氷上の踊り子、バンクーバーで大躍進

浅田真央選手とキム・ヨナ選手の宿命のライバル対決を挟んで、日本勢も健闘の演技を見せた。

第三グループで登場したのは、鈴木明子選手。
フリーの演目はもうおなじみとなった、 「ウエスト・サイド物語」
恋と若者どうしの抗争との板ばさみになった、下町娘マリアをみごとに演じきる。このミュージカルが好きな方には、レナード・バーンスタインの名音楽を聴いただけで楽しくなるステージ、観客席の声援におされて鈴木選手はにこやかに踊る。
苦節七年を経て辿り着いた晴れ舞台、遅咲きのヒロインが手にした滑らかなスケーティング、深いエッジワーク
そして軽やかなストレートラインステップは、日本女子三番手の存在感を示した。
自身の目標となる合計181点を得て、八位入賞。

三人だけがのぼる表彰台の、その真ん中すらをも狙って、世界三大美女のひとりクレオパトラに扮したのは、安藤美姫選手。衣装は露出が多く見える、ターコイズブルー。曲は「マルコポーロ」より「ローマ」
四年前のトリノで四回転ジャンプに固執して惨敗した反動からか、今回は三回転・二回転の連続ジャンプという無難な攻め。ジャンプはすべて決めたが、スピード感と演技のキレが欠け、合計188.80点。メダル圏内かと目されたが、五位に終わった。
しかし、悔しさが残りつつもインタビューではさわやかに答えていたのは安心した。涙で声を詰まらせた浅田選手とは対照的だが、四年前から過剰にトリノの痛手を突つかれて、肩の故障も抱えた安藤選手の健闘は讃えたいもの。準優勝したフィギュアスケートGPファイナル（「氷上のサバイバル最終章」参照）では、SPでキム・ヨナ選手を抑え首位に立ち、日本女子でも浅田選手より先に五輪内定をものにした実力者。あの迫真の演技が忘れられないのだが、今回はその本分を発揮できなかった。五輪前から不調だったらしく、肌の色あいからしてもそれが感じられた。
下世話な意見だが、クレオパトラになりきるために敢えて肌を焼いたのが、体調に響き、さらには白人の審査員にも評判が芳しくなかったのではないか。さらにいえば、彼女の所属するトヨタが、リコール問題で不評をかこっていることが災いしたか。

カナダ代表のジョアニー・ロシェット選手は、今大会で話題をあつめた選手だった。開幕直前で急逝した母に捧げた渾身のステージ。曲目は、サン＝サーンスの「サムソンとデリラ」
SPでは浅田やヨナに比べると小ぶりだが、正確を期す滑りで70点越えの三位。フリーではややバランスが崩れた箇所があったものの、銅メダルの位置を保った。1988年のカルガリー五輪以来のメダルを、祖国カナダにもたらした。

さて、女子シングルのトリを務めたのは、日本人の両親をもつ米国籍の長洲未来選手。
真紅に黒い縁取りを胸にあしらった情熱的な衣装で登場、曲は「カルメン」
肩のつかい方がうまく、動きがしなやか。ジャンプはまったくノーミス。順位をSPから一挙に四位にあげた。弱冠十六歳の初舞台、しかもフィギュアスケート王国アメリカの代表で、この大活躍。SPの演技から感じていたが、四年後にはまちがいなく太平洋の西側へとメダルを取り戻そうとする抵抗勢力となるホープに成長するだろう。

六位はおなじく米国代表の18歳、レイチェル・フラット。七位はフィンランドのレピスト選手。
八位までの入賞選手の顔ぶれは、金メダルを筆頭に五人がアジア勢。ロシェット選手は唯一の白人メダリストだったが、24歳。トップを争ったのが、19歳の日韓の女王。このふたりの対決はとうめん続きそうだが、四年後の長洲選手がどれほど伸びを見せるか。

鈴木選手も安藤選手もまだスケートを続けるといい、ソチ五輪をめざす可能性もある。
全日本選手権でフレッシュな演技力で注目されたジュニア女王、村上佳菜子選手（「氷上のシンデレラ、バンクーバーへ邁進！」参照）など、ポスト真央世代も堅調。
キム・ヨナ選手に隠れているが、もう一人の韓国女子代表クァク・ミンジョンも、なかなかいい演技を残した。まだ16歳、ヨナ選手の高校の後輩にあたるが、今年行われた韓国フォギュアスケート選手権で優勝を果たし、五輪出場が決まった注目株。
アジア勢の躍進は今後も続きそうだ。

国策でスポーツ振興に手厚い韓国は、現時点で金メダルを六個獲得。それに比べて日本はゼロ。才能のある若者に支援を惜しむと国が衰退するのではないだろうか。


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