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ボランタリー画廊   副題「げってん」・「ギャラリーNON] 

「げってん」はある画廊オーナとその画廊を往来した作家達のノンフィクション。「ギャラリーNON]は絵画を通して想いを発信。

げってん(その3)

2007年04月09日 | 随筆

 眼鏡店で独立する前は、父親の営む時計・貴金属・眼鏡店・印章店の一員に加えられていた。
彼はお金の計算は一切しなかった。持ち前の不思議なカリスマ性でどんどん人の中へ入っていった。沢山の注文をとってきたが、そのために沢山の酒代を使った。地域で大きな工場建設が進んでいた頃、建設業者のなかに入って行き、建設業者が完成記念に顧客へ贈呈する時計の注文を次々と取って来た。病院、学校、役所などからも注文をとってきた。しかし、金勘定すると大赤字なのである。
父親は、
「お前が動くと金が出て行く。商売は慈善事業ではない。儲けなくてはならんのだ。」と叱る。
一緒に働いていた弟は、
「兄貴はじっとしておれ。お前が動くと金が出て行く。」
と言う。
「俺はこれでも働いているんだ。」と反発。あとは掴み合いの喧嘩である。
母親はそうではなかった。カリエスで苦しんだ幼い子が命拾いをし、今こうして皆に可愛がられ働いているではないかと喜んでいたと言う。温泉が良いと聞けば温泉に連れて行き、遠くによい医者が居ると聞けばはせ参じたから、健康な兄や弟は両親の愛情を全部この難しい病気にかかった彼のために奪い取られたような気がしたに違いない。周囲からみても夫婦で稼いだお金は全て彼のために使っているように見えたという。
 そんな時代があっての今の独立通告である。独立しても彼の日常は変わらなかった。酒を飲み、マージャンをして、まともに家に帰る日は無かった。3日も帰ってこないので店員さんに問い合わせたら今病院の慰安旅行に同行しているとの返事。着替えも持たずに。