博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『中国王朝の起源を探る』

2010年04月27日 | 中国学書籍
竹内康浩『中国王朝の起源を探る』(山川出版社世界史リブレット、2009年3月)

いつの間にか山川出版社の世界史リブレットが第3期に突入していたんですな。そのうちの1冊として刊行されたのが本書。新石器時代から「夏」・殷・西周期に至るまでの王朝形成とその内実について概説してます。著者の竹内氏は近年は『「生き方」の中国史』など中国史全体にわたる著書の刊行が目立ちましたが、本書は珍しく(失礼!)氏の専門分野に関するものです。

本書で注目されるのは「夏王朝」の扱いです。大陸の学者が二里頭遺跡を「夏王朝」に関わるものとし、その延長で文献資料に見える「夏王朝」・「夏代」関係の記述をほとんど無批判に信用し、近年は日本の考古学者も「夏王朝」の実在を認めていく中で、本書では少なくとも現時点で「夏王朝」が実在したとする見方には消極的です。また二里頭遺跡が初期国家に関わる遺跡であると認めつつも、これを何らかの王朝に関わる遺跡であるという見方にはやや懐疑的で、二里頭遺跡を中国王朝史の中に位置づけることについてもっと議論を深めるべきではないかとしています。

大陸の学者がとかく「夏王朝」の実在を前提に議論を進める中で、特に外国の研究者はこういうことについてツッコミを入れ続けた方がいいんじゃないかと常々考えていたので、我が意を得たりという感じです。

このほかに印象に残ったのは、西周王朝を「戦う王朝」と位置づけていることです。確かに金文の記述を総合すると、西周王朝はいつの時期も東夷・淮夷や玁狁といった何らかの勢力と抗争を続けているんですよね。で、本書では淮夷などが後世の匈奴などとは異なり、同じ武器や同じ戦闘方式(ここでは戦車の使用などを指す)を取る共通文明圏に属する勢力であったとしています。この点は専門書や論文などはともかく、従来の概説書ではちゃんと書かれてこなかった点ではないかと思います。

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5 コメント

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なるほど、なるほど、 (かはざかな)
2010-04-27 20:53:10
いままで夏と二里頭とかについて、もやもやしてましたが、
このレビューで、なんとか清楚に落ち着いた、という感じです。
しかし、初期国家と王朝て、違うんですか。
アフリカ史にも頻出しそうな問題でつなあ~。

(*失礼ながら、聞いたところで指摘しますと、
アフリカの考古・歴史学者は、
アフリカにもアジアのような「王朝」「宮廷」が存在した!て言いたがってまいはるそうです)
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Unknown (さとうしん)
2010-04-28 21:36:17
>川魚さま
初期国家と王朝の萌芽は、普通は同一視するもんなんだと思いますが、この人の場合は区別して考えているようですね。
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「同じ文明」?「違う民族」? (巫俊(ふしゅん))
2010-04-29 16:52:49
さっそく書店で探してみようと思います。ありがとうございました。
淮夷の戦闘方式と聞くと心が躍ります。

最近はずっと田舎暮らしが続いていまして、情報が届かない生活がもどかしいですが、
情報に多く接している研究者の方が、(夏王朝のことなど)慎重になるというのは、よく理解できることなんじゃないかと思うようになりました。

>「淮夷が共通文明圏」
これについて愚考しますと、
「日露戦争は共通文明圏に属する勢力の争い」と言ってるのと実は同じですよね。

日露間の武器や戦闘方式が似通っていたように、周淮間の武器や戦闘方式が似通っていたとすると、
それが「同じ文明」なのか、「違う民族」なのかということについては、どちらの立場に立って論じるかの違い、ということになって行きそうですね。
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日露戦争 (川魚)
2010-04-29 19:13:02
巫俊さま>
はじめまして!横レス失礼致します(^^
川魚、と申します。

>日露戦争は共通文明圏に属する勢力の争い

日露戦争は、まさに世界史初の近代戦でもあり、
これは、ある意味同一文明、
すなわち地域的世界を越えた、今でいうグローバルな文明、
「世界社会」とでもいえそうな空間を土台にした、
「(日露同一の)近代文明」国家同士の戦争なのではなかったでしょうか。

こういうて見たら、朝鮮併合や、日清戦争などは、
むしろ「異文明間戦争」みたいな観があります。

*文脈の乱れ、ご容赦ください、
また、論議の要点を外していたら申し訳ありません。
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Unknown (さとうしん)
2010-04-29 21:49:15
>巫俊さま
淮夷も含めて玁狁や鬼方など従来周とは異なる文化を持つとされてきた勢力が実は周と同じ文化圏に属していたのではないかということは、戦争関係の金文を見るとある程度察しがつくので、専門書では時々言及されていますよ。

日本語にはなっていない本ですが、李峰の『西周的滅亡』では玁狁がどのような集団であったのかを詳しく論じていたと思います。

>川魚さま
>こういうて見たら、朝鮮併合や、日清戦争などは、むしろ「異文明間戦争」みたいな観があります。

中国・朝鮮側が日本を自分達と同じ儒教文化圏に属していると思って安心していたら、いつの間にか明治維新なんてのをおこして近代西洋文化を奉じる勢力に変わっていたでござる!という話ですね。確かに「異文明間戦争」と言えますね。
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