陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「ナイロビの蜂」

2011-08-08 | 映画───サスペンス・ホラー
2005年のイギリス映画「ナイロビの蜂」(原題 : The Constant Gardener)は、アフリカを舞台にしたサスペンス。妻の死に疑問を抱いた外交官が、真相に迫ります。日本の二時間サスペンスドラマでは、たいがい、弁護士や検察官など専門職が知識を活かして探偵役となる、その謎解きの妙がなんとも楽しいものなのです。が、本作では前半でおおよそ犯人の目星はついてしまうものの、ただのサスペンスにとどまらないメッセージ色の強い作品となっているのが特徴です。

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英国人のジャスティン・クエイルは、園芸が趣味で気性が穏やかなケニアの高等弁務局に務める外務省の一等書記官。ナイロビで愛妻のテッサと共に暮らす。ある日、その妻がトゥルカナ湖近くで黒人の運転手とともに他殺体で発見されてしまう。

ジャスティンは、スラム街の医療活動に励むテッサが以前から親しかった国境なき医師団の黒人医師アーノルド・ブルームを疑うが、彼も事件当日から行方不明。アーノルドが実はゲイだったという証言が得られるいっぽうで、妻の私物のなかから、同僚のサンディから送られた恋文が発見される。その文面から、もと新聞記者であったテッサが何かを嗅ぎつけようとして葬られたのではないか、と疑念を抱くが…。

テッサが裏をとろうとした情報というのが、結核の新薬開発とその治験に絡む陰謀だったというのは、視聴者が薄々勘づくようになっています。妻を殺した真犯人も、身近にいた黒幕だったというのもお約束。

しかし、本作で強調したいのは、白人たちが黒人たちの命を安いものと見ていること。利権のためにアフリカの人びとを食いものにしていること。そして、国境なき医師団や国連といった人道的な団体ですら、規則にがんじがらめにされて目前の飢えて苦しむ子ども一人すら手を差し伸べられないという事実。

ジャスティンは妻の不貞を疑っていた自分をなじり、そしてまた正義漢に燃えた妻の行動をとめられなかった自分を悔い、そしてアフリカの現実に眼を反らして、地図とガイドの案内で国を変えようとするような,上っ面の外交では現地の人びとを誰ひとりとして救えなかったことを悟ってしまうのです。

殺し屋に追われながらも真相を探る旅に出た彼の追いこまれた最後は、なんとも悲劇的な予兆をたたえて終わっています。だが、そのわずか前に、彼が託した希望によって不正が暴かれることでまだしも救われています。
妻がそうしたように、自分も自分の死をかけて、この陰謀を告発せねばならなかった。これ以上、この陰謀を知った人間のいのちが奪われていかないように。そして、アフリカを見殺しにしたつけとして犠牲にならねばならなかった。しかし、いちばんに彼のこころにあったのは、愛する妻の側に行きたいという願いではなかったでしょうか。

序盤がすわ不倫スキャンダルか?!と眉をひそめたくなるようなはじまりなのですが、最後にはひとりの女を愛しきってたくましく見えた男の生き様を感じとれるはずです。

出演は「イングリッシュ・ペイシェント」「シンドラーのリスト」のレイフ・ファインズ、「ニューオーリンズ・トライアル」「ハムナプトラ 失われた砂漠の都」のレイチェル・ワイズ。
監督は、「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレス。

ターコイズブルーをパートカラーにしたふしぎな画調と、陽気なアフリカ民族音楽とが、アフリカの砂漠と太陽のオレンジと融けあってふしぎな風合いを感じさせてくれます。この色調は、ギルバート&ジョージの絵画を思わせて、イギリスの前衛らしさを漂わせてますね。
なぜ執拗にあの青いパートカラーを使用したかは、ラストの湖の場面を見ればいっぺんに解けてしまいます。主人公の命運は最初から、そこに暗示されていたのでしょう。


(2010年11月20日)

ナイロビの蜂 - goo 映画

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