○色彩俳句002・黒01・攝津幸彦
色彩俳句。赤に続いて第2弾は黒。
黒Black 000000 ●■▲Nazcaカラーチャート
○「黒船の黒の淋しさ靴にあり」(攝津幸彦01)
○季語(無季)
【鑑賞】:自分の革靴の黒色に黒船の黒の淋しさを見つけました。これは俳句の方法としては「発見」というものですが、自らの靴に「黒船の黒」を発見することは至難の業です。
○攝津幸彦(せっつゆきひこ)(1947~1996.10.13「南風忌」)
○好きな一句「南国に死して御恩のみなみかぜ」02
○季語(無季)
【Profile】:兵庫県生まれ。「関学俳句会」創立に参加し、「あばんせ」を創刊。学生俳句会のつながりで、立命館大学の→坪内稔典らと交流を持つ。1970年、通信会社に入社し上京。1974年、「鳥子幻影」で俳句研究「第二回五十句競作」にて第一席となり、編集長だった→高柳重信に見出される。1980年には俳誌「豈」創刊に→仁平勝らとともに参加。前衛俳句の一大拠点に育て上げた。
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攝津幸彦掲載句
03生き急ぐ馬のどのゆめも馬(無季)〈次元27・超次元5(夢4)〉2011/1/23
04晩餐や万国地図の紅を盛り(無季)〈色彩30・紅2〉2011/2/16
05ひんやりとしゆりんと朱夏の宇宙駅(朱夏・三夏)〈色彩49・朱2〉2011/7/13
06路地裏を夜汽車と思ふ金魚かな(金魚・三夏)〈次元83・裏(空間)3〉2012/6/24
07物干しに美しき知事垂れてをり(無季)〈特集299・美し俳句1-8〉2016/10/7
○技法俳句001・オノマトペ01・中村苑子
「技法」とは俳句を作る際に使われた「わざ」です。「方法」とは俳句を作る理由に近いものであり、技法よりもより根源的なものです。
技法の第1弾は「オノマトペ」です。オノマトペとは擬声語および擬態語のことをいいます。
onomatopee[フランス語] ものの音や声などをまねた擬声語(ざあざあ、じょきじょきなど)、あるいは状態などをまねた擬態語(てきぱき、きらきらなど)をさすことば。(出典Wikipedia)
○「おんおんと氷河を辷る乳母車」(中村苑子01)
○季語(無季)
【鑑賞】:乳母車が氷河をすべっていきます。そのときの音が「おんおん」ということです。むしろ音というよりは「声」というべきでしょう。
○中村苑子(なかむらそのこ)(1913~2001)
○好きな一句「わが春も春の木馬も傷みたり」02
○季語(春)
【Profile】:静岡県出身。1944年「馬酔木」「鶴」に投句を始め、以後→久保田万太郎の「春燈」、後に→三橋鷹女に師事。→高柳重信らと「俳句評論」創刊に加わった。1975年第22回現代俳句協会賞受賞。
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中村苑子掲載句
03桃のなか別の昔が夕焼けて(桃・秋)〈次元・昔(時間)〉2010/10/2
04火を消して一つの顔を覚えおく(無季)〈五体・顔〉2010/11/23
05野遊びの傷舐めて血の甘かりし(野遊び・春)〈五感・味覚(甘)〉2011/3/28
06黄泉に来てまだ髪梳くは寂しけれ(無季)〈次元・超次元(彼岸)〉2012/9/9
07胎内の水音聴いてゐる立夏(立夏)〈五感・聴覚〉2014/5/5
○方法俳句002・同質回帰01・鈴木六林男
「同質回帰」という言葉は造語ですが、なにかしら俳句という文学に深く関係しているような気がします。「いつのまにか知らないうちにみずからに帰る」というような意味ですが人間の世界の「因果応報」とも少し違うもっと軽くもっと根源的な現象をいうのでしょうか。「うかつにも」という言葉が最も近いのかも知れません。
○「昼寝よりさめて寝ている者を見る」(『悪霊』1964)(鈴木六林男01)
○季語(昼寝・三夏)
【鑑賞】:昼寝をしている者をみている自分もさっきまで、同じように昼寝をしていたひとりです。起きてしまった自分は「うかつにも」まだ寝ている者を見てしまったのです。
○鈴木六林男(すずきむりお)(1919~2004)
○好きな一句「遺品あり岩波文庫『阿部一族』」(『荒天』1949)02
○季語(無季)
【Profile】:1946年「花曜」創刊、主宰。「京大俳句」時代より→西東三鬼に師事。46年より60年まで現代俳句協会関西地区議長、大阪俳人クラブ、大阪俳句史研究会会長。句集は「荒天」「谷間の旗」「第三突堤」「桜島」「国境」「王国」「後座」「悪霊」「雨の時代」など、文集に「定住游学」など。現代俳句協会賞(2002年)、大阪府芸術文化功労賞、 『雨の時代』で第29回蛇笏賞受賞。
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鈴木六林男掲載句
03身をめぐる血の管あまた冬籠(『雨の時代』1994)(冬籠・三冬)〈五体・血〉2010/12/21
04墓標かなし青鉛筆をなめて書く(『荒天』1949)(無季)〈色彩・蒼〉2012/7/11
05ヒロシマ忌泳ぎし素足地を濡らす(『第三突堤』1957)(ヒロシマ忌・晩夏)〈五体・素足〉2012/8/7
06地球儀に空のなかりし野分かな(『雨の時代』1994)(野分・初秋)〈特集・天体(地球)〉2013/9/15
07五月の夜未来ある身の髪匂う(『谷間の旗』1955)(五月・初夏)〈五体・髪〉2018/5/1
08遮断機へ青春去りし胸並ぶ(『谷間の旗』1955)(無季)〈次元・青春(時間)〉2021/12/12
09確実に近づく地震ビアホール(ビアホール・三夏)〈例句〉2022/8/4
10暗闇の眼玉濡さず泳ぐなり(『谷間の旗』1955)(泳ぐ・晩夏)〈例句〉2024/8/14
○五感俳句002・嗅覚01・野沢凡兆
「五感俳句」の第2弾は鼻を使う嗅覚(きゅうかく)、あるいは臭覚(しゅうかく)。
○「市中は物のにほひや夏の月」(野沢凡兆01)
○季語(夏の月・夏)
【鑑賞】:町中にはいろいろな匂いが漂ってきます。この句の「にほひ」はおそらく夕餉の支度の匂いではないでしょうか。おりしも暮れ近い空には夏の月が出ています。子供たちが家に帰れば一気に暮れて夏の夜が来ます。
○野沢凡兆(のざわぼんちょう)(?~1714)
○好きな一句「下京や雪つむ上の夜の雨」02
○季語(雪・冬)
【Profile】:京都に出て医を生業としていた。→松尾芭蕉とは『おくのほそ道』の旅を終えて京都に来たとき、去来を介して初対面。客観的で印象鮮明な句風。去来とともに『猿蓑』を編纂。生年不詳。
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野沢凡兆掲載句
03時雨るるや黒木つむ屋の窓あかり(時雨・冬)〈色彩・黒〉2013/1/30
○次元俳句002・彼岸(超次元)01・高屋窓秋
次元俳句の第2弾。超次元。この世に対するあの世。此岸に対する彼岸。
○「黄泉路にて誕生石を拾ひけり」(高屋窓秋01)
○季語(無季)
【鑑賞】:あの世へと渡る黄泉への道で拾った物は自分の誕生石でした。生と死を短詩形に織り込んだ名句だと思います。
○高屋窓秋(たかやそうしゅう)(1910~1999)
○好きな一句「山鳩よみればまはりに雪がふる」02
○季語(雪・冬)
【Profile】:法政大学文学部卒。満州電信電話株に入社。戦後は東京放送の各局長を歴任。若くして→水原秋桜子に師事、「馬酔木」の第一期同人となりのち「風」「京大俳句」に拠るなど常に新興俳句運動の先導つとめたが、満州赴任とともに、中絶。戦後は「俳句評論」「天狼」で断続的に活動。