元上場証券会社店長のブログ

元上場証券会社の店長(東京日本橋支店・大阪北浜支店)現在現役株式為替ディーラーのブログです。日本FP協会AFP

インセンティブ

2007-11-20 10:54:53 | Weblog
1年の終わりごろになると、ディーリーングルームで働く人にはボーナス(パフォーマンスボーナス)が最大の関心事になる。今年は夏に、サブプライムローンの問題が表面化してから市場が荒れた。この問題に関連して多額の損失を被った金融機関も少なくない。金融機関全体としてのボーナス額が大幅に減ることは避けられない。

 特にサブプライムローンが組み入れられた証券に投資をしたディーラーや、その部門はボーナスどころではない。だが債券や為替で、いち早くトレンドをつかんだディーラーにとっては期待が膨らむ。

 外資系の金融機関の1年の決算は11月のところもあるが、大半は12月だ。それでも今頃までにはボーナス額の概算は決まる。11月と12月の収益が大幅にぶれなければ、その額が来年早々支払われる。

 だからディーラーたちは一般的に、今年の終わりまでは大きなリスクを取らない。これまでの成績の良いものは、特にその傾向が強い。利益を多少上積みしてもボーナス額は変わらないし、逆に大きく損をすれば減額の恐れがあると考えるからだ。

 ただ中には、確かな相場観があるときには積極的にポジションを取るディーラーもいる。ディーラーにとって報酬はリスクを負う強い動機ではあるが、全てではない。市場の方向性が見えたとき、そこに突き進むのはディーラーの習性でもあるからだ。

 報酬(ボーナス)と収益の関係については、その額が大きくなるにつれて問題もある。例えば50の収益目標に対し、昨年100の収益を上げて10の報酬を得たディーラーが、今年は100の損失を出したとする。当然今年の報酬はゼロ。

 一方、同額の収益目標に対して、昨年20の収益を出したディーラーの報酬は、目標を大幅に下回っているのでゼロ。今年の収益も同額だとすると、昨年と同様報酬はゼロになる。

 だが2年間で見れば、前者の収益はゼロに対して報酬は10、後者は40の収益を生み出したが報酬はゼロ。ボーナスの査定は単年度ベースだからこうした矛盾が生まれる。

 こうなると大きなリスクを取ってなるべく大きな収益を狙うディーリングのスタイルが主流になる。失敗した場合の最大のリスクは首だが、これまで収益を上げてきたものが1年の損で首になる可能性は低い。そうなっても他の金融機関に移ればいい。

 極端な場合、大きな損失が経営を脅かす場合がある。その金融機関の株価は下落し、公的な救済措置を受けることもある。株主と納税者が損失のコストを負担する。ここにモラルハザードの問題も発生する。

 サブプライムローンの問題に端を発して世界に広がる金融機関の苦境は、リスクに対するインセンティブの問題とも深く関係しているのだ。