陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「僕の村は戦場だった」

2009-12-05 | 映画──SF・アクション・戦争
私は邦画よりも洋画が好む。洋画といっても娯楽色の強い大作よりも、どちらかといえばミニシアターで上演されているような、あまり知られていない作品のほうが好きだ。
最近凝っているのは、モノクロの古い洋画。最近作でも、辛気くさいと敬遠されがちなヨーロッパ、とくに東欧世界をあつかったものがいい。資本主義的な商業利益を追求していないとは言い切れないが、監督のやむにやまれぬ内情から映像として生まれざるをえなかった。そんな作品が多いのである。安っぽいファンタジーや恋愛ものを観るぐらいなら、歴史の証言者の真摯なまでの叫びに私は耳を傾けておきたい。
今年観た中で最高だったと思える、ロシアの名作を紹介しよう。

「僕の村は戦場だった」は、ロシア映画界の巨匠アンドレイ・タルコフスキー監督の長編デビュー作としてあまりに名高い。1962年のヴェネチア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞受賞作である。
これと対極的な位置にあるのが遺作の「サクリファイス」
どちらとも冒頭とラストに、少年と木がでてくる。だが、口の利けない少年と彼をとりまく世界に奇跡がもたらされる後者に対し、前者の最後はあまりにも悲しい。少年が海辺に立つ枯れ木をめざしてまっしぐらに走り抜けるシーンは、もはや夢想でしかないのだから。

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舞台は、第二次世界大戦下の旧ソ連。冒頭はとても美しい調べではじめられる。
少年がうたかたに夢見たのは、光り零れる草原での母と妹との幸福なひととき。目覚めたとき、彼の故郷はもはや戦場だった。
わずか12歳のイワン少年、家族の仇討ちのため、ドイツ軍に潜入し少年斥侯兵として暗躍。ガリツェフ上級中尉をはじめ司令部の三人の軍人が親代わりとなってくれる。口うるさく幼年学校行きを勧められるも、イワンは拒みつづける。復讐心は、幼い者にかたくなまでの愛国心を芽生えさせた。
敵軍への総攻撃の日、対岸の情報探りのため、ホーリン大尉と兵士のカタソーニチに、イワンが伴われることになった。しかし、カタソーニチがすでに撃たれてしまっても、若きホーリン大尉はその死を少年に告げることができないでいた。対岸で別れたイワンはその後行方が掴めなくなってしまう…。

やがて、終戦を迎え、ソ連軍は勝利を得た。しかし、生き残ったガリツェフ上級中尉たちは、ナチスのソ連捕虜処刑記録のなかに我が子のように可愛がった少年の写真を見出す。
戦争で女子供が犠牲になるのは常だが、過激な演出で酸鼻を極めるシーンを披露することなく、悲劇を匂わせるラストがいい。

「サクリファイス」はあまりにも冗漫でカメラ回しが遠すぎてわかりづらかったが、本作は、美貌の少年の真理に迫るように、かなり接近したカメラワークを展開。どことなく、そのカットは、タルコフスキー監督が敬愛してやまない黒澤明のそれを思い起こさせる。

井戸を覗きこむシーン、木が乱立した川岸、雨に打たれながら走る荷馬車、そしてラストの渚など、水が象徴的に用いられている。映像の詩人と呼ばれるタルコフスキーの仕掛けは、あのモノクロだからこそ生きていると思われてならない。


僕の村は戦場だった(1962) - goo 映画

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