陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「太陽の帝国」

2010-08-14 | 映画──SF・アクション・戦争
1987年の映画「太陽の帝国」は、なんともいかめしく、かつ古めかしいSF映画のようなタイトルなんですが、じつは日本の太平洋戦争を扱ったもの。といっても、舞台は上海ですが。

太陽の帝国 特別版 [DVD]
太陽の帝国 特別版 [DVD]おすすめ平均 stars少年の目線で見た戦争stars純粋なる友情は生への執着を産むstars太陽の帝国stars戦争で変貌する少年の心stars主役の少年に拍手Amazonで詳しく見る by G-Tools



1941年、上海の裕福な家庭で育った少年ジェイミーは、日本軍の零戦に憧れる無邪気な少年だった。
だが、上海に日本軍が侵攻。混乱し逃げ惑う群衆の中、両親とはぐれてしまった少年は、米国人ペイシーに保護されジムと名乗る。ペイシーらと共に収容所に送還されたジムは、そこで逞しく生きのびていくのだった。

あのエンターテインメント作品を世に出しつづけたスピルバーグ監督が、反戦という重いテーマを掲げた一作。なのですが、この少年の態度があまりに夢想家じみていて、戦争の悲惨さがあまり伝わってこない。
さらにいえば「ラストサムライ」でもそうですが、日本の軍人の描き方。零戦に乗り込むのに日本刀持ってたり、打ち掛けみたいな(というか経帷子というべきか?)白い着物を寝具にしていたり、皆目よくわからない。そして、零戦に乗り込む少年の謎めいた微笑み。日本人からしてもインドのストリートチルドレンの微笑みが魅力的に見えるようなものだけど、不気味すぎる。海外からみた日本人像がこんなものなのでしょう。

そして、全編いったい何を訴えたいのかよくわからないエピソードの数々。
ペイシーとの擬似的父子関係でもなし、原爆を幻想的にとらえた少年への皮肉でもなし。さらには最後は、親子の再会が用意されているけれど、これも唐突すぎます。
主演の金髪に色白、幸福な想い出をもつ少年が戦争に巻き込まれるという設定が、どこかしら、あのアンドレイ・タルコフスキーの名作「僕の村は戦場だった」に感化されているような気もします。とくに沼地を浸かりながら進むあたりのシーン。

原作はイギリスの小説家J・G・バラードの体験に基づく半自伝的な長編小説。

主演のジム少年に「サラマンダー」のクリスチャン・ベール。ベイシー役に「プレイス・イン・ザ・ハート」で盲目の下宿人を演じたジョン・マルコヴィッチ。「仮面の男」で、三銃士のアトスを演じてもいますね。
伊武雅刀やガッツ石松らも日本の軍人役で出演しています。

おなじく反戦を訴えた映画として「シンドラーのリスト」が挙げられますが、本作ははるかに劣ってしまう出来映えだとしか思えないのでした。

しかし、実際に、日本人でも少年時代に軍国教育に慣らされた方々は、この少年のように戦争をヒロイズムのように捉えていたのでしょうね。

(〇九年八月二十八日)

太陽の帝国(1987) - goo 映画


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「史上最大の作戦」 | TOP | 映画「父親たちの星条旗」 »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 映画──SF・アクション・戦争