博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2017年4月に読んだ本

2017年05月01日 | 読書メーター
儒家思想と中国歴史思惟儒家思想と中国歴史思惟感想中国の歴史理論と言えば「正統論」や「天人相関論」について論じられ、史学史的研究と一体化しているというのが相場だが、そういった要素がほとんど絡んでこない。本書では西洋の歴史思想と比較のうえ、中国人が歴史を「博物館に陳列されたミイラ」とせず、古人と対話することができる図書館の書籍のように扱っていたことを論じるが、それにも却って得とともに失があるようにも思う。また、第一部で議論されている歴史思想と時間の概念との関係については、関係書籍を当たって理解を深めたい。読了日:04月01日 著者:黄 俊傑

赤い星は如何にして昇ったか――知られざる毛沢東の初期イメージ (京大人文研東方学叢書)赤い星は如何にして昇ったか――知られざる毛沢東の初期イメージ (京大人文研東方学叢書)感想前半は『中国の赤い星』以前の毛沢東の写真等図像イメージと情報イメージの変遷について、後半は『中国の赤い星』の成立事情と同書がどう読まれてきたかについて述べる。「天の時、地の利、人の和」を得て成立したという『中国の赤い星』の画期性を示すとともに、戦前・戦中の日本の「支那通」と呼ばれる人々の限界をも示す。ユン・チアンの『マオ』についてはかなり否定的な評価を下しているが、当時の日本の「支那通」のあり方とともに、反中を前提にした中国論の限界を示しているように思う。読了日:04月03日 著者:石川 禎浩

帝国大学―近代日本のエリート育成装置 (中公新書)
帝国大学―近代日本のエリート育成装置 (中公新書)感想戦前の帝国大学に関する制度の変遷を事細かに追っているが、大学改革に翻弄されるのは今も昔も変わらないようだ。個人的に興味深く読んだのは、法学士は幅広い教養を持つべき、文学部は兎角超越主義に陥り、世情に適さないという趣旨により各大学で法文学部が設置されたということと、秋入学から春入学に切り替えられた経緯、学校推薦と一括・定期採用による就職活動に先立ち、現在の形に近い自由な就活が行われていた時期があったという話など。読了日:04月06日 著者:天野 郁夫

中国の時空論―甲骨文字から相対性理論まで中国の時空論―甲骨文字から相対性理論まで感想甲骨文字から元・明の頃までを範囲として、西洋哲学的な観点から中国の時空のとらえ方を読み解く。解説にある通り、当時中国で主流であった「弁証法的唯物主義」(要するにマルクス・レーニン的な哲学思想)を「正解」と位置づけている点が足枷になっている感があるが、本書での議論が先日読んだ池田知久の講談社学術文庫の『老子』で提示していた、中国では古来西洋的な意味での哲学が存在したかという問いに対する答えにはなっていると思う。読了日:04月08日 著者:劉 文英

フシギなくらい見えてくる! 本当にわかる倫理学フシギなくらい見えてくる! 本当にわかる倫理学感想「表現の自由はどこまで認められるか?」「行きすぎた環境保護運動をどう考えるか?」「死刑は絶対に必要なものなのか?」など、議論の俎上に上がりやすいテーマによって倫理学の考え方を見ていく。個人的には、序盤の倫理学と哲学・宗教との区分や違い、哲学は存在論・認識論・価値論の三領域から成るということがわかっただけでも充分本書を読んだ価値があると思った。読了日:04月11日 著者:田上 孝一

アメリカ人の物語 第1巻 青年将校ジョージ・ワシントンアメリカ人の物語 第1巻 青年将校ジョージ・ワシントン感想アメリカ独立革命から南北戦争まで全3期13巻を予定した
シリーズということだが、今回はフレンチ・アンド・インディアン戦争からレキシントン・コンコードの戦いの勃発まで。この時期はワシントンはまだ頭角を現しつつも我の強い若者というイメージで、植民地人は「アメリカ人」というよりはイギリス人としてのアイデンティティが強く、インディアンとの力関係も五分五分といったところ。これらが次巻以降どう変わっていくのだろうか。読了日:04月15日 著者:西川秀和

夢みる教養:文系女性のための知的生き方史 (河出ブックス)夢みる教養:文系女性のための知的生き方史 (河出ブックス)感想日本女性の学びの近現代史。相応の教養や社会的地位を求める女性たちが、当時の社会の構造や、川端康成であるとか太宰治といった彼女たちのメンターとなる男性作家によって、望ましい枠に嵌められていくさまが描かれる。そしてその枠は、21世紀の現在も違った形で存在しているのではないかという問題提起がなされている。暗示的な議論が多く、必ずしも明確な語り口ではないが、終盤で、最近何かと物議を醸している曾野綾子夫妻が取り上げられているのは、やはり何かの暗示なのだろうか。読了日:04月17日 著者:小平 麻衣子

謎の漢字 - 由来と変遷を調べてみれば (中公新書)謎の漢字 - 由来と変遷を調べてみれば (中公新書)感想変わった漢字のトリビア本かと思いきや、その手の話は第一部で終わり、第二部で市川鰕蔵の名乗りについて、第三部では中国の科挙で用いられた用字・筆法についてと話題が移る。特に第三部では、日本でもありがちな「正しい漢字の書き方」にこだわることのバカバカしさが示されていて面白く読んだ。読了日:04月21日 著者:笹原宏之 著

社会学入門 〈多元化する時代〉をどう捉えるか (NHKブックス)社会学入門 〈多元化する時代〉をどう捉えるか (NHKブックス)感想特に理論社会学の入門書ということになると思う。基礎理論・一般理論があるようでないのではないかという問いは、歴史学でもある程度あてはまるように思う。マックス・ウェーバーに関して、「なぜ日本だけが西欧に追いつけたのか?」という問い掛けが、中国などの経済成長により土台ごと無意味化し、「なぜ西欧が最初に近代化できたのか?」という問いをも陳腐化させかねないという指摘が印象的。読了日:04月22日 著者:稲葉 振一郎

文部省の研究 「理想の日本人像」を求めた百五十年 (文春新書)文部省の研究 「理想の日本人像」を求めた百五十年 (文春新書)感想文部省及び文部省が推進した「理想の日本人像」の歴史。早い段階から内務省・陸軍省・CIE・文教族など、その時々の実力者によって文部省と文部行政が牛耳られていたさまが描かれる。今は差し詰め「財務省文科局」といったところだろうか。ただ、1890年教育勅語発布当初の日本が極東の弱小国だったというのは一面的な評価ではないかと思う。欧米に対してはその通りだが、他の東アジア諸国に対しては既に台湾出兵・琉球処分・江華島事件等々をおこしており、現在の北朝鮮と同様に「軍事大国」という面もあったのではないか。読了日:04月25日 著者:辻田 真佐憲

歴史を哲学する――七日間の集中講義 (岩波現代文庫)歴史を哲学する――七日間の集中講義 (岩波現代文庫)感想歴史はよく言われるような「物語」ではなく「探究」であるという観点から論じられる歴史哲学論(だと思う)。過去の出来事はそれを確認する方法に応じて姿を現すものであり、「探究」の手続きと不可分であるであるという主張自体には納得できるものの、こういう方向で本書の「第2日」で議論されている歴史認識の問題に対処できるのかという不安も残る。読了日:04月27日 著者:野家 啓一

現代中国経営者列伝 (星海社新書)現代中国経営者列伝 (星海社新書)感想レノボ・ハイアール・アリババなど中国有名企業の創業者の事績から読み解く中国経済。レノボやハイアールの行き詰まりを見ていると、やはり電機製品中心の「ものづくり」にこだわるのはもう無理なんだなと感じる。そして所有するサッカークラブの八百長疑惑に嫌気がさしたと思ったら中国サッカー協会とスポンサー契約を結び、青少年の育成に資金を投じた王健林など、彼らのある種の意識の高さが印象に残った。20~30年後、日本は意識の高さでも中国の後塵を拝することになるのかもしれない。読了日:04月28日 著者:高口 康太

征夷大将軍・護良親王 (シリーズ・実像に迫る7)征夷大将軍・護良親王 (シリーズ・実像に迫る7)感想書店で手に取ってよくあるムック形式の歴史本ではないかと一瞬不安になったが、文章部分の内容もちゃんと濃い。その事績が喧伝される割には護良親王の活躍した期間は存外に短かったのだなと。そのあたりは義経の生涯とも通じるように思う。末尾でその遺児興良親王の生涯もまとめられているが、やはり父親のコピーのようである。読了日:04月30日 著者:亀田俊和
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