「何をいまさら。きょうはね、僕たち、記念すべき神無月の巫女DVD-BOXのCMを仰せつかったわけですよ。栄えある大役ですよ。胸をはってやらなきゃ、ソウマさんたちに申し訳ないじゃないですか。僕らにできることは、せいぜい、DVD-BOXのキャンペーンをすることぐらいだ!」
「いや、でも、この姿で…ようちゅーぶ、とやらに全国中継されるんだろう?」
「You Tubeですよ、先生」
隣の軽薄そうな青年は、巻き舌をつかって、艶のあるアクセントをつけて発音。あきらかに、横文字に不慣れな化石のような学者ふぜいを、小馬鹿にしたような態度がうかがえた。
「全国どころか地球上の全人類がご覧になってます。しかも視聴者の大半は、シュミが腐ったもうステキな日本男子と百合妄想が大好物なアブナいお姉さんがたです。イヤン、はずかちぃ~♥」
白い袖で顔を覆って乙女らしい大仰な、はじらいのアクション。ユキヒトのしぐさに、カズキはげんなりしていた。
「だったら、なおさらだよ。なにゆえ、私と君がおそろいで巫女服コスプレしなきゃならんのかね?!」
「うふふ、くすっ。先生よくお似合いですよ、そのカチューシャと月の巫女服」
紅い巫女服の男は、藤いろの袴をはいた男の頭に光る飾りに、手をあててなでなでした。カズキはその手を払いのけて、相方の恰好を上から下まで順繰りに眺めわたし、その頭に痛い視線を投げた。
「ユキヒトくん…まだ、その陽の巫女服は許せるとしてもだ。紅いリボンは真剣に よ さ な い か?」
「え、なんです? とても、かわいいですって? そうですか~ 。いやぁ、僕、照れるなぁ」
ユキヒトは後ろ頭をかいて、照れ笑いを浮かべた。
彼はじつは紅茶いろの髪のウィッグをかぶっている。ただし、なぜかいつものトレードマークの前髪で片目を隠したスタイルはそのままなので、ウィッグがずれていた。あたかも帽子か、フードのように中途半端に髪を覆っているのである。そして、そのウィッグに結わえた紅い蝶結びが、すこし大げさにからだをねじったり跳ねたりするだけで、ウサギの耳のように小粋にぴょこりと動く。大きく垂れているので、猫耳にもみえてしまう。
青年が蝶結びの両の先を軽くつまんで、ひっぱっているのがなんとも乙女らしかった。
「誰も褒めとらんよ。君の耳は、もしや逆さまについてるのかい?」
「けったいなこと言わないでくださぁ~い。大神先生がちょっと、ヘンなの。千歌音ちゃん、わたし、どうしたらいいのかなっ?」
「来栖川くんのマネはしないように」
「あれ、知らなかったんですか。僕の耳は、つごうのいいことしか聞かない耳ですよ」
「ついでに、こちらに不都合なことばかり言う口もだね(苦笑)」
「それより、聞いてくださいよ。この来栖川さんの巫女服は、ソウマさんのコレクションを借りてきたんですよ~」
ユキヒトのぽろりと洩らした重大な事実に、大神ソウマの義兄は数秒言葉をうしなった。
【目次】神無月の巫女二次創作小説「大神さん家のホワイト推薦」