「まあ、あいつが今、ここにいないのなら致し方あるまいな」
「そうですよ。ぶっちゃけ、予算がないから、僕たちみたいな旧版DVDの表紙も飾れないようなBL担当のカスキャラに花をもたせようとしてるんです(爆)だから、ふたりのほうが好都合なのかも」
「はっきり言ってくれるね。それじゃなにかい、広報の経費削減のために、ギャラの安い私たちを呼んだのかね?」
「いまさら、気づいたんですか? 担当エッヂのたくらみです(どキッパリ)」
「……そうだったのか」
がっくりとうなだれる大神カズキ。さて、その肩を叩いて励ますのは、ユキヒトである。
「なんでも、先に制作した、しょーちゅーぶなるところで発表したCMが、かなりの不評だったようで。つくりなおしになったそうですよ」
「それは聞かされていたが。私たちで事足りるのかね?」
「まあ、その価値を生むのはこれからですよ。僕たちの双肩にかかっています」
ユキヒトは、ADから渡されたモバイルPCを開いた。どこかのボタンを押すと、OSが起動する稼働音が響いてくる。
「おや。なんだね、それは?」
「モバイルPCですよ? え~っ、また、知らないんですかぁ? 時代遅れだなぁ、先生は。フィギュアは持ってたくせにぃ?やっだぁ~、うっそぉ~。サイアクぅ~」
機械オンチのオヤジを侮る女子高生みたいな、オーバーな驚きのユキヒトは、師匠をここぞとばかりに小馬鹿にする気まんまんである。ケータイの顔文字の種類をわきまえているとか、マニアックな画家の人生を抜きん出て覚えているとか、かなりどうでもいい知識の多さだけを誇っている姿勢はいかがなものか。
「し、失敬な!ぴ、ぴー・しーぐらい知ってるよ!わ、ワープロの親戚みたいなものだろう?」
「いや、違います。親戚どころか、進化形ですよ。アウストラロピテクスとホモ・サピエンス・サピエンスぐらいの開きはありますね」
「そんなに、違うのかね?!(驚)」
「もっと多機能なんですよ。先生、なんだか 必死ですね。ウフフ、かわいいな~♪」
子どもを手玉にとるような口調で言われて、カズキもなんだか悔しい。ユキヒトは、テントウムシを立体にした手のひらサイズの装置を手にしながら、さも嬉しげに問いかける。
「はーい。こちらをご覧くださぁーい。そこのカズキくん、このマウスはどう使うのか、ご存じですか~あ?ほら、言ってごらん。ん~?」
「耳にあてるのかい?音声が聞こえてくるとか?それとも、マウスというからには口にあてて、マイクになるのかね?」
「……」
「…おい、ユキヒトくん?」
「……原始人…(ぼそっ)」
聞くなり、ユキヒトは顔を強ばらせたまま、モニタのほうへ視線を落とした。洩らしたのは、そのひと言のみ。周囲にどよ~んとした重い空気が漂っている。
青い画面の反射が、青年の横顔を白くさせて、その洩らした声の冷たさを増していた。かなり、恐い。
「…ぬッ?! いま、地獄少女らしき掠れた女の声が聞こえたんだが、気のせいかい?」
「志摩子かわいいよ志摩子。気のせいでしょう。いっぺん死んでみたら、おわかりになるかと」
「ぶっそうなこと言わないでくれ」
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