其の参、そして直江津まで
渋峠からの景色は素晴らしかった。
夕方ちかくの2172mの涼しい風とともに、こういった景色が感じさせてくる滋養のようなものがしっかりと体のなかに吸い込まれていった。
さて、ここからは長野県側へのスーパーダウンヒルである。
ジャージの上に薄っぺらいウィンドブレーカーを羽織って、今度は下界に向かって下っていく。
ただそうは言っても、そんなにめちゃくちゃスピードは出さない。いくら自分ではしっかりしていると思っていても、ここまでわずかな睡眠でずっと走り続けてきているのだ。ちょっとしたカーブを曲がり損ねたり、ちょっとした路面のギャップにタイヤをとられたりということもありうる。こういうロングライドに限らず、自転車で大事なのは1に安全、2に完走である。今の僕には命知らずな走りなんてまったく必要ない。僕はまだ死にたくないし、今の僕にはなんとか生き延びることが大事なのだ、そしてそのためにこんなロングライドをしているのだ、と安全確保のために少し過剰な気持ちを抱きながら注意深く、そして楽しみながら下っていった。
しかしこの下りは長かったっス・・・。多分標高差で1600mくらい下ったんじゃないかな。こんな長い下りははじめてだったかも。むちゃくちゃ体が冷えて(もうブルブル、ガチガチ)、ハンドルのポジションを変えようとしたらブレーキを握った手が硬直してすぐには動かなかった。
で、下界に下りてきて最初のコンビニでカップラーメンを食べながら少し長めの休憩。ここで時間的に標高1129mの関田峠を越えて直江津へ向かうのは諦める。とても雰囲気の良さそうな峠らしいから少し残念だけれども、夜走っても意味がないし、それに体力的にももうどこまで持つかわからないですしね。
コンビニでの休憩のあと夕暮れが近づくなか、中野市から飯山市に向かって走り出した。
なんかいかにも日暮れの風景って感じだなぁ。
とてもきれいな風景なんだけど、なんだかどこか寂しいのだ。
コンビニでのカップラーメンだけでは体に力が戻らずに、途中の薬局でウェイダーゼリー2個を補給し(やはりこういうもののほうが吸収が良さそうだ)、
ようやく長野から新潟へ抜ける飯山街道への分岐に到着。ここに来てようやく上越の文字があらわれて、なんだかとてもホッとした。
18:03 ここまで306.08km、AVS21.2km
そして心のなかで終わりの気配が漂いはじめるのを感じながら最後の小さな峠越えへ。
で、峠の手前で日が暮れました。
トンネルの峠に到着したのが18:35。
ここまで312.15km、AVS21km。
もう完全にあたりは真っ暗ですが、ここまで来ればあとは生きて直江津にたどり着くのみ。とにかく心のなかで1に安全、2に完走と呪文のように唱えながら、街灯の一切ない真っ暗闇の峠道を慎重に下っていった。
ここから直江津港までは暗い山道と、交通量の多い上新バイパスとの神経戦だった。そんなにスピードが出せないこともあって、道幅が狭くときおり地元の車がすごい勢いで走り抜けていく山道を抜けるまでの時間はとてつもなく長く感じられ、そして、
ようやく山道を抜けてからは、わかりにくい道路と増えた交通量に悩まされた。何度か上新バイパス(18号)を離れることを試みたのだけれども、そのたびに不安になってまたバイパスに戻ってしまった。ようやく上新バイパスを離れることができたのは、だいぶ直江津に近づいたところだった。
そこから直江津の街を標識頼りに直江津の港まで走った。せっかく江ノ島から走り出したのだから、直江津駅ではなく日本海に面した直江津の港で終わりたいですものね。
そして、
ちょうど20時半に佐渡への船が出る人気のない直江津の港に到着した。それはなんだかとても静かなゴールだった。予想はしていたことだけれども、激しい感動などなかった。けれども素気ない無意味なよそよそしい感覚もなかった。江ノ島からここまで351km。よく走ってきたよ、という自分へのちょっとしたねぎらいと、こんなことを自分に(人間に)させることが可能な自転車への素直な敬意がここまで走ってきて一番に感じたことかもしれない。
江ノ島より351.00km、実走時間16時間37分27秒、平均時速21.1km
でもって、今回の走りは無意味だったのか?もし有意義か無意味かの二者択一で選べと言われたら、僕は多分無意味だというほうを選ぶと思う。圧倒的な時間と圧倒的な体力の消費。冷静に考えれば無意味と言わざる得ないだろうという気がどうしてもしてしまう。けれども、そういう無意味なほうへ振り子の針を振り切りたいというときもあるのだ。
港からは少し馴染みのある道を通って駅に向かった。途中にある学生の時に泊まった旅館は廃業し、直江津の駅は10数年前とは比較にならないくらいに立派になっていた。
そして駅近くの居酒屋でひとりで祝杯?というかねぎらいのビール。
ビールはうまかった!料理についてはあえてコメントも写真もなし。でも縁日の屋台で出すような焼きそばが出てきたのはびっくりした(って結局コメントしている)。
そしてこのあとは駅からちょっと離れたところにある上越の湯という天然温泉の健康ランドに泊まった。温泉に浸かったらビールの酔いもあって、そのまま仮眠スペースで朝まで夢など一切見ない深い眠りについた。正直、体には予想したほどの疲労はなく、ただ心地良い眠気があっただけだった。
そうそう、この上越の湯ではフロントの方にお願いしたら快く自転車を玄関のなかに置かせてもらうことができました。他の自転車は外の駐輪スペースに停めてあったので最初はそこに僕も自転車を停めていたのだけれども、入浴中にだんだんと不安になってきたんですよね。それで頼んでみたら、それはもう快く、自然に、何の押し付けがましさもなく、玄関のなかに置かせてもらうことができた。なんだかすごくありがたく感じた。おかげで安心して眠りにつくことができた。
結局、この日の総走行距離、360.14km。ブリヂストン号とともに頑張りました。ありがとうブリヂストン号。
其の壱、ほんとうに無意味に感じそうになった関東平野へ
其の弐、険しくも美しい天上の渋峠越えへ
渋峠からの景色は素晴らしかった。
夕方ちかくの2172mの涼しい風とともに、こういった景色が感じさせてくる滋養のようなものがしっかりと体のなかに吸い込まれていった。
さて、ここからは長野県側へのスーパーダウンヒルである。
ジャージの上に薄っぺらいウィンドブレーカーを羽織って、今度は下界に向かって下っていく。
ただそうは言っても、そんなにめちゃくちゃスピードは出さない。いくら自分ではしっかりしていると思っていても、ここまでわずかな睡眠でずっと走り続けてきているのだ。ちょっとしたカーブを曲がり損ねたり、ちょっとした路面のギャップにタイヤをとられたりということもありうる。こういうロングライドに限らず、自転車で大事なのは1に安全、2に完走である。今の僕には命知らずな走りなんてまったく必要ない。僕はまだ死にたくないし、今の僕にはなんとか生き延びることが大事なのだ、そしてそのためにこんなロングライドをしているのだ、と安全確保のために少し過剰な気持ちを抱きながら注意深く、そして楽しみながら下っていった。
しかしこの下りは長かったっス・・・。多分標高差で1600mくらい下ったんじゃないかな。こんな長い下りははじめてだったかも。むちゃくちゃ体が冷えて(もうブルブル、ガチガチ)、ハンドルのポジションを変えようとしたらブレーキを握った手が硬直してすぐには動かなかった。
で、下界に下りてきて最初のコンビニでカップラーメンを食べながら少し長めの休憩。ここで時間的に標高1129mの関田峠を越えて直江津へ向かうのは諦める。とても雰囲気の良さそうな峠らしいから少し残念だけれども、夜走っても意味がないし、それに体力的にももうどこまで持つかわからないですしね。
コンビニでの休憩のあと夕暮れが近づくなか、中野市から飯山市に向かって走り出した。
なんかいかにも日暮れの風景って感じだなぁ。
とてもきれいな風景なんだけど、なんだかどこか寂しいのだ。
コンビニでのカップラーメンだけでは体に力が戻らずに、途中の薬局でウェイダーゼリー2個を補給し(やはりこういうもののほうが吸収が良さそうだ)、
ようやく長野から新潟へ抜ける飯山街道への分岐に到着。ここに来てようやく上越の文字があらわれて、なんだかとてもホッとした。
18:03 ここまで306.08km、AVS21.2km
そして心のなかで終わりの気配が漂いはじめるのを感じながら最後の小さな峠越えへ。
で、峠の手前で日が暮れました。
トンネルの峠に到着したのが18:35。
ここまで312.15km、AVS21km。
もう完全にあたりは真っ暗ですが、ここまで来ればあとは生きて直江津にたどり着くのみ。とにかく心のなかで1に安全、2に完走と呪文のように唱えながら、街灯の一切ない真っ暗闇の峠道を慎重に下っていった。
ここから直江津港までは暗い山道と、交通量の多い上新バイパスとの神経戦だった。そんなにスピードが出せないこともあって、道幅が狭くときおり地元の車がすごい勢いで走り抜けていく山道を抜けるまでの時間はとてつもなく長く感じられ、そして、
ようやく山道を抜けてからは、わかりにくい道路と増えた交通量に悩まされた。何度か上新バイパス(18号)を離れることを試みたのだけれども、そのたびに不安になってまたバイパスに戻ってしまった。ようやく上新バイパスを離れることができたのは、だいぶ直江津に近づいたところだった。
そこから直江津の街を標識頼りに直江津の港まで走った。せっかく江ノ島から走り出したのだから、直江津駅ではなく日本海に面した直江津の港で終わりたいですものね。
そして、
ちょうど20時半に佐渡への船が出る人気のない直江津の港に到着した。それはなんだかとても静かなゴールだった。予想はしていたことだけれども、激しい感動などなかった。けれども素気ない無意味なよそよそしい感覚もなかった。江ノ島からここまで351km。よく走ってきたよ、という自分へのちょっとしたねぎらいと、こんなことを自分に(人間に)させることが可能な自転車への素直な敬意がここまで走ってきて一番に感じたことかもしれない。
江ノ島より351.00km、実走時間16時間37分27秒、平均時速21.1km
でもって、今回の走りは無意味だったのか?もし有意義か無意味かの二者択一で選べと言われたら、僕は多分無意味だというほうを選ぶと思う。圧倒的な時間と圧倒的な体力の消費。冷静に考えれば無意味と言わざる得ないだろうという気がどうしてもしてしまう。けれども、そういう無意味なほうへ振り子の針を振り切りたいというときもあるのだ。
港からは少し馴染みのある道を通って駅に向かった。途中にある学生の時に泊まった旅館は廃業し、直江津の駅は10数年前とは比較にならないくらいに立派になっていた。
そして駅近くの居酒屋でひとりで祝杯?というかねぎらいのビール。
ビールはうまかった!料理についてはあえてコメントも写真もなし。でも縁日の屋台で出すような焼きそばが出てきたのはびっくりした(って結局コメントしている)。
そしてこのあとは駅からちょっと離れたところにある上越の湯という天然温泉の健康ランドに泊まった。温泉に浸かったらビールの酔いもあって、そのまま仮眠スペースで朝まで夢など一切見ない深い眠りについた。正直、体には予想したほどの疲労はなく、ただ心地良い眠気があっただけだった。
そうそう、この上越の湯ではフロントの方にお願いしたら快く自転車を玄関のなかに置かせてもらうことができました。他の自転車は外の駐輪スペースに停めてあったので最初はそこに僕も自転車を停めていたのだけれども、入浴中にだんだんと不安になってきたんですよね。それで頼んでみたら、それはもう快く、自然に、何の押し付けがましさもなく、玄関のなかに置かせてもらうことができた。なんだかすごくありがたく感じた。おかげで安心して眠りにつくことができた。
結局、この日の総走行距離、360.14km。ブリヂストン号とともに頑張りました。ありがとうブリヂストン号。
其の壱、ほんとうに無意味に感じそうになった関東平野へ
其の弐、険しくも美しい天上の渋峠越えへ
長距離ツーリングそれも1日で本州横断は自転車乗りの夢ですよ。
私もやってみたいですが、家族もいるので
高速国道でダンプとの併走するのはちょっと厳しいです。
yuzito70さん、冒険家ですね。なんか凄いっすよ。。
感無量ですね。
ただ遠くまで行ってみたかった、それだけのことだと思うんですけど、そのそれだけのことがすばらしいことだなと思います。
おめでとうございます。
利根川辺の道、自転車通行可なのかしら-とか、下りの寒さで手が硬直とか、ろくに寝ないでダンプとバトルとか、ハラハラしました。自転車乗りなら自分も(可能なら)やると分かっていながら、危ないよー、やめなよー、寝なよーと言いたい老婆心。でも、素晴らしい下り、景観、人との出会い-やっぱ、無意味とはほど遠いですよ。Well done!
所で私もレモン乗りです。ヴェルサイユ。最近はいつもこれ。yuzitoさんのレモンは何ですか?
なお、『酒場の』は、『機上の』と全くタッチが違い圧倒的に下品です。TVドラマ「Sex and city」が大人気だった等、アメリカがセックス一色だった時代のものなので。作者の気骨と夢も多少あるけど、あまりお勧めしません。
コメントありがとうございます。そうですね、無意味なんてことはないですよね。無意味という書き方をして、ちょっと反省しています。
高速国道は本当に恐かったです。命あっての自転車なので極力安全走行を心掛けました。本州横断、いつかできるといいですね。そのときはやはり安全走行で!
僕は冒険家なんかじゃないですよぉ。峠を走ることが多いので、そう感じるだけだと思いますよ。
直江津港についたときはホントに自転車ってすごいと思いました。人間を360kmも移動させることができちゃうなんてホントに自転車最高っす!
無事に直江津にたどり着き、無事に帰って来れて本当に良かったです。部屋を出てから、部屋に帰るまでが旅ですからね。
渋峠に着いたときは本当に感無量でした。こんなところまで自走してきた自分が少し信じられませんでした。天気にも恵まれて素晴らしい景色を味わうことができたのもとてもありがたいことでした。
>走るのに意味なんか必要ないです
ほんとにその通りですね。緊張する自分を鼓舞するためにいろいろと考えて「無意味」なんてことばを使ってしまいましたが、結局は純粋に走りたいから走るんだと自分に言い聞かせていたんだと思います。
今回のロングライドはTETさんやmasaさんの影響がかなり大きかったのですが、おかげで素晴らしい経験をすることができました。
本当に完走できて良かったです。最後まで読んで下さってありがとうございます。
自分も似たことをしちゃうのに、人がやっているのを読むとハラハラしちゃうってホントそうですよね。僕もいろいろな人のブログを拝見していていつも同じような気持ちになります。で、そういうのがすごく楽しかったりします。
ちゃり猫さんもLEMONDに乗ってるんですね。僕はブエノスアイレスのフレームだけ入手して、それまで乗っていたキャノンデールの部品を移し変えました。ヴェルサイユもクロモリ&カーボンですよね。はじめて乗ったとき、あまりに優しい乗り心地にちょっと感動しませんでしたか?
『酒場の』さらに興味が増しました。あまりお勧めされなかったということを肝に銘じたうえで、いつか機会があったら読んでみたいと思います。