陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

氷上のライバル、バンクーバー決戦

2010-02-28 | フィギュアスケート・スポーツ
多くのフィギュアスケートファンは、この対決を観るために四年間待ったに違いない。日韓の舞姫、宿命のオリンピック対決。
バンクーバー五輪フィギュアスケート女子シングルも、男子シングルに続き、歴史に刻まれる熱戦となった。制したのは、前評判どおり、やはりキム・ヨナ(金 姸兒)選手。

最終グループ、安藤美姫選手の直後に、登場したキム・ヨナ選手。公式練習ではジャンプでミスがあり苛立ちをリンクにぶつけていたらしいが、本番では微塵も乱れを感じさせなかった。
曲はジョージ・ガーシュウィンのピアノ曲「ヘ調の協奏曲」、衣装は目の醒めるようなブルーに装飾はすくなめ。首を飾るのはシルバーの装飾だが、首にかけてもらいたいメダルの色はもちろんゴールド。彼女の狙いは、四分半後の演技終了時点でほんものになった。
ダイナミックだったSPとは正反対に、湖面を静かに羽ばたく鳥のような穏やかな演技をみせる。穏やかとは評したが、ひとつひとつの技の完成度は高い。途切れることのない、流麗なスケーティングに観客はのみこまれていた。
判定は、本人すら驚いたという150.06点。男子並みの高得点、合計で228.56点で優勝。
もちろん女子の記録では世界最高記録更新。これを破る者は半世紀現れそうにないのではないか。いるとしても、おそらくキム・ヨナ本人だけではないか。

驚愕のハイスコアに湧く場内に、敢然と躍り出たのは、日本女子のエース浅田真央選手。
おなじみの薔薇のような赤に、濡羽がらすを思わせる黒の衣装。ロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフの前奏曲「鐘」は、重く暗い曲調。静のヨナ選手に比べると、動の浅田選手。解釈が難しい難曲にあえて挑んだ。
注目された前半の二回のトリプルアクセルを完全に決めた。とくに初回の三回転半は、トルネードのように上昇していく高さがあった。SPとあわせると、計三回のトリプリアクセル成功は、誰にもないしえない偉業。
しかし、惜しまれるのは後半。三回転フリップ・二回転ループ・二回転ループの三連続ジャンプのひとつめで、わずかに乱れた着氷。ミスは重なり、氷上にエッジがひっかかって、三回転のはずが一回転トーループになった。その後は調子を戻して演技を終えたが、二回のミスが響いてか、131.72点の不本意な成績。合計205.50点は自己最高をマークするも、銀メダル。

しかし、仮に二回のトリプルアクセルを決めた浅田選手にミスがなかったとしても、キム・ヨナ選手の優位は揺るがなかったとされる。まずヨナ選手の演技は、全体に隙がなくきれいにまとめられている。浅田選手の場合、トリプルアクセルに跳ぶ直前の踏切で力を溜め込むために、演技がぞんざいになっている部分がみられる。ヨナ選手の場合は、この演技の「穴」がなく、観る者をたらし込むような表情や、上体の捻り、手足の動きがやはり変化に富んでいる。フリーの演技は浅田選手のほうが派手に見えるが、細かい技巧に凝っているのはヨナ選手。

さらに、男子シングルの四回転論争(「氷上のエース、初快挙!(前)」参照)のように、単純に技術点よりも芸術表現力が勝っていた、では片づけられないようだ。
ヨナ選手はジャンプの技術点でも、浅田選手を上回っており、とくに加点が増したのは最初に跳んだ三回転ルッツから三回転トーループにはいる連続ジャンプ。後ろ向きからのルッツを昨年から浅田選手は苦手としており、プログラムに含めなかったという。
大技を繰り出しこそしないが、滑らかにか軽やかに、妖精のような身のこなしで表情を舞ってみせるキム・ヨナ選手に、トリプルアクセル頼みだった浅田選手は、まだ敵わなかった。

ジャッジに韓国人やカナダ人がいて日本人がいなかっただけに、…と野暮なことは口にしたくはないが。ひとつ気になったのは、浅田選手の靴の刃がひっかかったというリンクの穴。直前のヨナ選手の演技中に氷の破片が大きく飛んでいたので、製氷が不備だったともとれないのだろうか。

カナダ人コーチに師事し、流暢な英語でインタヴューに答えるキム・ヨナ選手。練習の拠点はカナダのトロントで、アジア人ながら北米社会に馴染んでいる。フリーの演技曲はアメリカ音楽の基礎を築いたとされるガーシュウイン。
いっぽう、浅田のコーチはロシア人で、曲も十九世紀のロマン派音楽の古くさい響き。振り付けも曲に併せて没個性的にみえる点で、演技点の評価に不利に働いたといえなくもない。60年代の反共を引きずっているのでは、とすら考えてしまう。逆にいえば四年後のソチでは判定に有利とみえるのだけれども。

三月にトリノで行われる世界選手権は、浅田選手の挽回の機会となるか。
四大陸選手権・バンクーバー五輪につづいての三連続制覇の夢は断たれたが、19歳で大技を三度も成功させたのだから、今後どんな記録を打ち出すかはわからない。

なお、エキシビジョンは本日の午後四時からNHKで放映されるようだ。
エントリーは五位以上なので、残念ながら日本人では銅メダルの高橋大輔選手、浅田選手、そして五位の安藤美姫選手しか観られない。ペアダンスで惜しくも四位に沈んだ、ロシア代表の川口悠子・スミルノフ組も登場とのこと。


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