陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「告発」

2014-01-18 | 映画──社会派・青春・恋愛
1994年の映画「告発」(原題 : Murder in the First)は、殺人犯の弁護を引き受けた新米弁護士が苦闘する法廷サスペンス。99パーセント勝ち目がないような審理に挑み、真実を引きずり出す裁判劇は、1962年の「アラバマ物語」「十二人の怒れる男」「ニューオーリンズ・トライアル」など、訴訟国家アメリカならではの得意ジャンル。しかし、本作が異色なのは、これが実話に基づいているうえ、弁護士が訴えたのが刑務所だったという事実。単に冤罪を暴いて勝利するドラマではない、なにかを考えさせてくれます。

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1941年のサンフランシスコ。
ハーバード大新卒の若き弁護士ジェームズ・スタンフィルが初めて依頼されたのは、アルカトラズ刑務所内に服役中のヘンリー・ヤングの官選弁護。ヤングは所内で囚人仲間をスプーンで刺殺した罪に問われていた。
明らかに有罪判定が下るも時間の問題の審理、しかも依頼人であるヤング自身が事件について重く口を閉ざしたままで、聴取もはかどらない。
しかし、足繁く通うジェームズの誠意にほだされて、しだいに心を開くヤングから聞かされたのは、三年にも渡る違法な地下牢での監禁と、おびただしい拷問の事実。貧しいヤングは少年時代小銭を盗んだだけで投獄され、不当に拘束され続け、一度だけ脱獄を図ったことを理由に、みせしめにひどい虐待を受けていた。

その真相に義憤したジェームズは、逆に刑務所での虐待が殺人を犯させたのだとして、副所長グレンらを告発する。

ジェームズの勇気ある行動は、しかし、大きな波紋を呼んでしまいます。世界中から羨望視されている合衆国の司法制度、脱獄を許さない鉄壁の刑務所を非人道のナチの収容所まがいに糾弾することは、国じゅうを敵に回したようなもの。彼のただひとりの肉親で、有能な弁護士である兄すら妨害に乗り出し、恋人の気持ちも遠ざかっていきます。
檻の中で親睦を深めたジェームズとヤングには友情がはぐくまれますが、じつはその感情こそが、ヤングが勝訴に向かわせるのをためらわせてしまいます。

最終的には逆転判決を勝ち取るも、ふたりには悲しい別れが。
けっして仁義に熱い才ある弁護士のヒロイズムを描くに終わったものではない。ジェームズは勝ちにこだわって、ヤングの気を惹くために売春させる手口もつかっていて、囚人の気持ちの寄り添う素振りを見せながら、仕事の道具としか扱っていない態度も感じられます。いっぽうで、孤立無援の状況で、肝心の依頼人からもいっとき勝訴への士気を挫かれそうにもなってしまう。
ヤングは悲惨な境遇ではあるけれど、やはり殺人を犯したことは拭えない罪科。しかし、そう考えてしまう自分は、こんなに極限状態の精神に追いやられたら、やはり罪を犯さないでいられるだろうか。いろいろ考えてしまいますね。

このドラマに登場するすべての人物は、誰もまったき正義感の持ち主ではありません。誰しもが大なり小なりの罪に問われているといえましょうか。
裁判にかけられたのは、虐待をした副所長と、それを見逃した所長でしたが、その事実を映画化することによって、われわれ観る者の、囚人に対する偏見も訴訟にかけられているといわざるをえません。

主演は「薔薇の名前」「トゥルー・ロマンス」のクリスチャン・スレーター。
囚人ヤングを体当たりで演じたのは、「インビジブル」「アポロ13」「JFK」のケヴィン・ベーコン。ウィレム・デフォーもそうですが、哀愁の漂う悪役顔ですね。
監督はマーク・ロッコ。

(2010年2月24日)

告発(1994) - goo 映画



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