A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

サドメルのレパートリーを演奏するバンドは世界各地に・・・

2015-12-29 | Thad Jones & Mel Lewis & VJO
Thad Jones Tribute / Kjellerbandet Med Tore Johansen

クリスマスイブの新宿サムデイのプログラムは久々にサムデイビッグバンドであった。オーナーの森さんの肝入りで編成されたビッグバンド。しばらく前に再編されたが、最近は出演することが無かったので楽しみにしていた。神田のTNスイングができて毎日ビッグバンドを聴きたいと思えばここに行けば聴けるが、こちらはスイングからベイシーまで。モダンビッグバンドの曲は残念ながらここでは聴けない。

モダンビッグバンドというと自分の一番のお気に入りはサドメルだが、サドメルの曲をタップリ聴く機会はあるようでない。本家のVJOが最近は毎年のように来日しているので、もっぱらこちらを楽しみにするしかない。
サムデイの森さんのお気に入りはサドメルとか。ということもあり、サムデイビッグバンドはサドメルのレパートリーを多く演奏する。という訳でこれも楽しみに出掛けた。

今回からコンマスはアルトの澤田さん。他のメンバーもサムデイではお馴染みの面々のオールスターバンドだ。お馴染みのドントギットサッシーからスタートしたが、ところがPAの具合が悪くせっかくの演奏が台無し。どうなることかと思ったが最初のステージでは結局回復せず。最近は生音でいいバランスで聴かせるところが増えているが、バランスが悪いどころかノイズの塊には参った。
内容は、予告通り1部、2部ともサドメルのレーパートリー中心のプログラムで、こちらは満足であった。最後のアンコールはバリトンサックス黒葛野敦司をフィーチャーしたモーニン、2部ではPAも復旧して盛り上がって無事終わったのは何より。次回を楽しみに待ちたいと思う。

さて、サドメルの曲というと、昔は学生バンドでは必ずと言って位よく演奏されていたが、きっと今でも演奏されていると思う。これは日本だけの事ではなく世界でも同じようだ。それだけサドジョーンズのアレンジがいいということになる。

ノルウェーのビッグバンドにKjellerbandetというバンドがある。ジャズを演奏したいという学生のために77年に設立されたバンドだそうだ、運営のための助成金なども集められたようで、今でも活動をしている。この設立趣旨に沿って今でも若手の活動の場として運営されているようだ。
このバンドが設立30年を迎えた2008年にサドメルトリビュートのアルバムを作った。メンバーは若手(写真を見ると学生かも)だが、ゲストにノルウェーで人気があるトランペットのトレヨハンセンを加えサドメルの曲にチャレンジしたアルバムだ。



編成は通常の編成にギターと(サドメルも最初はギターが入っていた)チューバを加えている。9カ月の練習を経て、お披露目のライブが行われ12曲が演奏されたが、その模様はライブレコーディングされ、その内の9曲がこのCDに収められている。サドメルの曲が大半だが、リーダーのLoのオリジナルも2曲演奏している。

ヨーロッパのビッグバンドというと、オールスターメンバーであったクラーク&ボラーン以外、各地の放送局が運営しているオーケストラが多い。人数が多いと日常の運営費用の問題からレギュラーバンドを組めないのは洋の東西を問わず共通の悩みの様だ。ヨーロッパでは放送局でオーケストラの運営を支援したり、このような若手に活動の場を提供するような活動が行われているのは素晴らしい事だ。反対に日本のお粗末さが浮き彫りになる。
放送局のオーケストラではプロらしい素晴らしい演奏を聴かせてくれるビッグバンドも多いが、このバンドは学生バンドのオールスターズといった感じだ。
この録音のために9カ月も練習を重ねたということなので、それなりの音はしているし、ゲストのヨハンセンも良いソロを聴かせてくれるが、纏まりすぎている感がしないではない。

サムデイビッグバンドのリハーサルは当日の3時間足らずだったそうだ。その割にはいい音がしているのは、各セクションのリード役が素晴らしい結果だろう、流石一流のプロ揃いのバンドだ。当日の演奏は録音していたようだ。もしCDになったら聴いてみたいものだ。きっとこのアルバムのバンドよりはいい演奏をしていたような感じがする。

1. Big Dipper
2. The Groove Merchant
3. Dedication
4. Castell
5. Three and One
6. Ahunk Ahunk
7. And Thad Ain`t Bad
8. Tip Toe
9. Blackboard 

Tore Johansen (tp)
Steinar Missen (as, ss)
Gjerli Heggelund (as)
Eirik Lyngvi (ts)
Hanna Paulsberg (ts)
Svein Tore Werstad (bs)
Eskill Skoglund (tp)
Thomas Johansson (tp)
Kim Eriksen (tp)
May Lene Johansen (tp)
Jan Ommedat (tb)
Arne Suleng (tb)
Eivind Nordland (tb)
Heida Karine Mobek (tuba)
John Homstrom (p)
Torbjern Netland (g)
Trygve Waldemar Fiske (b)
Tollef Estvang (ds)
Kristoffer Lo (leader)

Produced by Kristffer Lo
Recorded by Trisk 1
Recorded live at Dokkhuset, Trondheim on February 21, 2008


Thad Jones Tribute
クリエーター情報なし
メーカー情報なし
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復帰したシムスは、よりスイング色を強くした演奏に・・・

2015-09-01 | MY FAVORITE ALBUM
Nirvana / Zoot Sims

二枚目で洗練されたイメージがあるアートペッパーやスタンゲッツと較べると、ズートシムスの風貌は田舎くさい。Zootというあだ名も、40年代に流行った長い上着とダボダボのズボンのZoot Suiteといファッションからつけられたという。ファッションも無頓着だったのかも。


Zoot Suite

ズートシムスはジャズの歴史の中でキーマンの一人であることは間違いないが、何故か巨人というタイプではない。そして、いい演奏をしているアルバムは多いが、これぞ名盤だというのはすぐには思い浮かばない。コンビというとアルコーンとのレギュラーコンビが有名だが、リーダーアルバムといっても誰かとコンビを組んだものが多い。協調性がある平均点が高い優等生だろう。

活動期間が限られたアートペッパーとは対照的にシムスは生涯切れ目なく活動していたように思っていた。ところが、ディスコグラフィーを見ると1968年から1971年の間にブランクがある。この間、演奏活動自体を休んでいたのか、レコーディングが無かったのかは寡聞にして分からない。

68年の最後のレコーディングが、ペッパーアダムスとの共演Encounterであった。このアルバムでは2人ともいつになくアグレッシブな演奏をしている。ちょうどジャズ界が変遷を遂げた時期でもあった。しかし、昔は一緒にプレーをしたマイルスやコルトレーンが突き進んだ新しいジャズのスタイルには、シムスは踏み込めなかった。

72年にはニューポートの舞台にも立ったが、本格的な復活は73年になってからアル&ズートの再会でスタートする。レコーディンも再開するが、世間で流行りつつあった8ビートには目もくれず、その後の演奏はシムスのスタイルの原点であるモダンスイングの演奏に回帰している。

丁度4ビートの復活の時流にも乗ったのだろう、新たに旗揚げしたPabloやChiaroscuro、Famousdoorといったメインストリームのジャズの復活に貢献したレーベルの常連となった。良くスイングするプレーには変わりはなかったが、以前と変わった点というと、元々高音域でのテナープレーを得意としていたが、ソプラノサックスも良くプレーするようになった。

その様な中、74年にGroove Marchantレーベルに一枚アルバムを残している。サドメルのデビュー作で有名なソリッドステートレーベルを立ち上げたソニーレスターが新たに作ったレーベルであった。

ギターのバッキーピザレリと組んだ、ピアノレスのデュオ&カルテットの地味に感じる編成だ。
ピザレリの控えめなプレーとのデュオも良い感じだが、このアルバムのもう一つの目玉は、ドラムにバディーリッチが参加している事。
当時のリッチは、自分のビッグバンドでの活動がメイン。若者相手に相変わらず強烈なビートを効かせたドラムを披露していたが、このようなスイングスタイルのコンボでの歯切れの良いドラムは久々だ。グループ全体で見事にスイングする演奏になっている。

そしてもう一つおまけは、シムスとリッチが歌を披露していること。Gee Baby,Ain't I Good To Youでファーストコーラスはシムスが、2コーラス目はリッチに代わりシムスはバックに廻って仲良く共演している。
バディーリッチはボーカルアルバムを出したことがあるが、シムスも時々その歌声を披露している。ヘビードランカーであったシムスだが、酔いも廻って鼻歌交じりの気楽な雰囲気のレコーディングであったのかも。でも、その後のパブロの作品に較べると緊張感のある演奏だ。



1. Indiana
2. Memories Of You
3. Come Rain Or Come Shine
4. Lazy River
5. Send In The Clowns
6. Summerset
7. Honeysuckle Rose
8. A Summer Thing
9. Somebody Loves Me
10. Gee Baby, Ain't I Good To You
11. Nirvana

Zoot Sims (ts,ss vocals)
Bucky Pizzarelli (g)
Milt Hinton (b)  #6/11
Stan Kay (ds)  #10
Buddy Rich (ds,vol) #6/11

Produced by Sonny Lester
Recorded in NYC, April 22, 1974


Nirvana
クリエーター情報なし
Groove Merchant
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Tradition=昔から伝わる遺産を守るか、Innovation=過去を捨ててさらなる進化をするか・・・

2014-10-01 | Thad Jones & Mel Lewis & VJO
Thad Jones Legacy / The Vanguard Jazz Orchestra

伝統と革新をどのように両立させるか? これは何の世界でも同じだが、前に向かおうとすると必ず直面する課題かもしれない。
本来、伝統というものは守らなければならないものだと思うが、伝統とは形に残る遺産だけでなく、それを生み出した生き方、考え方、時には時代背景などすべてが含まれるものだ。

昨今では、昔からやり続けていることを単に「マンネリ」と見下し、前に進むための革新には邪魔なものと見なしがちである。敢えて過去を捨て去ることで新たなステージを迎えることができると勘違いすることも多くある。

特にIT化という大きな時代の流れの中では、アナログは真っ先に捨てなければならないものとなった。しかし、IT化というものはあくまでも手段。目的を持たないIT化は残念ながら形だけのものになり、そこには伝統も文化も無く、一番大事な人と人との繋がりを機能的に便利にする反面、かえって心の通い合う付き合いを希薄にしてしまったように思う。

サドジョーンズは、多くの名曲、名アレンジ、名演、そして名ビッグバンドを残した。
それらの貢献を称えての「Tributeアルバム」は沢山あるが、ビッグバンドはやはりサドメルオーケストラへのトリビュートになる。先日紹介したMonday Night Big Bandはその一枚であるが、このアルバムは本家ヴァンガードジャズオーケストラによる始祖の一人サドジョーンズへのトリビュートアルバムになる。

サドジョーンズがサドメルのオーケストラを去ったのが1978年。残されたメルルイスは旧メンバーであったボブブルックマイヤーを音楽監督に迎え、一時サドジョーンズの曲を封印した。
しかし、後にそれも解消しメルルイスオーケストラもサドジョーンズの曲とアレンジの「deffinitive」決定版として2枚のアルバムを残して、サドジョーンズの遺産は復活した。

メルルイスが1990年に亡くなった後も、残されたメンバー達でオーケストラは存続された。
サドメルの本拠地であったヴィレッジバンガードの名前をオーケストラの名前に冠し、サドメルオーケストラ、そしてメルルイスが残した多くの遺産を引き継ぐことになった。
このオーケストラも、伝統と革新の2つの課題に直面する。

このアルバムタイトルは、「サドジョーンズの遺産」、当然「伝統」が優先する。本家としてどこまで伝統が引き継がれているかが聴きどころになる。
結果は、初期のサドジョーンズのアレンジを見事に再演している。ライブでは無くスタジオできっちり収録されたものであり、演奏しているメンバーも長年演奏し続けているだけあって、まずは「本家」の演奏としてそつなくこなされている。

「Quiet Lady」、オリジナルではペッパーアダムスとローランドハナ、サドジョーンズのソロであったが、ここではスマリヤン、マクニーリー、ウェンホルトで再現している。



そして、このアルバムが生まれるには一つの大事な背景があった。

サドジョーンズの功績をジャズの歴史の中で後世にきちんと伝えるためのプロジェクト”The Thad Jones Legacy Project”がスタートし、その活動の一環としてこのアルバムも制作されたと記されている。単に昔を懐かしんだナツメロアルバムではないということだ。

この活動には後日談があり、このプロジェクトはサドジョーンズが残したビッグバンド用のオリジナル譜面の完全保存版の収集(作成)も手掛けた。もちろん、それにはヴァンガードジャズオーケストラに残されたセロテープで継ぎ接ぎだらけになった譜面も対象となった。手直しが加えられたものも多くあり、別に市販の譜面として別に世に出た中には間違いもあったり、すべて内容の確認が必要であり全体の整合性のチェックなども行われた。更には、一部の譜面が紛失してお蔵入りになったり、レコーディングに使われたがその後一回も演奏されたことが無い曲もあった。サドメルとかって共演したオルガンのローダスコットの元まで譜面探しは徹底されたそうだ。

最終的にはミュージシャンによる最終確認も必要であり、この作業を実際に行ったのはサムモスカ以下のオーケストラの面々、彼等が中心となって多くのそれをサポートするスタッフも参加して実施された。
そして、その作業が完了したのはこの録音から4年後の2003年。それを記念して、新たな譜面でのライブが本拠地のヴィレッジバンガードで行われたとの記事も残されている。

2009年にこのVJOが来日した時、4日間8ステージをすべて違う曲で演奏するというプログラムが組まれた。これが実現されたのも、過去からの遺産をきちんと守るこのような地道な努力があったからだろう。

しかし、サドジョーンズが作ったオーケストラの原点は単に曲やアレンだけではない。
ツアーをしない週一回の定期的なライブ演奏、黒人・白人がほぼ半々のメンバー構成、エリントンのように作曲家&アレンジャーのバンドでもなく、ベイシーのようなソロイスト中心のバンドでもなく両方の特徴を持ち合わせ、アンサンブル主体かと思うと自由度の高いソロパートも存分に設け、今までのオーケストラに無い斬新な切り口が数多く取り入れられた。それらがサドメルの原点であり守られるべき伝統の一つだと思う。

このようなサドメルの特徴は色々な所で述べられているが、アルバムのライナーノーツを読むと、もうひとつ面白い表現があった。
1930年のチックウェブオーケストラ以来、初めて「家で寛いでいる聴衆と一緒にいる感じで演奏するオーケストラ」と。そして「聴衆だけでなく演奏しているプレーヤー自身も演奏することが楽しみなメンバーで編成されている」と。初めて来日した時の評論家の油井正一氏の感想も全く同じ事を言おうとしたのであろう

まさに、初期のサドメルオーケストラの聴衆と演奏者が一体なったライブの楽しさを上手く表現している。実は、これもサドメルオーケストラの守るべき大事な伝統の一つでもある。
ヴァンガードオーケストラは最近毎年のように来日し、そのライブを聴きに行くが、会場となるビルボードの構造なのか、残念ながらそのような雰囲気にはなかなかならない。
本拠地であるヴィレッジバンガードでの演奏を聴く機会は残念ながらまだ無いが、きっとアットホームな演奏を聴く事ができるのだろう。

これらの伝統を踏まえれば何もサドジョーンズの曲ばかりを演奏することだけが伝統を守ることではない。2003年の譜面のRestore記念のライブでも、サドジョーンズの曲に合わせて、ジムマクニーリーやスライドハンプトンの曲も演奏され、TraditionとInnovationというVJOの2つの使命を果たしていると記されている。

今後もサドジョーンズの想いを引き継いで、新たな領域にどんどんチャレンジして欲しいものだ。今年の来日公演では、ボブブルックマイヤーの遺作を聴かせてくれそうなので、これも楽しみだ。



1. A-That's Freedom             Hank Jones 7:21
2. Once Around               Thad Jones 5:53
3. Quiet Lad                 Thad Jones 7:30
4. Central Park North             Thad Jones 8:30
5. Yours and Min                Thad Jones 3:54
6. Fingers                  Thad Jones 14:38
7. Groove Merchant           Jerome Richardson 8:36
8. All My Yesterdays              Thad Jones 4:10
9. My Centennial                Thad Jones 7:33

The Vanguard Jazz Orchestra

Scott Wendholt (tp,flh)
Glenn Drewes  (tp,flh)
Earl Gardner  (tp,flh)
Joe Mosello  (tp,flh)
John Mosca (tb)
Jason Jackson (tb)
Ed Neumeister (tb)
Douglas Purviance (btb)
Billy Drewes (as,ss,fl,cl)
Ralph Lalama (ts,cl,fl)
Dick Oatts (as,ss,fl,cl)
Rich Perry (ts,fl)
Gary Smulyan (bs)
Jim McNeely (p)
Dennis Irwin (b)
John Riley (ds)

Produced by Thomas Bellino, Douglas Purviance
Engineer : Stuart Allyn
Recorded at Edison Recording Studio on May 1 & 2 1999



Thad Jones Legacy
The Vanguard Jazz Orchestra
New World
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ペッパーアダムスのサドメルオーケストラでのラストレコーディングは・・・・?

2014-07-13 | PEPPER ADAMS
It Only Happens Every Time / Monica Zetterlund, Thad Jones & Mel Lewis Orchestra

サドメルオーケストラが、ビレッジバンガードで初ライブを行ったのは1966年2月7日。この日の演奏はFMでも中継され、CDでもその演奏は残されている。ペッパーアダムスはその時リーダーのサドジョーンズとコンビを組んでいたが、そのままこのオーケストラにも参加した。
そして、そのペッパーアダムスが、サドメルのオーケストラを辞めたのは1977年8月24日。丁度ヨーロッパツアーの途中でストックホルムに滞在している最中であった。

オーケストラに加わって11年、メンバーの入れ替わりも多くなっている中、両リーダー以外に11年間続けて在籍したのはペッパーアダムスとジェリーダジオンの2人であった。
アダムスはちょうど35歳から46歳まで、人生で一番脂の乗り切った時をサドメルオーケストラで過ごしたことになる。

サドメルとのファーストレコーディングは66年2月7日の初演、これにアダムスも当然参加している。
「ラストレコーディングは?」というと、実はこのアルバムになる。

77年8月23日録音、翌日バンドを離れアメリカに戻るので在籍最後の日の録音。本当の意味でのラストレコーディングになる。
この事実を踏まえて、このアルバムを聴くとこのアルバムの位置づけもはっきりしてくる。

このアルバムの主役モニカゼタールンドとペッパーアダムスは昔からの知り合いであった。
1961年にはドナルドバードとのクインテットで彼女と録音もしている。あの有名なエバンスとのアルバム“ Waltz For Debby “より3年も前の出来事だが、残念ながら世には出ていないようだ。

このアルバムのジャケット裏に録音時の集合写真がある。
ジャケットの表の写真は彼女とサドジョーンズのアップの写真であるが、裏の写真ではリーダー2人を差し置いて中央に彼女の横に立つペッパーの姿を見ても、このアルバムのもう一人の主役はペッパーアダムスであったのは間違いないだろう。



アダムスは、異国の地スウェーデンでバンドを離れることになったが、そのスウェーデンに住む昔からの友人ゼタールンドと、サドメルオーケストラのメンバー達が、アダムスに餞別の意味を含めてのレコーディングを行ったのではないだろうか思われる。
というのも、このレコーディングは用意周到に企画されたものではなかったので。

サドメルオーケストラの歌伴というと、初期のソリッドステートレーベル時代、ジョーウィリアムスルースブラウンのバックを務めた2枚のアルバムがあった。どちらも、ブルースを得意とする2人。ジョーンズのスマートなアレンジが脂っこさを中和した、好アルバムだろ思う。
このゼタールンドは少しイメージが違う。しかし、名アレンジャーサドジョーンの手にかかると、彼女の歌の魅力を引き出す違ったアレンジをするのではないかと期待するのだが。

しかし、このレコーディングの準備は実際にはとんでもない突貫作業だったようだ。
コンサートツアーの移動中のバスの中、ピアノも手元にない中でジョーンズはスコアを書き続けた。スタジオに入ってからも皆でパートを仕上げながら、リハーサルもそこそこで録音に臨んだ。これもアレンジャー、サドジョーンズの名人芸のひとつだったようだが。

長年サドジョーンズの片腕として、ペッパーアダムスはオーケストラ全体を聴く耳を持っていた。スタジオで遠く離れたトロンボーンセクションにやってきて、「ここは自分がトロンボーンセクションと一緒に吹くことになっているが、どうしよう思っている?」と確認していった。「すでにアダムスの頭の中には全体の中で自分の役割が認識されていた。そこが長くオーケストラ生活を過ごしてきたアダムスの凄い所だ」と、当時のメンバーとして参加していたサムモスカのコメントもある。

タイトル曲のIt Only Happens Every Timeは、サドメルのComsummationにも収められている綺麗な曲。Groove Marchantなどサドメルの有名曲もあるが、すべてがサドメルの曲という訳でもない。

歌と演奏が今一つしっくりこない部分があるのは、このような諸々の裏事情があったからだろう。

いずれにしても、オーケストラが録音に臨んだのは8月20日と21日、フィランドのヘルシンキであった。しかし、まだアルバム一枚には足りなかった。そして、最後の23日にストックホルムで最後の3曲が収められた。Happy Againはオーケストラなしで、アダムスとリズムセクションだけがバックを務める。

これで、やっとアダムスの最後に日までに何とかアルバムが完成したということになる。
アダムスのゼタールンドとの友情の証、そして皆からのアダムスへの餞別と考えるとこのアルバムの味わい方も変わってくる。





1. It Only Happens Every Time        Thad Jones 5:12 
2. Long Daddy Green  Blossom Dearie / Dave Frishberg 3:38 
3. Silhouette                Lars Gullin 4:32
4. He Was Too Good To Me  Lorenz Hart / Richard Rodgers 5;05 
5. The Groove Merchant        Jerome Richardson 4:06 
6. Love To One Is One To Love        Thad Jones 4:13 
7. Happy Again               Lars Gullin 4:15
8. The Second Time Around  Sammy Cahn / James Van Heusen 5:13 

Monica Zetterlund (vocals)
Thad Jones (flh)
Frank Gordon (tp)
Earl Gardne (tp)
Jeff Davis (tp)
Larry Moses (tp)
Earl McIntyre (tb)
John Mosca (tb)
Clifford Adams (tb)
Billy Campbell (tb)
Jerry Dodgion (as,ss,fl,cl)
Ed Xiques (as,ss,fl,cl)
Rich Perry (ts,fl,cl)
Dick Oatts (ts,fl.cl)
Pepper Adams (bs)
Harold Danko (p)
Rufus Reid (b)
Mel Lewis (ds)

Recorded at Sound Track Recording Studios, Helsinki on 20-21 August 1977
at Swedish Radio, Stockholm on 23 August 1977 (#2,3,7)


It Only Happens Every Time
Monica Zetterlund
Inner City
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もし、ジャズの人気投票のポールウィナースに「指揮」部門があったら・・・

2013-05-05 | Thad Jones & Mel Lewis & VJO
Swiss Radio Days Jazz Series, Vol. 4: Basle, 1969 Thad Jones & Mel Lewis Orchestra

クラシックの世界では、指揮者というのはかなり重要な要素だ。同じオーケストラでも指揮ひとつで音が違ってくるという。
ジャズの世界のビッグバンドでも指揮者の役割は重要だ。指揮を専門に行うリーダーもいれば、プレーをしながらの指揮者もいる。

先日、辰巳哲也のビッグバンドがマリアシュナイダーの曲を演奏したライブがあった。昨年初来日したマリアシュナイダーのオーケストラは彼女のしなやかな指揮振りが目立ったが、彼女の曲は指揮者がいないとなかなか上手く演奏はできないだろう。
当日辰巳氏も「マリアの曲をやるときは、指揮が忙しくてなかなか自分のプレーを一緒にやるのは難しい」と語っていた。先週は秋吉敏子のビッグバンドのライブがあったが、彼女の難しいアレンジを引き立たせる指揮振りも見事だ。彼女の場合はそれにピアノのプレーも加わる。

そのようにジャズオーケストラのリーダーの指揮振りを思い返すと、クラシックの世界にひけをとらない位色々と指揮者によって個性があるものだ。その中で一番印象に残っている指揮者となると・・・・

双頭バンドのサドメルオーケストラの指揮者といえば、言わずと知れたリーダーのサドジョーンズ。指揮だけでなく、合いの手を入れながらメンバーを鼓舞させていく指揮ぶりは余人を持って代えがたい。
サドメルオーケストラからサドジョーンズが去り、メルルイスがリーダーとなり、そしてメルルイス亡き後VJOへと替わっても、サドメルのレパートリーは脈々と引き継がれている。しかし、あのサドジョーンズの指揮ぶりだけはもう見ることができない。

サドジョーンズの指揮と、もうひとつ初期のメンバーで特徴的だったのはローランドハナのピアノとベースのリチャードデイビスの掛け合い。多くの曲でハナのピアノのイントロから始まることが多かったが、このデイビスのベースの絡み方も実に特徴があった。
そしてそれを傍らから見ながら魔術師のようにオーケストラの始まりに繋げていくサドジョーンズの指揮は流石だ。

この連休中、新宿のSomedayではお馴染みのビッグバンドのライブが連日続いた。今回は3日間しか行けなかったが、その中のひとつがオーナー肝いりのSomeday Big band。
メインストリームの演奏が続いたが、その中にサドメルのレパートリーが3曲あった。
自分が大の「お気に入り」のGroove Merchantも演奏され大満足であったが、やはりこの曲を聴くとサドジョーンズの指揮を思い起こす。



このビデオの頃の、ハナやリチャードデイビスのいた時代の演奏は特にご機嫌だ。
この時代の演奏はCDでも何枚か残っておりこれまでも紹介したが、もう一枚あった。
バンド結成から3年目。満を持してオーケストラがヨーロッパに遠征した時のスイスでのライブだ。

曲目は当時のレパートリーが並んでいるが、Groove Merchantも含まれている。他のアルバムではこの曲のライブ演奏を聴けないが、サドジョーンの指揮振りも音を通じて聴くことができるのでこれは貴重だ。
これを聴いても。やはりサドジョーンの指揮はOne & Onlyな良さがある。人気投票に「指揮部門」があったら、間違いなく一票を投じる。

1. Second Race  Thad Jones 10:39
2. Don't Ever Leave Me Thad Jones 4:16
3. The Waltz You Swang for Me Thad Jones 9:11
4. Ah' That's Freedom Thad Jones 10:54
5. Come Sunday Duke Ellington 4:42
6. Don't Get Sassy Thad Jones 11:34
7. Bible Story Roland Hanna 6:30
8. Groove Merchant Jerome Richardson 7:54

Thad Jones (cor, flh)
Richard Gene Williams (tp)
Danny Moore (tp)
Snooky Young (tp)
Al Porcino (tp)
Jerry Dodgion (as,fl)
Jerome Richardson (as,ss)
Joe Henderson (as,fl)
Eddie Daniels (ts)
Pepper Adams (bs)
Jimmy Knepper (tb)
Eddie Bert (tb)
Cliff Heather (btb)
Roland Hanna (p)
Richard Davis (b)
Mel Lewis (ds)

Peter Schmidlin Executive Producer
Philippe Dubath Executive Producer
Peter Bürli Executive Producer, Liner Notes
Jurg Jecklin Engineer

Recorded live concert for broadcast over Swiss Radio
on Sep.11 1969


The Thad Jones - Mel Lewis Orchestra, Basle 1969 / Swiss Radio Days, Jazz Series Vol.4
クリエーター情報なし
TCB - The Montreux Jazz Label™ - Swiss Radio Days
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過去の名演を再現するには色々手法はあるが、ジョンヘンドリックスが拘ったのは・・・

2012-05-05 | MY FAVORITE ALBUM
Love / Jon Hendricks & Company

せっかくの人生、忙しくてなかなかできなかった事を残された時間で色々やってみたいとは思うのだが、歳をとるにしたがってなかなか新たに事を始めるのは億劫になる。今までやっていたことの中で何か一つを極めるのも自分の生き様を全うするにはいいかもしれないと思うこの頃だ。このブログを再開したお陰でジャズを聴く時間は増えているのだが・・・さてそれだけでは?

女性陣に較べて劣勢な男性ジャズボーカルの中で一人忘れていけないのはジョンヘンドリックスだ。ジョンヘンドリックスはコーラスグループのランバードヘンドリック&ロスのメンバーであったが、このグループはジャズの過去の名演を歌にしてコーラスにすることを売りにしていた。
ボーカライズするには、スキャットはいいがちゃんと歌にするには歌詞をつけなければならない。この作詞をしたのもジョンヘンドリックスだ。ジャズの名演のコピーのやり方にはいくつかアプローチがある。LHRの得意技であるコーラスによるボーカライズもひとつの手法だ。マンハッタントランスファーなど他のコーラスグループにも引き継がれている。

このジョンヘンドリックスの活動は一歌手には収まらず多方面であった、作詞だけでなく良い演奏をボーカライズする想いも人一倍あったようだ。
ヘンドリックスは、LHRの解散後は独自で活動していたが、やはりコーラスでのボーカリーズは彼のライフワークとして拘りがあったのだろう、自らのグループCompanyを再編した。
ボーカライズはコーラスといっても普通のコーラスと違ってそう簡単に誰でもできるわけではないと思う。チームワークも大事だがオリジナルの演奏への想い入れも大事そうだ。
今回のグループは気心の通じ合った家族同士が中心。ジョンのワイフのJudithと娘のMicheleを加えたグループだ。
兄弟によるコーラスグループにはミルスブラザーズ、夫婦のグループだとジャッキー&ロイがあるが、夫婦+娘という組み合わせはあまり聴いたことがない。この3人にLeslie DorseyとBob Gurlandが加わった5人編成だ。このガーランドがトランペットを声で模すVoice trumpetを披露してくれるが、実にこれがいい感じだ。最近の活動の様子がビデオにあるが、彼のボイストランペットはこのようなボーカライズのコーラスグループと一緒だとより映える。



LHRの時とアプローチは同じなので、元となる演奏と対比してみると新たな発見があるかもしれない。きっと彼らの選曲にも理由があると思うので、その拘りが見えてくると興味も増す。きっと歌詞にも意味があるのだろう。

このアルバムに収録されている曲の中に、サドメルのオーケストラの演奏で有名な”Groove merchant”が入っている。サドメルではセントラルパークノースというアルバムに入っていたが、ファンキーなノリの良い曲でお気に入りのひとつだ。
作曲はサドジョーンズではなく、当時のサドメルのオーケストラのサックセクションの重鎮ジェロームリチャードソンだ。サドメルのオーケストラのアレンジではリチャードソンのソプラノがリードするサックスセクションのソリが素晴らしい。

このアルバムでは、そのリチャードソン自身がテーナーでバックに参加している。そしてメンバーをよく見るとジミースミスもオルガンではなくピアノで。自分の作った曲がこのように形で新たなメンバーで、新しい姿に生まれ変わっていくのに参加できるのは作曲家冥利に尽きるだろう。



1. Royal Garden Blues         Williams, Williams 3:07
2. Bright Moments                 Kirk 3:41
3. Willie's Tune                       4:34
4. Good Ol' Lady                Hendricks 3:29
5. Lil' Darlin'                    Hefti 4:25
6. I'll Die Happy                       2:04
7. Love (Berkshire Blues)                   4:40
8. Tell Me the Truth           Dunson, Hendricks 3:37
9. The Swinging Groove Merchant (Groove Merchant) Richardson   5:33
10. Angel Eyes                Brent, Dennis 4:31
11. In a Harlem Airshaft (HarlemAirshaft)          2:57

Jon Hendricks (vol)
Judith Hendricks (vol)
Michele Hendricks (vol)
Leslie Dorsey (vol)
Bob Gurland (vol,voice trumpet)

David Hazeltine (p)
Jon Burr (b)
Marvin "Smitty" Smith (ds)

Harry "Sweets" Edison (tp)
Jerome Richardson (ts)
Jimmy Smith (p)
John Williams (b)
Marvin "Smitty" Smith (ds)

Produced by Jon Hendricks
Buddy Pollock : Engineer
Robert Grogan : Engineer
Richard Greene : Engineer

Recorded at P.D Recorders,Hollywood CA, 1981
      at Russian Hill Recordind,San Francisco, CA, September & November 1981
      at Sundragon Studio, NYC, January & February 1982

Love
Jon Hendricks
Muse Records
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古いスタンダードか新しいスタンダードか・・・

2011-09-06 | MY FAVORITE ALBUM
Ms.Jazz / Carmen McRae


しばらくVOCALはコーラスばかりが続いていたようなので、じっくり聴くジャズボーカルが聴きたくなった。じっくり聴くとなるとやはり御三家。晩年は3人とも体格を含めてますます貫禄がついたが、それぞれ歌には特徴があっていい。
自分はその中ではカーメンマクレーが好きだ。70年代になって、71年にマクレーのひとつの集大成ともいえるグレートアメリカンソングブックを出した後、しばらく試行錯誤が続く。比較的コンスタントにアルバムを出し続けていたが、翌年意欲作“CARMEN”以外録音は無かった。翌年、新たなレーベルGroove Merchantから出たアルバムがこのアルバムだ。このレーベルはサドメルのファーストアルバムを出したSolid Stateレーベルの創始者、Sonny Lesterが新たに作ったレーベル。バディーリッチのアルバムなどもあるが、メインストリームの中に、少し新しさ取り入れ反対に少し泥臭さを加えたようなアルバムが多い。

このマクレーのアルバムもそうかもしれない。彼女のバックには珍しくピアノトリオに加えてZoot SimsとBucky Pizzarelliを従えての登場だ。共演というよりはバックに専念しているので、マクレーが主役のアルバムには違いない。選んだ曲は古い歌物ではなく、新しい曲が多い。スティービーワンダーであり、レオンラッセルであり、そしてお気に入りのIt’s the good lifeなど。この曲と次の曲にはオーケストラのバックをつけている。アルバムのタイトルが“Ms. Jazz”と銘打っているので、シナトラやディーンマーインと張り合っているわけではないと思うが。

新しい曲をやっているせいか、バックも4ビートだけでなく8ビートも盛り混ぜている。結果は新しい曲であろうと古い歌い尽くされたスタンダートであろうと、カーメン節には変わらない。あまり、アルバム作りで周囲に仕掛けを施すというよりは、カーメンには彼女の歌をじっくり引き出すような今回のようなバックがよく似合う。




1. You Are The Sunshine Of My Life (Stevie Wonder)
2. You And I               (Stevie Wonder)
3. You're Mine, You         (Johnny Green, Edward Heyman)
4. Exactly Like You         (Jimmy McHugh, Dorothy Fields)
5. Masquerade           (Leon Russell)
6. The Good Life          (Alexander Sacha Distel, Jack Reardon)
7. How Could I Settle For Less  
      (Alexander Sacha Distel, Robert I. Allen, Jean Broussolle)
8. There'll Come A Time      (S. Brooks)
9. Livin'                 (T. Garvin)
#10. Hey John            (Jim Council, Blossom Dearie)

Carmen McRae (vo)
Zoot Sims (ts)
Joe Pass (g) #10
Bucky Pizzarelli (g)
Paul West (b) #10
Tom Garvin (p)
Dick Shreve (p) #10
Larry Bunker (vib, per) #10
Jimmy Madison (ds)
Frank Severino (ds) #10

Recorded March 1973 In New York
#10 March 1973 in Los Angels,California
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決して表舞台を歩かなかったリチャードソンが久々に・・・・

2008-02-27 | MY FAVORITE ALBUM
Jazz Station Runaway / Jerome Richardson

ニューヨークの地下鉄の入り口にアルト手にした姿は、年老いたストリートミュージシャンのような雰囲気だ。陰の実力者でありながら、表舞台ではあまり活躍しなかったリチャードソンを象徴しているようだ。

1960年、予定していたミュージカルの仕事が無くなり、ストリートミュージシャンの如く演奏できる場所を求めてヨーロッパの放浪の旅に出たのはクインシージョーンズオーケストラ。
そのサックスセクションに陣取っていた2人の名手。一人はフィルウッズ、
そして、もう一人がジェロームリチャードソン。ジャズの世界で2人の歩んだ足取りは近いようでもあり、遠いようでもある。

クインシーのオーケストラでウッズの席はアルト、リチャードソンはテナーだった。
ウッズはパーカー派としてデビューから今に至るまで一貫してアルトが中心だ。
一方のリチャードソンはあらゆるサックスをこなす。事実、リチャードソンが在籍したサドメルのオーケストラでは貫禄のリードアルトを努めていたし、サドメルサウンドの特徴を、ソプラノサックスやフルートで引っ張っていたのもこのリチャードソンだ。
2人は、スタジオミュージシャンとしても活躍をしていたので2人が加わったアルバムは数知れないほどに多い。クインシーのオーケストラだけでなく、色々なセッションで2人が一緒に参加することも多かった。そのスタジオワークはジャズだけではなくPOPSやR&Bの世界まで幅広い。思わぬとこころで2人の名前に遭遇することがある。

ウッズはスタジオセッションに参加するだけでなく自己のグループも持っていた。ジーンクイルとの双頭コンビヨーロピアンリズムマシーンなど有名なグループを率いてきて、リーダーアルバムの数も昔から今に至るまで非常に多い。また、コンボだけでなくオーケストラをバックにしたアルバムも多く、自ら作編曲も手がけ、ジャズの歴史のあらゆるシーンに登場する実力者だ。
自分としてもこのウッズは好きなプレーヤーの一人だ。

ところが、一方のリチャードソンは、自己のリーダーアルバムとなると非常に数が少ない。自分の知る限り6枚しかない。
このアルバムは、その少ないリーダーアルバムの中の一枚。
1996年の録音で、リチャードソンはすでに76歳になっていた。その後のリーダーアルバムは知らないので、多分自分の名を冠したアルバムとしてはラストアルバムであろう。

このアルバムでは、リチャードソン自らの曲を多くとりあげている。リチャードソンの唯一といってもいいヒット曲「グループマーチャント」も入っている。彼のテーマソングのようなものだ。
アルトと得意なソプラノ、そして時にはフルートをフィーチャーした曲が気軽な感じで続く。その中で演奏ぶりにも重みを感じるのは、エリントンの2つの曲。身構え方が違うのかもしれない。いいプレーだ。
ファンでもなければ買い求めることもないような地味なアルバムであるが、いつもながらのリチャードソンの陽気な雰囲気で和気藹々と繰り広げられるセッションの様子が伝わってくる。どこかリッチーコールの軽いノリの演奏にも通じるプレーだ。いつもと同じ淀み無く綺麗なトーンは、とても80歳に近い超ベテランが吹くサックスとは思えない。

1. Jazz Station Runaway             Richardson 3:32
2. Lady Rowena                 Richardson 5:21
3. Midnite Strut                Richardson 6:01
4. Warm Valley                 Ellington 7:42
5. Con Man                   Reece 4:26
6. Autumn Lites                 Richardson 5:33
7. Freedom & Salvation             Richardson 5:01
8. Nouveau You Know               Richardson 6:18
9. Gumbo Robo                  Richardson 5:41
10. In a Sentimental Mood            Ellington, Kurtz, Mills 6:58
11. Groove Merchant              Richardson 5:56

Peter Schmidlin Executive Producer

Jerome Richardson (as,ss,fl)
David Hazeltine (p)
Russell Malone (g)
Howard Aiden (g)
George Mraz (b)
Frank Colon (per)
Dennis Mackrel (ds)
Lewis Nash (ds)

Recorded in New York , Jun 1996-Feb 1997

Jazz Station Runaway
Jerome Richardson
TCB

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サド・メルの2人の出会いはまだ終わりではなかった・・・

2008-02-12 | Thad Jones & Mel Lewis & VJO
Thad Jones&Mel Lewis / UMO The New Music Orchestra

先日紹介したサドジョーンズとメルルイスのカルテットの演奏が2人の最後の演奏と書いてしまったが、これは早とちり。2人の共演はその後もまだ続いていた。このアルバムは1977年暮れの録音だ。

自分達のオーケストラを引き連れてツアーを行っている途中、2人であるいは仲間を誘って地元のプレーヤーと演奏を行うことが多かった。その結果、オーケストラでもコンボでもサド・メルの分身のようなアルバムが生まれた。このアルバムもそのような一枚だ。

現地にオーケストラを引き連れて来ていたかどうかは分からないが、このヘルシンキでの録音はフィンランドの地元のオーケストラ”UMO/The New Music Orchestra”に2人が客演しての演奏だ。
オーケストラの他のメンバーの参加はなく、2人以外はすべて地元のメンバーである。

アルバムの曲はジェロームリチャードソンのグループマーチャントを除いてすべてサドジョーンズの曲、そしてアレンジもすべてサドが提供している。どの曲もすでにサド・メルのオーケストラで録音されたものばかりだ。
デビュー当時のビレッジバンガードでのライブに入っていた“Little Pixie”から、最新の“SUITE FOR POPS”からの“THE SUMMARY”まで。
お気に入りの“Groove Merchant”も一曲目に収められている。当然本家の演奏との比較がしたくなる。
サド・メルのオーケストラの良さは、その日の気分によってソロのオーダーや長さも自由に変えて、オーケストラでありながらコンボのように変化をつけた演奏をすること。特に、ライブのステージでは。
今回はいつものレギュラーオーケストラとメンバーも全く違うので、サド・メルのオリジナルの演奏と比較して一味違った演奏が聴けるのではとの期待が高まる。
良く聴くとソロのパートだけでなくアレンジも微妙に変えている部分がある。今回の録音のために変えたのか、最初の演奏から時代を経て変えていったのかは分からないが。

サド・メルのオーケストラの晩年はメンバーが定着せず、複雑化するサドのアレンジのアンサンブルを合わせるにも苦労したと聞く。
今回はサドのアレンジとチームワークのとれたEsko Linnavalliが率いるオーケストラとのガチンコ勝負だ。短期間でどこまでサドのアレンジを消化できるのか?
そして、結果は?
元々美しい響きに拘りを持ったサドのアレンジであるが、同じアレンジを使っても北欧のオーケストラの響きはさらに透明度が増すように感じられる。持って生まれたバンドカラーなのかもしれないが、サドのアレンジとのコラボレーションはバッチリだ。

ひょっとしたら、この北欧のオーケストラの響きに惹かれて、翌年サドジョーンズは自分のバンドをは離れてデンマークへの旅立ちを決意したのかもしれない。

1. Groove Merchant
2. It Only Happens Every Time
3. Tiptoe
4. The Great One
5. Kids Are Pretty People
6. Summary
7. Little Pixie
8. Only for Now

UMO/The New Music Orchestra

Thad Jones (Arranger, Composer, Conductor, Cornet)
Mel Lewis (ds)

Esko Heikkinen , Markku Johansson , Simo Salminen , Kaj Backlund (tp,flh)
Petri Juutilainen , Mircea Stan , Jussi Aalto (tb)
Tom Bildo Trombone (btb)

Juhani Aaltonen (as,ss,fl,cl)
Eero Koivistoinen (ts,ss)
Pekka Poyry (as,ss,fl)
Teemu Salminen (ts,cl.fl)
Pentti Lahti (bs.bcl)
Esko Linnavalli (p)
Otto Berger (eg)
Pekka Sarmanto (b)
Esko Rosnell (per)

Produced by Esko Linnavalli
Recorded at Soundtrack , Helsinki, December 3-4, 1977
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やはり、持つべきものは良き友人たち・・・・

2007-11-10 | CONCORD
Windflower / Herb Ellis & Remo Palmier

同じような境遇にある2人が知り合い、意気投合しお互いの未来の夢を語る。しかし、何かのきっかけで全く別々な人生を送るようになることはよくあることだ。特に男と女の関係になると。
片方が順風満帆な人生を過ごすことができて、一方が不幸な人生を送ることも。しかし、多くの場合2人はその後出会うことも無く、お互い何をしているかも知る術もなく、それぞれの人生を歩むことになる。

ところが、この2人は違った。
何十年ぶりかに出会って、再び意気投合し二人で共演をし、さらにアルバムを作るまでに。そして、再び関係を深めることができた。
この共演でお互い幸せなひと時を過ごし、その後も自分のやりたいことをやりながら人生をエンジョイするようになる。

やはり、持つべきものは友である。

このアルバムは、お馴染みのハーブエリスと同じギターのレモ・パルミエリの共演。
レモは全くの無名であり、これが初のリーダーアルバムだ。もちろん自分にとっても全く意識の外にあるプレーヤーだった。
少し、彼の経歴を遡ってみる。
すると、彼はジャズの歴史のメインストリームにちゃんと登場している。
パーカーとガレスピーの有名なクラフトセッション。この中の45年録音の3曲
Groovin' High
All The Things You Are
 ここで、パルミエリにギターソロも聴ける。
Dizzy Atmosphere
で共演しているのだ。
たしかに、パーソネルには彼の名前のクレジットが。まったく記憶が無かった。他にも、それまでの間レッドノーボやコールマンホキンスと共演し、録音も残している。
モダンジャズの歴史作りに彼も参加していたのだ。

エリスとパルミエリが出会ったのは1940年。まだエルミエリが17歳のときだった。
New Yorkのクラブに出演していたエルミエリの演奏を聴いたエリスが、
「君ののホーンのようなギターのプレーが好きだ」と言ったというのが最初の出会いだったとか。皆、チャーリークリスチャンのように、どうしたらギターが弾けるかを学び競っていた頃だ。

その後、何年かしてからシカゴで再会した時は、レモはレッドノーボのグループ、エリスはトミードーシーのオーケストラのメンバーの一員だった。レモは、その後ビリーホリデーのバックを努め、パーカーとの共演など表舞台を歩見続けていた。

ところが、その直後、突然病気を理由にクラブでの活動を辞め、スタジオミュージシャンとなり第一線から退いてしまう。医者から夜の過酷な仕事を控えるように言われたのが理由だそうだ。
これで、レモはジャズの表舞台から消えてしまう。
スタジオで演奏するのはジャズとは縁遠いものになってしまう。

一方のエリスはその後ピーターソントリオへの参加を経て、表舞台を歩み続ける。
2人はまったく別の道を行くことになる。
好きなジャズを断念しなければならなかったレモ・エルミエリの心中は推して知るべし。好きな恋人と別れ、張り合いのない人生を迎えたような心境であったろう。

しかし、'72年になり、幸か不幸かレモが長年スタジオワークの中心にしていたCBSテレビの“Godfrey Show” が中止になる。レモもこれで、レギュラーのスタジオの仕事を失うことに。
“Godfrey Show”で一緒に仕事をしていたハンクジョーンズに誘われ、共にクラブやホテルに出るようになる。パールベイリーが東海岸でステージがある時は、ルイベルソンのオーケストラに加わることもあった。彼らとも古い知り合いだったそうだ。
皆、友人付き合いをしていたからこそ、一緒にできた仕事であったのだろう。

エリスとは関係を続けていたが、そのような時にエリスから「レコーディングをしてみないか? 久しく君のプレーを聴いていないよね」と申し出を受ける。
エリスの肝入りでジェフェアーソンからConcordに招かれることになる。そして、いつもと同じConcordの復活劇が始まる。
コンコルドジャズフェスティバルに招かれエリスとの共演で舞台に上ると、その後すぐに、このアルバムが作られることになる。
コンコルドでは珍しいニューヨーク録音だ。エリスがバニーケッセルとコンサート開くために、New Yorkに行った時に作られたものだ。

この、2人の出会い、そして再会はレモ・パルミエリにとってその後の人生を変えるきっかけになった。コンコルドにとってもまた復活劇の歴史に新たな一幕が加わることになる。
アネスティンアンダーソンのレイブラウンに続き、今度はエリスが「いい出会いの橋渡し役」を務めたアルバムだ。友が友を呼ぶいいサイクルに入っていった。

演奏の方はというと、エリスのアーシーなギターに加えて、パルミエリのギターも素直な良くうたうギターだ。時にカントリー風の色合いを感じるエリスよりは都会的なセンスを感じる。ニューヨーク住まいが長いせいか、スタジオでありとあらゆる音楽をこなしたせいなのか。

スタンダードな曲は比較的ストレートな解釈。そして、最後は、自分が大好きなジェロームリチャードソンのグループマーチャントで終わる。ファンキーな曲であるが、2人はあまりソウルっぽく無く、2人のスタイルでスインギーにプレーしている。百戦練磨の2人の演奏に派手さは無いが、何気ない大人のプレーの心地よさを感じる一枚だ。

1. Windflower
2. The Night Has A Thousand Eyes
3. My Foolish Heart
4. Close Your Eyes
5. Danny Boy
6. Walkin'
7. Stardust
8. Triste
9. Groove Merchant

Herb Ellis (g)
REMO PALMIER (g)
George Duvivier (b)
Ron Traxler (ds)

Recorded at Bell Sound Studio . New York , October 1977
Originally released on Concord CJ-56


ウインド・フラワー
ハーブ・エリス&レモ・パルミエ,ハーブ・エリス,レモ・パルミエ,ジョージ・デュヴィヴィエ,ロン・トラクスラー
ビクターエンタテインメント

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サドメルはJAZZ ROCKをやっても一味違う・・・・

2007-03-24 | Thad Jones & Mel Lewis & VJO
CENTRAL PARK NORTH / THAD JONES & MEL LEWIS JAZZ ORCHESTRA

SOLID STATESでデビュー作の後、2枚のVILLAGE VANGUARDでのライブアルバム(そういえば、一枚目をまだ紹介していなかった)で本領発揮といったところだろう。

他にも歌伴の2枚
THAD JONES&MEL LEWIS ORCHESTRA,WITH MISS RUTH RROWN

PRSENTING JOE WILLIAMS,THAD JONES-MEL LEWIS & THE JAZZORCHESTRA

はあったが、次なるアルバムは久々2年ぶりののスタジオ録音。
1969年の録音だ。

自分にとっては、この年は忘れられない節目の年。丁度浪人中だったが、いわゆる学生運動のピーク。安田講堂占拠で東大の受験が無くなり、他の大学受験にもしわ寄せがきた年だ。

60年代最後のこの年は社会的にも節目だったのかもしれない。少し気になったので調べてみたたら、

アポロが月面着陸したり、東名高速が全通したり、
電話もダイヤル式からプッシュフォーンに(今では固定電話も無くなりつつあるが)、
インフラや技術が新しい時代を予感させる。

国鉄(この頃はまだJRにはなっていなかった)の初乗りが30円
ビールが130円なのに、初めてできた缶コーヒーが100円
レコードは、その頃から2000円(大金だったな?)
物の値段の価値が今とは大分違う。

音楽の世界は、日本ではグループサウンドブームも終わって、ビリーバンバンの「白いブランコ」や、カルメンマキの「時には母のない子のように」などが流行る時代。
60年代を席捲していたビートルズも、ライブ活動はすでに止めていた。この年最後のレコーディングをして翌70年には解散に。
やはりこの年は、今思えばひとつの時代が終わる色々な意味で節目の年だったのだろう。

JAZZの世界は混沌としていたが、コルトレーン亡き後、時代を引っ張ったのはやはりマイルスとその周辺に集まってきた若者たち。
エレキサウンドに取り組んでいたマイルスは、この年「Bitches Brew」を録音して、これまでのJAZZにひとつの区切りをつけた。

ちょうどJAZZがROCKやSOULの新しい流れに影響を受けて「JAZZROCK」とか「BRASSROCK」などと、試行錯誤をしていた時、このサドメルもひとつのチャレンジをしたのが、このアルバムだ。

内容も少し模様替えがあった。
まずは、2本のギターが入ったこと。ベースのRICHARD DAVISも時にはフェンダーベースに持ち替えている。
そして、編曲は、サドジョーンが一手に引き受けて、徹底的にJAZZROCKとFUNKにチャレンジした作品。ちょっと芸風が違うBOB BROOKRMEYERが、アレンジもメンバーからも抜けている。

編成は従来のフルバンド編成そのままで新しいジャンル、リズムに取り組んだが、さすがサウンドはサドメルの良さが光っている。確かに世の中ROCKが席捲してきたが、単にリズムや雰囲気だけを取り入れただけの安易な「JAZZ+ROCK」とは訳が違う。
サドメルのバンドのカラーにうまくROCKを取り入れて、ベイシーやエリントンが築いたBIGBANDのサウンドの歴史に、「JAZZ×ROCK」の新領域を作った作品だと思う。

そして、このアルバムにJEROME RICHARDSONが作曲した、大好きなGROOVE MERCHANTが入っている。
このアルバムの録音の為に新たにアレンジが行われ、譜面が到着したのも録音直前だったそうだ。さすが、名手が揃っているサックスセクションもこれをこなすには多少のリハーサルが必要だったらしい。
ここでのサックスセクションのソリは、数あるビッグバンドでサックスセクションをフィーチャーした名アレンジ&名演のひとつだろう。学生バンドでもよくとりあげられたが、難易度が高く、この雰囲気を再現した演奏にはなかなかお目にかかれなかった。

自分としては、この一曲でも十分だが、タイトルのCENTARAL PARK NORTHは意欲的なテンポやリズムのチェンジをうまく組み合わせた意欲的な曲だし、QUIETUDEはミディアムテンポのバラードの美しい曲。これも、サドジョーンズ特有のアレンジが施され独自の世界に引き込まれる。ファンキーにピアノを弾いていた、ハナも、ここはジョージシアリング風の流れるようなブロックコードでソロを始める。芸達者である。

A1 TOW AWAY ZONE 4:29
A2 QUIETUDE 4:05
A3 JIVE SAMBA 8:54
B1 THE GROOVE MERCHANT 5:11
B2 BIG DIPPER 5:53
B3 CENTRAL PARK NORTH 9:17

Thad Jones(flh)
Snooky YoungTrumpet,Jimmy Nottengham, Danny Moore,Richard Williams (tp)
Eddie Bert, Jimmy Knepper, Bennie Powell, Chiff Heather (tb)
Jerome Richardson,Jerry Dodgion (as)
Eddie Daniels, Joe Farrelle (ts)
Joe Temperly (bs)
Barry Galbraith,Sam Brown (g)
Roland Hanna (p)
Richard Davis (b)
Mel Lewis (ds)

Recorded Data 1969.6.17&18
Recorded Place A&R Studio NYC
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サドメルオーケストラの大番頭がJAZZ ROCKに挑戦したものの・・・・

2007-03-21 | MY FAVORITE ALBUM
GROOVE MERCHANT / JEROME RICHARDSON

サドメルのオーケストラが誕生した1967年。その頃、ジャズとロックの融合のひとつの形としてブラスロックなるものが誕生した。有名なChicagoやBSTは、この頃結成されている。

ジャズのミュージシャンでも、このジャンルに飛び込んでいった者もいる。チェイスのBILL CHASEなどもその一人であろう。WOODY HERMANのオーケストラでハイノートを出していた。ジャズの世界で頑張っていたそのWOODY HERMAN、あるいはBUDDY RICH、そしてMAYNARD FERGUSONも、ロックの影響を受けた演奏をやるようになっていた。

そして、サドメルのオーケストラも。

サドメルの創設期のリードセクションの親分格JEROME RICHARDSONも、その時期にブラスロックに負けじと、得意のサックスとフルートで、JAZZ ROCKのアルバムを残している。

サドメルの演奏でも有名なGROOVE MERCHANTがアルバムのタイトル曲だ。
実は、この曲の作曲はジェロームリチャードソン自身だ。サドメルのオーケストラでも、CENTRALPARK NORTH に納められているファンキーな曲だ。
サドメルはメンバーの曲やアレンジも多いが、リチャードソンの曲は他にあまり記憶がない。でも、覚えやすいメロディーの好きな曲のひとつだ。

蛇足ながら、SOLID STATEレーベルの創始者のSONNY LESTERも、その後GROOVE MERCHANT というレーベルを作っている。

この好きな曲のGROOVE MERCHANTが入っているので、このアルバムを聴き直してみた。しかし、確かにジャズロックの奔りかもしれないが、内容的にはいまひとつ頂けない。
アレンジはBENNY GOLSON、バックのミュージシャンも、GRADY TATE やERIC GALEといった一流どころが揃っているのに何かが欠けている。
せっかくサドメルのサックスセクションをリードしていたRICHARDSONのソプラノやフルートを全面的にフィーチャーしていながら、良さが浮かび上がってこない。
同じ時期に録音された、WESの「A DAY IN THE LIFE」のアルバムの完成度からすると、雲泥の差である。当時のヒット曲の、JAZZ ROCK演奏集的な薄っぺらな仕上がりであることは否めない。
これは、プロデューサーの違いやレーベルのポリシーだけでもないだろう。
RICHARDSONは、セッションワークの第一人者であって、あまり自分で前面には出ないほうがいいのかもしれない。

GROOVE MERCHANT
TO SIR,WITH LOVE
GIMMIE SIGN
NO MATTER WHAT SHAPE
GIRL YOU’LL BE A WOMAN SOON
KNOCK ON WOOD
ODE TO BILLIE JOE
SUNNY
WHERE IS LOVE
UP.UP AND AWAY

Jerome Richardson (fl,ts,ss)
Eugene E.Young, Joseph Newman (tp,flh)
Alan Raph (btb)
Ernest W.Hayes(p)
Buddy Lucas (bs,harmonica)
Eric Gale, Carl Lynch(g)
Charles W. Rainey(b)
Warren Smith(per)
Grady Tate(ds)

Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ, December 8, 1967
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