陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

ビジネス書、どいつもこいつも同じ顔してやがる

2023-08-20 | 読書論・出版・本と雑誌の感想

若い頃は絶対に読まなかった、むしろ毛嫌いしていたのが、いわゆるビジネス本。
30代前後まで、小難しい論文を読み漁っていた私は、こうした一般人が読むものを俗物だと見下していました。そんな高尚ぶった態度が長じて、転職をくりかえす原因になるともしらずに。

私がビジネス書なるものの読書の大切さを知ったのは。
『働く君に贈る25の言葉』という本に出会ってからです。東レの経営者だった佐々木常夫氏のベストセラー本ですね。こういうことを言ってくれる上司がいたらな、という思いで当時は読んでいました。ただ、今となってはややお説教くさいとも感じられます。

現在では実に多くのビジネス書が出回っていまして。
だいたい読みやすいのはパワポなどで図表入りになっているような、見開きでわかりやすい、二色刷りのタイプですね。「自分を変える」「仕事ができる」「最強の…」「メンタルを鍛える」「高速仕事術」「…がよくわかる」「…の方法」「ビジネスマナー」「お金が稼げる」などなど、いかにもへっぽこ会社員がうっかり手を伸ばしたくなるようなキャッチーなタイトルがついています。

でも、あちこち、手を出したあげくに気が付いたのは。
こうしたビジネス書、人生指南書のほとんどが、その源流に古典があるということです。

日本で言うならば松下幸之助の本。海外ならばデール・カーネギーの『人を動かす』『道は開ける』など。漫画にもなったスティーブン・コヴィーの『七つの習慣』やナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』も有名ですね。すべて目通ししたわけではありませんが、たいがい、日本人が書きがちなビジネス書のたぐいは、海外の古典の二番、三番煎じだったりするもの。

ならば、その原典の本を図書館で借りるか、中古で安く買えばよいのでは、と思ってしまいます。
日本で生き方セミナーなるものを主催する方々は、精神科医だの、作家だの、あるいはもと就活コンサルタントだの、会計士だの、学者だの、さまざまな肩書きがある方がいますが。ただ、その本業がいささかうさんくさくて、ただ文筆業のほうに逃げたのかな、と思しき気配があります。

といいますのも、そうした後発のビジネス書がどれも同じような切り口で。
文献を抜き書きしているだけで、その著者の実体験からくる言葉ではない本は軽く感じてしまいますよね。

こんな程度のことで動画収益をあげたり、セミナー開催して集金してもよいのだろうか、と思うぐらいのレベルです。正直、文献を抜き書きしているだけで、その著者の実体験からくる言葉ではない本は軽く感じてしまいますよね。

教養がある人にありがちなのが、良く読書をされているのか、すぐに引用文。
その引用さえあればよくて、後の解説文は解説の意味をなしていないこともあります。

あとは、昔のビジネス書、とくに海外のそれは様々な立場の人の意見がかいま見え、著者自身にもいくばくかの苦労と謙虚さがにじみ出ているものでしたが。近年のそれは、著者の存在感が前面化されすぎているのか、物知りのワタシがこんなことを教えてあげますよ、ね、スゴイでしょ、という尊大な自尊心を感じて、いささか読むのが重いと感じることがあります。

そもそも、生き方を迷う人を集めてセミナーを開いたり、本を売ったり、は一歩間違うと、新興宗教に誓いあり方で怖いものがあります。タレントぶっているといいますか。

こうしたビジネス書の著者が、最近は何でも屋になってきて、マスコミで専門外のことにコメントを入れていたりするのもよく見かけます。

でも、いちばんの問題は、こうした類書をなんども、なんべんも、似たものばかり揃えてしまう読者としての私のありかた。
この手合いの本ばかりコレクションしたがるのは、自分の人生に自信がないからでしょう。そして、身近にお仕事の作法だとか、心がまえだとかを、働きながら仕込んでくれるような先輩や上司に出会えなかった事ことでしょう。

昔は、同業者やら、ムラ社会やら、大家族のなかで、生き方だとか、働くことの大切さだとか、そういったことは身持ちを崩さぬように教え諭してくれるひとがいたのではないでしょうか。お寺の住職や神職などがその役割を担っていたはずなのですが、いつのまにか、サラリーマン的になり、ひとを導くということをしなくなった。もしくは学者や教師にしたところで、市井のひとにまじってソクラテスのように雄弁な話術で哲学をひろめるでもなく、学校の中に閉じこもってしまったのが原因ではないでしょうか。

雨後のタケノコのように、うさんくさい、ナントカかんとかライフアドバイザーみたいな方の活躍を見ますと、正直、彼らの著作はどこまで信用していけばいいのか、考えてしまうこともあります。

そして、こうしたビジネス書を読んだだけで、なんとなく自分の血肉になった気がして。
なのに実行できてもいないのに、自分がさも仕事ができそうにふるまってしまう自分の愚かしさを発見した気がしてうんざりしてしまうのです。なので、もう、この類のビジネス書は厳選して処分してしまうことに決めています。ただ読みやすく保存状態が良いのは、誰かにあげてもいいのかもしれません。なので、極力、これは手元に永久保管と決めたのでない限りは書き込みはしないことにしています。

ダイエット食品や健康グッズを買い集めて、けっきょく活用しないで挫折するのと同じですよね。ビジネス書依存には気をつけましょう。

(2022/07/23)





この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 人生初で人生最後にしたい大... | TOP | 神無月の巫女に関する記事の... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 読書論・出版・本と雑誌の感想