雨の土曜日。
昼寝をしたり読書をしたりして、静かに過ごしました。
読んだのは、日系英国人作家、カズオ・イシグロの「浮世の画家」。
1940年代後半の日本を舞台にした物語です。
主人公は、老いた画家。
戦前戦中、この画家は日本精神を鼓舞する画風で、たいへんな名声を得ました。
しかし戦争が終るや、彼のかつての功績は、むしろ軍国主義に迎合したものとみなされるようになるのです。
老いた画家に独り語りの手法で、物語は進みます。
戦後の現在が語られたり、修行時代が語られたり、栄光の時代が語られたり、さかんに話が飛ぶので、少々読むのに難儀します。
老いた画家は、晩年に到ってかつての名声を失いながら、その時々で信念に基づいて行動したことだと、過去を反省する様子は見られません。
ラストに到って、かつての同志が亡くなり、彼は若々しいサラリーマンたちの明るい笑顔を見ながら、新しい時代は祝福されたものになるだろうと、微笑むのです。
この独り語りの技法はかなり曲者です。
事実は事実として描かれず、必ず老画家のフィルターを通して語られるのですから。
読者はそれに戸惑いながらも、時代に翻弄された一個の老人の魂の遍歴を垣間見るのです。
精緻な描写と構成は見事ですが、なんだか戦後日本を描いたものではないような感覚に陥ります。
もっと普遍的な、あるいは世界のどこにも存在しえない架空の町のような。
読後感は不思議なものです。
私が日本人だからなのかもしれませんが、日本画家の物語という感じがしません。
この不思議な余韻、しばらく悩まされそうです。
浮世の画家 (ハヤカワepi文庫) | |
飛田 茂雄 | |
早川書房 |