮮人全員が滋賀県へと放逐された。関東大震災時の朝鮮人虐殺と事件と同様な町民の逆上振りがあった」(趣旨)と述べている。
在日朝鮮労働総同盟は他の団体と「三重県撲殺事件に際し全日本無産階級に訴ふ」の声明をだした。
「植民地に帝国主義の悍(かん)馬が暴れ込む時は植民地人はその狂暴なる搾取圧迫に耐え切れないで海外へ流出する。・・異国の労働市場は常に弾丸と刃との恐怖をもって我々に向かっていた。我々は忘れようとしても忘れられないかつての新潟県の虐殺事件あり続いて関東大震災当時の東洋未曾有なる大規模の虐殺事件があった又斯様な殺伐をもっと一般的意義的にもっと具体的計画的にやろうとする小樽想定事件までが発生した次第である。玆に呪われたものの胸底に透るものがある。それが未だ記憶に新たである中に又もや虐殺の惨劇が三重県に起こったとは我々をして最後の決心を促すものでなければならぬ。・・・・・・・・(略)・・・
願わくば全日本の無産階級諸君 ! 我々の覚める時季はすでに迫って来たではないか。諸君と諸君の祖先は諸君の祖国のために多く働いた偉大なる『忠義心』と熱烈なる敵愾心をもって働いたであろう。しかし残るものは残虐と貧窮あるのみではないか。ここにおいて歴史は我々無産階級に教えるものがある。我らはその長きものをむしろ語らないであろう。
『我々無産階級の最大なる利益は最大なる同階級との握手と団結にあるのだ!!』
1926年2月10日
在日本朝鮮労働総同盟
在東京朝鮮無産青年同盟」
朝日新聞デジタル(2020年6月24日)
デマ拡散の先に起こること 94年前の教訓「木本事件」
https://www.asahi.com/articles/ASN6N6FMHN6MONFB01M.html
◆木本トンネル横の慰霊碑 説明板より
1925年1月、三重県が発注した木本トンネルの工事がはじめられました。この工事には、遠く朝鮮から、もっとも多いときで200人の朝鮮人が働きに来ていました。
工事が終わりに近づいた1926年1月2日、朝鮮人労働者のひとりが、ささいなけんかから日本人に日本刀で切りつけられました。
翌1月3日、朝鮮人労働者がそれに抗議したところ、木本の住民が労働者の飯場をおそい、立ち向かった李基允（イ・ギユン）氏が殺されました。さらに木本警察署長の要請をうけて木本町長が召集した在郷軍人らの手によって、裵相度（ペ・サンド）氏が路上で殺されました。
その時から3日間、旧木本町や近隣の村々（現熊野市）の在郷軍人会、消防組、自警団、青年団を中心とする住民は、竹槍、とび口、銃剣、日本刀、猟銃などをもって、警察官といっしょになって、山やトンネルに避難した朝鮮人を追跡し、とらえました。
木本トンネルは、地域住民の生活を便利にするためのものでした。そのトンネルを掘っていた朝鮮人労働者を、地域の住民がおそい、ふたりを虐殺したのです。さらに、三重県当局は、旧木本町に住んでいたすべての朝鮮人を町から追い出したのです。
李基允氏と裵相度氏が、朝鮮の故郷で生活できずに、日本に働きにこなければならなかったのも、異郷で殺されたのも、天皇（制）のもとにすすめられた日本の植民地支配とそこからつくりだされた朝鮮人差別が原因でした。
朝鮮人労働者と木本住民のあいだには、親しい交流も生まれていました。裵相度氏の長女、月淑さんは、当時木本小学校の四年生で、仲のよい友だちもできていいました。襲撃をうけたとき、同じ飯場の日本人労働者のなかには、朝鮮人労働者とともに立ち向かったひともいました。
わたしたちは、ふたたび故郷にかえることのことのできなかった無念の心をわずかでもなぐさめ、二人の虐殺の歴史的原因と責任をあきらかにするための一歩として、この碑を建立しました。
