守田です。(20110502 03:00)
すでにお知らせしたように、4月29日に、内閣官房参与だった小佐古敏荘さんが
政府に抗議して辞任しました。新聞ではその理由の一部しか明らかにされ
ませんでしたが、その後、辞意表明の全文がネットにアップされたので読み込んで
みました。
するとこれに対して行われた菅首相や、枝野官房長官の反論が、実は、
小佐古さんが唱えていることへの応接になっておらず、辞意表明の核心部分には
こたえていないことが分かりました。小佐古さんは、SPEEDIのデータの国民への
開示や、法の順守などを求めているからです。
さらにここにはこの辞任劇そのものよりも、重大な事実が盛り込まれています。
「全ての情報を公開する」と述べている政府が、その実、重要な情報、とくに
東日本の被ばく情報を未だに隠し持っていること、政府が法令を順守して
ないこと、原発サイトでの労働上限に500ミリシーベルトが採用されようとしている
こと、それらが「放射線審議会」でのこれまでの討議をまったく無視して
なされようとしてることなどなどです。
これらの点を踏まえつつ、この辞任の背景をいろいろ考察してみました。そう
しているうちに、どうも背景に何かがあるように思えてきました。これは単なる1人
の人物の「学者的良心」から発してたことではなく、もっと構造的なものが背後に
あるのではと思えるのです。
特に僕は、現在の福島原発の状況を分析しようとして、靄のかかったような
状態、情報が非常につかみにくいものを感じていますが、この事態とこの辞任劇は
どこかでつながっているように思えます。こうした視点に立って、以下、二回に
わたって、「小佐古さん辞任劇」を解析してみたいと思います。
まず小佐古さんの辞任表明を分析していきたいと思います。
小佐古さんは、主に2点を主張しています。
1.原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい
2.「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい
以上です。
1の中で、小佐古さんは、政府がSPEEDIのデータを公表しなかったこと、
同時に今なお公表してないことを批判している。
「初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、
とりわけ小児の甲状腺の等価線量については、その数値を20、30km圏の
近傍のみならず、福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県、他の関東、東北の
全域にわたって、隠さず迅速に公開すべきである。さらに、文部科学省所管の
日本原子力研究開発機構によるWSPEEDIシステム(数10kmから
数1000kmの広域をカバーできるシステム)のデータを隠さず開示し、
福島県、茨城県、栃木県、群馬県のみならず、関東、東北全域の、公衆の
甲状腺等価線量、並びに実効線量を隠さず国民に開示すべきである。」
というのですが、ここには政府が未だ重要情報を隠し持っていることが明確に
示されています。小佐古さんの辞任の問題よりも、こちらの方が重大で深刻な
ことです。政府は未だに被ばく状況を隠していることがここに明示されている。
また小佐古さんは次のように述べています。
「放射線審議会での決定事項をふまえないこの行政上の手続き無視は、
根本からただす必要があります。500mSvより低いからいい等の理由から
極めて短時間にメールで審議、強引にものを決めるやり方には大きな疑問を
感じます。重ねて、この種の何年も議論になった重要事項をその決定事項
とは違う趣旨で、「妥当」と判断するのもおかしいと思います。放射線審議会
での決定事項をまったく無視したこの決定方法は、誰がそのような方法を
とりそのように決定したのかを含めて、明らかにされるべきでありましょう。
この点、強く進言いたします。」
ようするに、現場労働での上限の250ミリシーベルトへの引き上げや、500ミリ
へのさらなる引き上げの検討などが、「放射線審議会」の討議を無視して
行われていること、その点で法的正統性が無視されていることを、小佐古さん
は問題にしている。
ちなみに放射線審議会とは何かと言うと、文科省に設置されたもので
「「放射線障害防止の技術的基準に関する法律(昭和33年5月21日法律第
162号)」に基づき、放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを
目的として、文部科学省に設置されている諮問機関。関係行政機関の長は、
放射線障害の防止に関する技術的基準を定めるときは、放射線審議会に
諮問しなければならない」(文科省)とされています。
これが無視されていると言う。ということは、ここからは、放射線審議会を構成
する学者グループが、この間、政府から無視されているのではないかという
ことも、垣間見えてきます。
その上で、2の国際常識とヒューマニズムのところで、小佐古さんは次のように
述べている。
「警戒期ではあるにしても、緊急時(2,3日あるいはせいぜい1,2週間くらい)
に運用すべき数値をこの時期に使用するのは、全くの間違いであります。
警戒期であることを周知の上、特別な措置をとれば、数カ月間は最大、年間
10mSvの使用も不可能ではないが、通常は避けるべきと考えます。年間
20mSv近い被ばくをする人は、約8万4千人の原子力発電所の放射線
業務従事者でも、極めて少ないのです。この数値を乳児、幼児、小学生に
求めることは、学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムから
しても受け入れがたいものです」。
注目すべきは10ミリシーベルトの使用も不可能ではないが、20ミリシーベルト
ではいけないと言っている点です。
これは実は、4月13日に原子力安全委員会が文科省に対して行った提言に
沿う内容なのです。これとて放射線管理区域を大きく上回るもので、
ヒューマニズムの観点から許容できないと思うのですが、ともあれ、ここには
10ミリシーベルトなのか、20ミリシーベルトなのかという論争があったことが
見えてくる。そしてその論争において、原子力安全委員会と小佐古さんは
敗れたと思われるのです。
つまり大きく見ていくならば、ここには政府が、大きな被ばく情報を未だに
隠していること、小佐古さんが、それに与しえないと考えたことが現れています。
それを前提に推論すると、おそらくそこに、大変な情報があるのではないか。
かなりひどい汚染実態があり、小佐古さんは、その点で「学者としての生命に
かかわる」といううめき声を出したのではないか。そうしか思えない。
なぜなら20ミリシーベルトで、「学者としての生命にかかわる」のならば、10ミリ
シーベルトではかかわらなかったのかという素朴な疑問が沸くからです。
しかし小佐古さんは、会見で涙まで流していた。自分の孫をそんなところに
晒したくないと、顔をくしゃくしゃにゆがめていた。単に、20ミリシーベルトが
許容できないというだけでなく、何か、そうまで思いつめねばならないことを、
小佐古さんが、知っているのではないか。だから離脱したのではないかと
思えてなりません。
同時に、これは原子力安全委員会が政府の中で、脇においやられていることの
端的な表現なのではないか。おそらく、小佐古さんは、この決定を1人でした
のではなく、学者仲間と話し合って決めているのではないかと思えます。
「私がここにいる意味はない」とも語っていましたが、それは小佐古さんを
取り巻く学者グループが排除されていることを意味しているのではないか。
どうもそのように思えます。
・・・そしてそのように考えると、この間の原発の現状に、靄がかかったような
状態になっていく過程が少し見えてくるように思えます。ただしこれほど重大情報が
ここにありながら、これを何らおいかけないマスコミにもため息がでますが。
あるいはマスコミも再び事故初期のようにコントロールされているのでしょうか。
これらの点は、次回(88)で考察したいと思います。
****************************
内閣官房参与の辞任にあたって(辞意表明)
平成23年4月29日 内閣官房参与 小佐古敏荘
平成23年3月16日、私、小佐古敏荘は内閣官房参与に任ぜられ、原子力
災害の収束に向けての活動を当日から開始いたしました。そして災害後、
一ヶ月半以上が経過し、事態収束に向けての各種対策が講じられております
ので、4月30日付けで参与としての活動も一段落させて頂きたいと考え、
本日、総理へ退任の報告を行ってきたところです。
なお、この間の内閣官房参与としての活動は、報告書「福島第一発電所
事故に対する対策について」にまとめました。これらは総理他、関係の皆様方
にお届け致しました。
私の任務は「総理に情報提供や助言」を行うことでありました。政府の行って
いる活動と重複することを避けるため、原子力災害対策本部、原子力安全
委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他の活動を逐次レビューし、
それらの活動の足りざる部分、不適当と考えられる部分があれば、それに
対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りました。
特に、原子力災害対策は「原子力プラントに係わる部分」、「環境、放射線、
住民に係わる部分」に分かれますので、私、小佐古は、主として「環境、放射線、
住民に係わる部分」といった『放射線防護』を中心とした部分を中心にカバー
して参りました。
ただ、プラントの状況と環境・住民への影響は相互に関連しあっておりますので、
原子炉システム工学および原子力安全工学の専門家とも連携しながら活動を
続けて参りました。
さらに、全体は官邸の判断、政治家の判断とも関連するので、福山哲郎内閣
官房副長官、細野豪志総理補佐官、総理から直命を受けている空本誠喜
衆議院議員とも連携して参りました。
この間、特に対応が急を要する問題が多くあり、またプラント収束および環境
影響・住民広報についての必要な対策が十分には講じられていなかったことから、
3月16日、原子力災害対策本部および対策統合本部の支援のための「助言
チーム(座長:空本誠喜衆議院議員)」を立ち上げていただきました。まとめた
「提言」は、逐次迅速に、官邸および対策本部に提出しました。それらの一部は
現実の対策として実現されました。
ただ、まだ対策が講じられていない提言もあります。とりわけ、次に述べる、
「法と正義に則り行われるべきこと」、「国際常識とヒューマニズムに則りやって
いただくべきこと」の点では考えていることがいくつもあります。今後、政府の
対策の内のいくつかのものについては、迅速な見直しおよび正しい対策の
実施がなされるよう望むところです。
1.原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい
この1ヶ月半、様々な「提言」をしてまいりましたが、その中でも、とりわけ
思いますのは、「原子力災害対策も他の災害対策と同様に、原子力災害対策に
関連する法律や原子力防災指針、原子力防災マニュアルにその手順、対策が
定められており、それに則って進めるのが基本だ」ということです。
しかしながら、今回の原子力災害に対して、官邸および行政機関は、そのことを
軽視して、その場かぎりで「臨機応変な対応」を行い、事態収束を遅らせている
ように見えます。
とりわけ原子力安全委員会は、原子力災害対策において、技術的な指導
・助言の中核をなすべき組織ですが、法に基づく手順遂行、放射線防護の
基本に基づく判断に随分欠けた所があるように見受けました。例えば、住民の
放射線被ばく線量(既に被ばくしたもの、これから被曝すると予測されるもの)は、
緊急時迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)によりなされるべき
ものでありますが、それが法令等に定められている手順どおりに運用されて
いない。法令、指針等には放射能放出の線源項の決定が困難であることを
前提にした定めがあるが、この手順はとられず、その計算結果は使用できる
環境下にありながらきちんと活用されなかった。また、公衆の被ばくの状況も
SPEEDIにより迅速に評価できるようになっているが、その結果も迅速に
公表されていない。
初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、
とりわけ小児の甲状腺の等価線量については、その数値を20、30km圏の
近傍のみならず、福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県、他の関東、東北の
全域にわたって、隠さず迅速に公開すべきである。さらに、文部科学省所管の
日本原子力研究開発機構によるWSPEEDIシステム(数10kmから
数1000kmの広域をカバーできるシステム)のデータを隠さず開示し、
福島県、茨城県、栃木県、群馬県のみならず、関東、東北全域の、公衆の
甲状腺等価線量、並びに実効線量を隠さず国民に開示すべきである。
また、文部科学省においても、放射線規制室および放射線審議会における
判断と指示には法手順を軽視しているのではと思わせるものがあります。
例えば、放射線業務従事者の緊急時被ばくの「限度」ですが、この件は既に
放射線審議会で国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告の国内法令
取り入れの議論が、数年間にわたり行われ、審議終了事項として本年
1月末に「放射線審議会基本部会中間報告書」として取りまとめられ、
500mSvあるいは1Svとすることが勧告されています。
法の手順としては、この件につき見解を求められれば、そう答えるべきで
あるが、立地指針等にしか現れない40-50年前の考え方に基づく、250m
Svの数値使用が妥当かとの経済産業大臣、文部科学大臣等の諮問に
対する放射線審議会の答申として、「それで妥当」としている。ところが、
福島現地での厳しい状況を反映して、今になり500mSvを限度へとの、
再引き上げの議論も始まっている状況である。
まさに「モグラたたき」的、場当たり的な政策決定のプロセスで官邸と
行政機関がとっているように見える。放射線審議会での決定事項を
ふまえないこの行政上の手続き無視は、根本からただす必要があります。
500mSvより低いからいい等の理由から極めて短時間にメールで審議、
強引にものを決めるやり方には大きな疑問を感じます。重ねて、この種の
何年も議論になった重要事項をその決定事項とは違う趣旨で、「妥当」と
判断するのもおかしいと思います。放射線審議会での決定事項をまったく
無視したこの決定方法は、誰がそのような方法をとりそのように決定したのかを
含めて、明らかにされるべきでありましょう。この点、強く進言いたします。
2.「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい
緊急時には様々な特例を設けざるを得ないし、そうすることができるわけ
ですが、それにも国際的な常識があります。それを行政側の都合だけで
国際的にも非常識な数値で強引に決めていくのはよろしくないし、そのような
決定は国際的にも非難されることになります。
今回、福島県の小学校等の校庭利用の線量基準が年間20mSvの被曝を
基礎として導出、誘導され、毎時3.8μSvと決定され、文部科学省から
通達が出されている。これらの学校では、通常の授業を行おうとしているわけで、
その状態は、通常の放射線防護基準に近いもの(年間1mSv,特殊な例でも
年間5mSv)で運用すべきで、警戒期ではあるにしても、緊急時(2,3日
あるいはせいぜい1,2週間くらい)に運用すべき数値をこの時期に使用する
のは、全くの間違いであります。警戒期であることを周知の上、特別な措置を
とれば、数カ月間は最大、年間10mSvの使用も不可能ではないが、通常は
避けるべきと考えます。年間20mSv近い被ばくをする人は、約8万4千人の
原子力発電所の放射線業務従事者でも、極めて少ないのです。この数値を
乳児、幼児、小学生に求めることは、学問上の見地からのみならず、私の
ヒューマニズムからしても受け入れがたいものです。年間10mSvの数値も、
ウラン鉱山の残土処分場の中の覆土上でも中々見ることのできない数値で
(せいぜい年間数mSvです)、この数値の使用は慎重であるべきであります。
小学校等の校庭の利用基準に対して、この年間20mSvの数値の使用には
強く抗議するとともに、再度の見直しを求めます。
また、今回の福島の原子力災害に関して国際原子力機関(IAEA)の
調査団が訪日し、4回の調査報告会等が行われているが、そのまとめの
報告会開催の情報は、外務省から官邸に連絡が入っていなかった。
まさにこれは、国際関係軽視、IAEA軽視ではなかったかと思います。
また核物質計量管理、核査察や核物質防護の観点からもIAEAと今回の
事故に際して早期から、連携強化を図る必要があるが、これについて、
その時点では官邸および行政機関は気付いておらず、原子力外交の
機能不全ともいえる。国際常識ある原子力安全行政の復活を強く求める
ものである。以上
http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/200/80519.html
すでにお知らせしたように、4月29日に、内閣官房参与だった小佐古敏荘さんが
政府に抗議して辞任しました。新聞ではその理由の一部しか明らかにされ
ませんでしたが、その後、辞意表明の全文がネットにアップされたので読み込んで
みました。
するとこれに対して行われた菅首相や、枝野官房長官の反論が、実は、
小佐古さんが唱えていることへの応接になっておらず、辞意表明の核心部分には
こたえていないことが分かりました。小佐古さんは、SPEEDIのデータの国民への
開示や、法の順守などを求めているからです。
さらにここにはこの辞任劇そのものよりも、重大な事実が盛り込まれています。
「全ての情報を公開する」と述べている政府が、その実、重要な情報、とくに
東日本の被ばく情報を未だに隠し持っていること、政府が法令を順守して
ないこと、原発サイトでの労働上限に500ミリシーベルトが採用されようとしている
こと、それらが「放射線審議会」でのこれまでの討議をまったく無視して
なされようとしてることなどなどです。
これらの点を踏まえつつ、この辞任の背景をいろいろ考察してみました。そう
しているうちに、どうも背景に何かがあるように思えてきました。これは単なる1人
の人物の「学者的良心」から発してたことではなく、もっと構造的なものが背後に
あるのではと思えるのです。
特に僕は、現在の福島原発の状況を分析しようとして、靄のかかったような
状態、情報が非常につかみにくいものを感じていますが、この事態とこの辞任劇は
どこかでつながっているように思えます。こうした視点に立って、以下、二回に
わたって、「小佐古さん辞任劇」を解析してみたいと思います。
まず小佐古さんの辞任表明を分析していきたいと思います。
小佐古さんは、主に2点を主張しています。
1.原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい
2.「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい
以上です。
1の中で、小佐古さんは、政府がSPEEDIのデータを公表しなかったこと、
同時に今なお公表してないことを批判している。
「初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、
とりわけ小児の甲状腺の等価線量については、その数値を20、30km圏の
近傍のみならず、福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県、他の関東、東北の
全域にわたって、隠さず迅速に公開すべきである。さらに、文部科学省所管の
日本原子力研究開発機構によるWSPEEDIシステム(数10kmから
数1000kmの広域をカバーできるシステム)のデータを隠さず開示し、
福島県、茨城県、栃木県、群馬県のみならず、関東、東北全域の、公衆の
甲状腺等価線量、並びに実効線量を隠さず国民に開示すべきである。」
というのですが、ここには政府が未だ重要情報を隠し持っていることが明確に
示されています。小佐古さんの辞任の問題よりも、こちらの方が重大で深刻な
ことです。政府は未だに被ばく状況を隠していることがここに明示されている。
また小佐古さんは次のように述べています。
「放射線審議会での決定事項をふまえないこの行政上の手続き無視は、
根本からただす必要があります。500mSvより低いからいい等の理由から
極めて短時間にメールで審議、強引にものを決めるやり方には大きな疑問を
感じます。重ねて、この種の何年も議論になった重要事項をその決定事項
とは違う趣旨で、「妥当」と判断するのもおかしいと思います。放射線審議会
での決定事項をまったく無視したこの決定方法は、誰がそのような方法を
とりそのように決定したのかを含めて、明らかにされるべきでありましょう。
この点、強く進言いたします。」
ようするに、現場労働での上限の250ミリシーベルトへの引き上げや、500ミリ
へのさらなる引き上げの検討などが、「放射線審議会」の討議を無視して
行われていること、その点で法的正統性が無視されていることを、小佐古さん
は問題にしている。
ちなみに放射線審議会とは何かと言うと、文科省に設置されたもので
「「放射線障害防止の技術的基準に関する法律(昭和33年5月21日法律第
162号)」に基づき、放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを
目的として、文部科学省に設置されている諮問機関。関係行政機関の長は、
放射線障害の防止に関する技術的基準を定めるときは、放射線審議会に
諮問しなければならない」(文科省)とされています。
これが無視されていると言う。ということは、ここからは、放射線審議会を構成
する学者グループが、この間、政府から無視されているのではないかという
ことも、垣間見えてきます。
その上で、2の国際常識とヒューマニズムのところで、小佐古さんは次のように
述べている。
「警戒期ではあるにしても、緊急時(2,3日あるいはせいぜい1,2週間くらい)
に運用すべき数値をこの時期に使用するのは、全くの間違いであります。
警戒期であることを周知の上、特別な措置をとれば、数カ月間は最大、年間
10mSvの使用も不可能ではないが、通常は避けるべきと考えます。年間
20mSv近い被ばくをする人は、約8万4千人の原子力発電所の放射線
業務従事者でも、極めて少ないのです。この数値を乳児、幼児、小学生に
求めることは、学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムから
しても受け入れがたいものです」。
注目すべきは10ミリシーベルトの使用も不可能ではないが、20ミリシーベルト
ではいけないと言っている点です。
これは実は、4月13日に原子力安全委員会が文科省に対して行った提言に
沿う内容なのです。これとて放射線管理区域を大きく上回るもので、
ヒューマニズムの観点から許容できないと思うのですが、ともあれ、ここには
10ミリシーベルトなのか、20ミリシーベルトなのかという論争があったことが
見えてくる。そしてその論争において、原子力安全委員会と小佐古さんは
敗れたと思われるのです。
つまり大きく見ていくならば、ここには政府が、大きな被ばく情報を未だに
隠していること、小佐古さんが、それに与しえないと考えたことが現れています。
それを前提に推論すると、おそらくそこに、大変な情報があるのではないか。
かなりひどい汚染実態があり、小佐古さんは、その点で「学者としての生命に
かかわる」といううめき声を出したのではないか。そうしか思えない。
なぜなら20ミリシーベルトで、「学者としての生命にかかわる」のならば、10ミリ
シーベルトではかかわらなかったのかという素朴な疑問が沸くからです。
しかし小佐古さんは、会見で涙まで流していた。自分の孫をそんなところに
晒したくないと、顔をくしゃくしゃにゆがめていた。単に、20ミリシーベルトが
許容できないというだけでなく、何か、そうまで思いつめねばならないことを、
小佐古さんが、知っているのではないか。だから離脱したのではないかと
思えてなりません。
同時に、これは原子力安全委員会が政府の中で、脇においやられていることの
端的な表現なのではないか。おそらく、小佐古さんは、この決定を1人でした
のではなく、学者仲間と話し合って決めているのではないかと思えます。
「私がここにいる意味はない」とも語っていましたが、それは小佐古さんを
取り巻く学者グループが排除されていることを意味しているのではないか。
どうもそのように思えます。
・・・そしてそのように考えると、この間の原発の現状に、靄がかかったような
状態になっていく過程が少し見えてくるように思えます。ただしこれほど重大情報が
ここにありながら、これを何らおいかけないマスコミにもため息がでますが。
あるいはマスコミも再び事故初期のようにコントロールされているのでしょうか。
これらの点は、次回(88)で考察したいと思います。
****************************
内閣官房参与の辞任にあたって(辞意表明)
平成23年4月29日 内閣官房参与 小佐古敏荘
平成23年3月16日、私、小佐古敏荘は内閣官房参与に任ぜられ、原子力
災害の収束に向けての活動を当日から開始いたしました。そして災害後、
一ヶ月半以上が経過し、事態収束に向けての各種対策が講じられております
ので、4月30日付けで参与としての活動も一段落させて頂きたいと考え、
本日、総理へ退任の報告を行ってきたところです。
なお、この間の内閣官房参与としての活動は、報告書「福島第一発電所
事故に対する対策について」にまとめました。これらは総理他、関係の皆様方
にお届け致しました。
私の任務は「総理に情報提供や助言」を行うことでありました。政府の行って
いる活動と重複することを避けるため、原子力災害対策本部、原子力安全
委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他の活動を逐次レビューし、
それらの活動の足りざる部分、不適当と考えられる部分があれば、それに
対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りました。
特に、原子力災害対策は「原子力プラントに係わる部分」、「環境、放射線、
住民に係わる部分」に分かれますので、私、小佐古は、主として「環境、放射線、
住民に係わる部分」といった『放射線防護』を中心とした部分を中心にカバー
して参りました。
ただ、プラントの状況と環境・住民への影響は相互に関連しあっておりますので、
原子炉システム工学および原子力安全工学の専門家とも連携しながら活動を
続けて参りました。
さらに、全体は官邸の判断、政治家の判断とも関連するので、福山哲郎内閣
官房副長官、細野豪志総理補佐官、総理から直命を受けている空本誠喜
衆議院議員とも連携して参りました。
この間、特に対応が急を要する問題が多くあり、またプラント収束および環境
影響・住民広報についての必要な対策が十分には講じられていなかったことから、
3月16日、原子力災害対策本部および対策統合本部の支援のための「助言
チーム(座長:空本誠喜衆議院議員)」を立ち上げていただきました。まとめた
「提言」は、逐次迅速に、官邸および対策本部に提出しました。それらの一部は
現実の対策として実現されました。
ただ、まだ対策が講じられていない提言もあります。とりわけ、次に述べる、
「法と正義に則り行われるべきこと」、「国際常識とヒューマニズムに則りやって
いただくべきこと」の点では考えていることがいくつもあります。今後、政府の
対策の内のいくつかのものについては、迅速な見直しおよび正しい対策の
実施がなされるよう望むところです。
1.原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい
この1ヶ月半、様々な「提言」をしてまいりましたが、その中でも、とりわけ
思いますのは、「原子力災害対策も他の災害対策と同様に、原子力災害対策に
関連する法律や原子力防災指針、原子力防災マニュアルにその手順、対策が
定められており、それに則って進めるのが基本だ」ということです。
しかしながら、今回の原子力災害に対して、官邸および行政機関は、そのことを
軽視して、その場かぎりで「臨機応変な対応」を行い、事態収束を遅らせている
ように見えます。
とりわけ原子力安全委員会は、原子力災害対策において、技術的な指導
・助言の中核をなすべき組織ですが、法に基づく手順遂行、放射線防護の
基本に基づく判断に随分欠けた所があるように見受けました。例えば、住民の
放射線被ばく線量(既に被ばくしたもの、これから被曝すると予測されるもの)は、
緊急時迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)によりなされるべき
ものでありますが、それが法令等に定められている手順どおりに運用されて
いない。法令、指針等には放射能放出の線源項の決定が困難であることを
前提にした定めがあるが、この手順はとられず、その計算結果は使用できる
環境下にありながらきちんと活用されなかった。また、公衆の被ばくの状況も
SPEEDIにより迅速に評価できるようになっているが、その結果も迅速に
公表されていない。
初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、
とりわけ小児の甲状腺の等価線量については、その数値を20、30km圏の
近傍のみならず、福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県、他の関東、東北の
全域にわたって、隠さず迅速に公開すべきである。さらに、文部科学省所管の
日本原子力研究開発機構によるWSPEEDIシステム(数10kmから
数1000kmの広域をカバーできるシステム)のデータを隠さず開示し、
福島県、茨城県、栃木県、群馬県のみならず、関東、東北全域の、公衆の
甲状腺等価線量、並びに実効線量を隠さず国民に開示すべきである。
また、文部科学省においても、放射線規制室および放射線審議会における
判断と指示には法手順を軽視しているのではと思わせるものがあります。
例えば、放射線業務従事者の緊急時被ばくの「限度」ですが、この件は既に
放射線審議会で国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告の国内法令
取り入れの議論が、数年間にわたり行われ、審議終了事項として本年
1月末に「放射線審議会基本部会中間報告書」として取りまとめられ、
500mSvあるいは1Svとすることが勧告されています。
法の手順としては、この件につき見解を求められれば、そう答えるべきで
あるが、立地指針等にしか現れない40-50年前の考え方に基づく、250m
Svの数値使用が妥当かとの経済産業大臣、文部科学大臣等の諮問に
対する放射線審議会の答申として、「それで妥当」としている。ところが、
福島現地での厳しい状況を反映して、今になり500mSvを限度へとの、
再引き上げの議論も始まっている状況である。
まさに「モグラたたき」的、場当たり的な政策決定のプロセスで官邸と
行政機関がとっているように見える。放射線審議会での決定事項を
ふまえないこの行政上の手続き無視は、根本からただす必要があります。
500mSvより低いからいい等の理由から極めて短時間にメールで審議、
強引にものを決めるやり方には大きな疑問を感じます。重ねて、この種の
何年も議論になった重要事項をその決定事項とは違う趣旨で、「妥当」と
判断するのもおかしいと思います。放射線審議会での決定事項をまったく
無視したこの決定方法は、誰がそのような方法をとりそのように決定したのかを
含めて、明らかにされるべきでありましょう。この点、強く進言いたします。
2.「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい
緊急時には様々な特例を設けざるを得ないし、そうすることができるわけ
ですが、それにも国際的な常識があります。それを行政側の都合だけで
国際的にも非常識な数値で強引に決めていくのはよろしくないし、そのような
決定は国際的にも非難されることになります。
今回、福島県の小学校等の校庭利用の線量基準が年間20mSvの被曝を
基礎として導出、誘導され、毎時3.8μSvと決定され、文部科学省から
通達が出されている。これらの学校では、通常の授業を行おうとしているわけで、
その状態は、通常の放射線防護基準に近いもの(年間1mSv,特殊な例でも
年間5mSv)で運用すべきで、警戒期ではあるにしても、緊急時(2,3日
あるいはせいぜい1,2週間くらい)に運用すべき数値をこの時期に使用する
のは、全くの間違いであります。警戒期であることを周知の上、特別な措置を
とれば、数カ月間は最大、年間10mSvの使用も不可能ではないが、通常は
避けるべきと考えます。年間20mSv近い被ばくをする人は、約8万4千人の
原子力発電所の放射線業務従事者でも、極めて少ないのです。この数値を
乳児、幼児、小学生に求めることは、学問上の見地からのみならず、私の
ヒューマニズムからしても受け入れがたいものです。年間10mSvの数値も、
ウラン鉱山の残土処分場の中の覆土上でも中々見ることのできない数値で
(せいぜい年間数mSvです)、この数値の使用は慎重であるべきであります。
小学校等の校庭の利用基準に対して、この年間20mSvの数値の使用には
強く抗議するとともに、再度の見直しを求めます。
また、今回の福島の原子力災害に関して国際原子力機関(IAEA)の
調査団が訪日し、4回の調査報告会等が行われているが、そのまとめの
報告会開催の情報は、外務省から官邸に連絡が入っていなかった。
まさにこれは、国際関係軽視、IAEA軽視ではなかったかと思います。
また核物質計量管理、核査察や核物質防護の観点からもIAEAと今回の
事故に際して早期から、連携強化を図る必要があるが、これについて、
その時点では官邸および行政機関は気付いておらず、原子力外交の
機能不全ともいえる。国際常識ある原子力安全行政の復活を強く求める
ものである。以上
http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/200/80519.html
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