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中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立協定署名式は、創設メンバー57カ国中、フィリピンなど7カ国が署名をしないという屈辱の幕開けとなった。習近平国家主席は「歴史的意義がある歩みだ」と強調するが、実態は中国の「独裁」に近い。調達コストの高さという致命的欠陥が解消されるメドは立たず、発足しても機能不全に陥るとの指摘もある。株価暴落も止まらず、中国経済の危機は続く。
「中国がこれまで主導権を握ってきた国際機関は、竹と籐(とう)の公正な貿易を通じて生産者などの福祉向上を目指す国際竹籐組織くらいのものだった」と報じたのは米経済メディアのブルームバーグ。
29日のAIIB設立協定署名式では、創設メンバー57カ国のうちタイ、マレーシア、フィリピン、デンマーク、ポーランド、クウェート、南アフリカの7カ国は式に出席したものの名前が呼ばれず、署名も見送られ、会場が騒然とする場面もあった。
フィリピンは中国による南シナ海の岩礁埋め立てに強く反発して署名に難色を示している。中国は「国内手続きを経て、年末までに署名することができる」と説明するが、思惑通りに事態が進んでいない状況がうかがえた。
欧米が世界銀行や国際通貨基金(IMF)に強い影響力を持ち、日本もアジア開発銀行(ADB)のかじ取りを握るのに対し、中国の経験不足は際立っている。
ADBなどが出資国や総裁の出身国、本部の場所などでバランスを取っているのに対し、AIIBでは資本金1000億ドル(約12兆3000億円)のうち、中国が最大の297億ドル余りを出資。議決権の比率は26・06%で、重要事項を否決に持ち込む拒否権を握った。本部は北京に置き、初代総裁は金立群・元中国財政次官が有力視されるなど中国だらけだ。
「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」構想をぶち上げ、アジアから欧州にかけてインフラ整備に資金を供給すると威勢がいいが、「実務段階に入れば入るほど、問題が露呈してくる」と指摘するのは、嘉悦大教授の高橋洋一氏。
最大の問題は融資資金の調達コストだ。国際金融機関は債券を発行して融資資金を調達する。そこで「先進国が資金を調達して、途上国に低金利で安く貸してあげるというのが国際金融機関の基本的な仕組みだが、中国が後ろ盾のAIIBは、日米主導のADBなどと比べて1%程度調達金利が高くなってしまう。これは金融機関としては決定的な差になる」(高橋氏)というのだ。
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先進国ではドイツがAIIBに参加するが、出資額は中国、インド、ロシアに続く4番目。英国は10番目にとどまっている。中国の楼継偉財政相が「AIIBに参加するためのドアを開けている」といまも日米に秋波を送るのもこのためだ。
中国は国内総生産(GDP)の総額でこそ、米国に続く世界第2位となったが、金融マーケットは冷徹だ。
「中国が日米並みのコストで資金調達できるようになるには、先進国になるしかないが、それには民主主義の導入や資本の自由化が必要となる。共産党の一党独裁体制では難しいだろう」(高橋氏)
足元の経済状況も危機的だ。上海市場の株価は2週間で2割も暴落。中国当局は昨年11月以来、4度目の利下げに踏み切ったにもかかわらず、30日午前も一時約4%の大幅下落となった。
こうしたなか、内政では反腐敗運動で求心力を高める一方、AIIBによって国内のインフラ投資の資金もまかなおうという習政権の思惑もうかがえる。
ただ、週刊東洋経済元編集長の勝又壽良氏は「市場経済システムに政治が干渉を加える“国家資本主義”では、政治が腐敗する運命から逃げられない。経済成長率低下と政治腐敗の激化によって、政治と経済の両面で“チャイナ・ショック”が発生する恐れがある」と警鐘を鳴らす。
安倍晋三首相は「悪い『高利貸し』からお金を借りた企業は、その場しのぎで未来を失う」と述べたが、AIIBの未来について、前出の高橋氏はこう語った。
「(ADBとの)調達コストの差を見せないようにするには、ドル建てではなく、中国の銀行から人民元で資金を調達して、人民元で融資をするという手はある。ただ、これは融資を受ける国としては非常に使い勝手が悪い。中国国内のインフラ向け融資に活用できても、それで国際金融機関を名乗るのは苦しい。発足後、次第にトーンダウンしてゆく可能性もある」
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