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陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「ガンジー」

2010-11-20 | 映画──社会派・青春・恋愛
1982年の英国・インド合作映画「ガンジー」(原題 : Gandhi)は、その名の示す通り、インド独立の父、「偉大な魂」と呼ばれた指導者マハトマ・ガンジーを扱った伝記映画。これも学生時代に観たことのあった名画のひとつ。とても感動を覚えた大作だったが、今観なおすと単純に喜べないような視点が随所に浮かんでくる。

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話は1893年、ガンジーの青年時代からはじまる。
ロンドンで教育を受け、南アフリカに赴任した若き弁護士ガンジーは、そこで人種差別の洗礼を受ける。憤慨した彼はインド人移民を募って身分証を焼き捨てる行動に出た。これが、彼の提唱する「非暴力・非協力・不服従」のはじまり。
やがて、1915年。
インドに帰国した彼を待っていたのは、イギリスからの独立をもくろむインド人の指導者たち。温厚だが弁の立つガンジーの演説は人気を集め、いつしか彼は独立運動の先陣となっていく。

ガンジーが相手としたのは、ただ英国のみではなかった。
ヒンズー教徒と回教徒との根深い対立、そして女性差別や古くからのカースト制度。こうしたインドに巣食う内戦状況を察し、宗教や性別、階級の差を超えて一丸となって、英国からの自治を勝ち取ろうと呼びかける。そのために彼が起こした運動は、英国産の衣服の不買や独占状態の製塩事業へのボイコット。みずから糸を紡ぎ、塩をつくるために海を行進。軍事制裁に屈することなく、幾度も投獄されても非抵抗の精神を貫きつづける。
しかし、インドが独立したのもつかのま、国内の宗教間の紛争は絶えず。1948年、ガンジーはヒンズー教徒の青年の銃弾に倒れてしまう。

青年時代は英国紳士然とし一等車に乗ることを許されると思っていたガンジーは、「炎のランナー」のユダヤ人陸上選手や「クラッシュ」の黒人刑事のように、エリート階級になりあがることではじめて白人と同じ扱いを受けたことで、差別から逃れようとした人びとと同類だったはず。「アラバマ物語」のグレゴリー・ペック演ずる弁護士が気づいたように、同じ民族でありながら階級差が生まれる精神構造こそが差別を助長していることに、ガンジーは気づいたのだろうか。
一等車両を追い出された青年は、その後、民衆の立場に添って三等車に乗り続け、衣服も着の身着のまま。その姿勢はどこか尊大ぶっていた指導者仲間にも影響を与えた。

目には目を、歯には歯をで、暴力に暴力を持ってすれば報復が永遠に続く。憎悪の連鎖を断ち切り、さらには自立のために労働にこそ人生の幸福があると教えた彼の言葉はすばらしい。

だが、しかし。紛争が収集できなくなると、引きこもって断食に訴えるというのは、現代にあって正しい対応だったのだろうか。一国の首相などがもちろん、こうしたことをすることは許されない。しかも、ガンジーが人気があるからこそできることであった。失礼ながら、どこかしら、スターに祭り上げられた老人という気がしないでもない。
その意味で、彼の無抵抗精神が核爆弾を抱えた戦争のある現代に、通用できるのかどうか疑問の余地が残ってしまう。単なる偉人を讃えた映画という見方でのみ終われない理由はそこにある。

彼の理念でいう非暴力とは、暴力には暴力では応じない。しかし、泣き寝入りもしないという信念を貫く姿勢だったはず。晩年、無言の断食で訴えた彼の行為は、みずから自殺にもちこんでいるようなもので、あまり頂けない。
しかし、それは国民が彼を思う心、すなわち愛を引き出し、それによって紛争の沈静化をもたらした。

主演のベン・キングスレーは、生粋の英国人(インド人の血は引いてるらしいが)。年経るごとに日焼けして、風貌も本人に似てはくるが、半裸になるとどうしても肉付きのよさが目立ってしまう。痩身に鞭打って動く貧相な身なりの指導者からは、すこしだけほど遠い。

さらにいえば、英国人の残虐非道ぶりよりも、どちらかといえば後半のインド人どうしの暴動の描写のほうが激しく感じられた。
支配者側の英国人は紳士的で、ガンジーには好意的に装っている。いっぽう、現場でインド国民に制裁を加える役は、同じインド人の警官。英国人が自治を譲り渡したとたん、民族間の虐殺が勃発した部分を強調し、キリスト教国家でない野蛮なアジア人種は血も涙もないという印象を与えてしまっているのではないか。
それは、ガンジーのお世話をするイギリス人提督の娘ミス・スレードや、美貌の女性カメラマンの存在(彼女の撮影行為はじっさいには、かなり迷惑をこうむるものだったらしい)が華を添えることからも伺える。

すなわち、これはインド人の独立を戦った英雄ではなく、英国と友好的なインド人の生涯に迫った、じつに英国にとっては都合よく美化された映画である。そして、ガンジー自身もマスコミ嫌いだったはずだが、当時の『ライフ』誌などジャーナリズムによって神格化された存在だったといえようか。

さて、最後に思いいたるところは、ガンジー老を亡くして半世紀後の世界が、はたして非暴力の精神を持って、紛争の解決にあたることができたかどうか。まちがいなく、ノーだといえる。しかも、多民族間の内戦の収拾を図るために欧米列強が支配権を獲得し、事実上植民地統制を敷く状況は、ベトナム戦争、イラク・イラン戦争や、ボスニア戦争などなど枚挙に暇がない。

監督は「遠い夜明け」のリチャード・アッテンボロー。「ジュラシックパーク」や「34丁目の奇跡」など好々爺の役で知られる男優。
本作は第55回アカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞など八部門を制覇。エキストラの数だけでも圧倒される、見応えのある大河ドラマである。
主演男優賞を受賞したベン・キングズレーは、「シンドラーのリスト」で助演している。
新聞記者役を演じたマーティーン・シーンは、F・コッポラ監督の「地獄の黙示録」の主演ウィラード大尉で知られている。

(2010年3月9日)

ガンジー(1982) - goo 映画

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