博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『「大日本帝国」崩壊』/『江戸の思想史』ほか

2011年03月02日 | 日本史書籍
加藤聖文『「大日本帝国」崩壊 東アジアの1945年』(中公新書、2009年)

アメリカのミズーリ号上で降伏文書の調印がなされた1945年9月2日を終戦の日と見るべきであるという議論がある昨今、本書では敢えて8月15日を起点として、朝鮮・台湾・満洲・南洋諸島・樺太といった大日本帝国の版図の崩壊の様相を見ていきます。

大日本帝国は元来は日本人のみを国民とする小さな国家であったのが、対外戦争を経て植民地帝国・多民族国家へと変貌していった。しかし敗戦までほとんどの日本人はその事実に気付こうともしなかった。問題の根っこはここにあったのだなと気付かされます。

田尻祐一郎『江戸の思想史 人物・方法・連環』(中公新書、2011年2月)

朱子学・国学・平田神学など、タイトル通り江戸時代の思想を総ざらいした本ですが、個人的に印象に残った部分は蘭学の部分。本書によると、蘭学者は好んで中国のことを「支那」と読んでいましたが、そこには中国を文明の中心とする意識がなく、かつ中国を異民族に支配される文弱の国とする負のイメージが付きまとっている。更には、日本を停滞するアジアの中から脱却させなければならないという危機感、国益の追求、武士による支配への不満も、ある種の蘭学者たちの中から生まれてきたとのこと。

蘭学に対するこのような評価は初めて見た気がします。江戸時代の思想でヤバい方向に先鋭化したのは国学や陽明学だけではなかったのだなあと。

伊藤計劃『虐殺器官』(ハヤカワ文庫、2010年2月)

大森望氏の解説によると近未来に託して現在の問題を描くのがSFの得意技ということですが、本書の場合そこはかとなく昨今の中東諸国の革命を思わせる要素が見られるあたり、むしろ未来に託して近い将来の問題を描いたといった方が適切なんじゃないかなあと。

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