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音楽大好き男の徒然なる日記

<「鉄路の行方」を考える>14 名寄~稚内間 重要路線維持、国の責任で(北海道新聞)

2024-01-23 | 鉄道
北海道新聞 2024年1月23日付記事
「<「鉄路の行方」を考える>14 名寄~稚内間 重要路線維持、国の責任で」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/966296/



「現在4頭のシカの後ろを徐行しています。
 お急ぎのところ、ご迷惑をおかけします…」。
JR北海道が「単独では維持困難」とする黄色線区の一つ、
宗谷線名寄~稚内間(183キロ)の特急列車で
昨年、こんなアナウンスを聞いた。

線路に迷い込んだシカが、警笛に追い立てられる光景が目に浮かぶ。
道外客と思われる家族連れから「のどかだね」と笑いがこぼれた。
野生動物との衝突で頻繁にダイヤが乱れるのはやっかいだが、
乗務員のちょっとした機転で車内が和むこともある。
天塩川や利尻山を望む景観は、眺めるだけで心が洗われる。
宗谷線は観光路線として人気を集める力を十分に秘めている。
 
とはいえ線区の収支は深刻だ。
昨年4~9月の輸送密度(1キロ当たりの1日平均輸送人員)は272人。
年間赤字額は2022年度で約27億円に上る。
JR北海道が利益至上主義に走るなら、いつ廃止されてもおかしくない状況だ。
 
ただ、並行する高規格道路の整備は遅れ、
札幌~稚内間の旅客輸送における鉄道のシェアは50%以上を維持している。
終点の稚内市は、ロシア国境に近接する安全保障上の重要拠点でもある。
営利目的の事業用資産としては「お荷物」でも、
国土と産業を守るためには重要――。
こうした線区は本来、
道路や空港と同じ社会公共インフラに位置づけられるべきだった。

 

1987年の国鉄改革以降、国は、JR各社が一方的に廃線を進めないよう、
JR会社法に基づいて経営を監督してきた。
株式上場で完全民営化した本州と九州の4社にも、
同法に依拠する「大臣指針」で「路線の適切な維持に努める」よう求めている。
国民の財産だった旧国鉄の鉄道網を継承したJR各社は、
公共交通機関の使命を果たすことを厳重に求められてきた。
 
昨年10月施行した「地域公共交通活性化再生法(地活化法)」は、
そうした政策を実質的に転換するものとなった。
ポイントは赤字路線の廃止や地元負担の論議を進める
「再構築協議会」の仕組みが設けられたことだ。
 
「再構築協議会」は、事業者か自治体の要請に基づき国が設置し、
地元負担を前提に路線を維持するか、バスなどへ転換するかを議論する。
自治体には参加義務があり、3年以内に結論を出さなければならない。
特に「輸送密度千人未満」は「優先的に対応」すべき区間とされた。
廃線を急ぎたいJR各社にとって、実に都合の良い制度だ。
 
現在、JR北海道が黄色線区に設けている「アクションプラン実行委員会」は任意の協議の場であり、
自治体に参加応諾などの義務は無い。
しかし同社が今後、「再構築協議会」への移行を要請する可能性は、
頭の片隅に置いておいた方が良いだろう。
 
地活化法の問題点は連載の次回以降検討することにして、
ここでは「再構築協議会」の対象から除外される区間が規定された点に注目したい。
具体的には
《1》特急列車などの優等列車が拠点都市間を連絡し、相当程度の利用がある
《2》貨物輸送サービスの一部として重要な役割を果たしている
《3》災害時や有事に貨物列車が走行する蓋然(がいぜん)性が高いなど、
国とJR各社との間で基幹的鉄道ネットワークの一部を形成する、と確認した区間だ。

 
特急が走り、旅客輸送のシェアも高い宗谷線は《1》に該当するはずだ。
道の鉄道ネットワーク・ワーキングチーム・フォローアップ会議も
「多様な産業が営まれる広大な生産空間を貫き、都市間を結ぶ国土の重要路線」と位置づけた。
ならばその維持費用は、国が負担するよう主張していくのが筋ではないか。
 
地元関係者の間では、赤字減らしに協力するため「普通列車を廃止する」というアイデアもあるそうだ。
都市間の基幹的鉄道網としての特性を維持するために、
生活路線としての機能低下を容認する苦肉の策だ。
もっとも「普通」があってこその「特急」なのだから、
普通列車が廃止されれば、現在の特急は「優等」とは言えなくなり、
《1》の条件を満たさなくなるのでは。

老婆心ながら少し気になった。
 (文章執筆:特別編集委員 鈴木徹 氏)

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