昨夜、またもや恒川光太郎の小説を読みました。
今までは、短編か、せいぜい中編程度の分量の作品ばかりで、長い物は書かないのかなと思っていましたが、文庫本で470頁を超える長編、「金色機械」です。
金色機械 (文春文庫) | |
恒川 光太郎 | |
文藝春秋 |
江戸時代、極楽園とも鬼御殿とも呼ばれる山中の賊のお屋敷で育ち、門番の小僧から大遊郭を任されるまでになった熊悟朗。
彼は人の殺意を見抜く能力を持っています。
そして人に素手で触れるだけで安楽死させる能力を持つ女、遥香。
さらには謎の存在、金色様。
金色様は金属でできたロボットのような存在ですが、心を持ち、しかも無敵といってよいほど強力です。
章ごとに時代や主人公が異なり、少々戸惑いますが、やがてそれらは繋がり、一つの物語として完結します。
石川淳の「至福千年」を思わせるような、江戸伝奇ロマンといった趣で、読ませます。
抜群に面白い小説で、終わりが近づくと、読むのが惜しいような気分になります。
至福千年 (岩波文庫 緑 94-2) | |
石川 淳 | |
岩波書店 |
これは熊悟朗や遥香の成長の物語であるとともに、善も悪も併せ持つ人間というものの業を描き出した作品です。
金色様というのは月から来た、という設定になっていますが、もしかしたら未来から来たのかもしれません。
金色様を狂言回しに、200年近い物語が語られ、神話的でさえあります。
短編や中編に見られた詩的な感じはなく、豊穣な物語に仕上がっています。
ちょうど、村上龍が「限りなく透明に近いブルー」や「海の向こうで戦争が始まる」のような、詩編に似た小説から出発して、「コインロッカーベイビーズ」や「愛と幻想のファシズム」のような、物語性豊かな長編を書くようになったのと似ています。
新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫) | |
村上 龍 | |
講談社 |
海の向こうで戦争が始まる (1980年) (講談社文庫) | |
村上 竜 | |
講談社 |
コインロッカー・ベイビーズ 上下巻セット (講談社文庫) | |
クリエーター情報なし | |
メーカー情報なし |
愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫) | |
村上 龍 | |
講談社 |
愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫) | |
村上 龍 | |
講談社 |
熊悟朗が成長とともに身につけるニヒリズム、安楽死させる能力を持つが故に善とも悪ともつかぬ殺人を犯してしまう遥香の苦悩、そして、自分が何者なのか分からぬまま、かつて仕えた一族の末裔である賊とともに暮らし、賊が滅ぼされると遥香と行動をともにする金色様。
誰もが悪くないようでいて、しかし全員が悪人のようにも思えます。
そして、涙なしには読むことが出来ないラスト。
私はこれまで、この作者の詩的な短編や中編を偏愛してきましたが、長編伝奇ロマンもなかなかのものです。
是非、ご一読ください。
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