玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

講義録3 生き物のつながり 2.糞虫とシデムシ <山梨県大月市の糞虫>

2016-04-25 03:12:02 | 生きもの調べ
<山梨県大月市の糞虫>
 昨年度、帝京科学大学の学生さんを指導することになりました。帝京科学大学は山梨県東部の上野原にあり、小林尚暉君が隣の大月市の林で糞虫の調査をすることになりました。
 問題設定は、異なる群落で糞虫を比較することと、違う動物の糞に来る糞虫を比較することとしました。群落は落葉広葉樹林、スギ人工林、草地とし、糞は馬糞とイヌ糞としました。スギ林は暗いので植物が少なく、いる哺乳類も少ないはずだから、集まる糞虫も貧弱だと予想されます。下生えの植物量は草地が一番多いですが、見晴らしがよいので哺乳類はあまりいないものと思われます。イヌはおもにドッグフードを食べていますが、成分的には動物タンパク質を多く含んでおり、糞は強い匂いがします。これに対してウマは牧草などを食べているので、パサパサであまり強い匂いはしません。イヌ糞はタヌキやキツネの糞に、馬糞はシカなどの草食獣の糞に近いと思われます。
 糞虫の採集法はトラップ(わな)を使いました。小さなバケツを地面に埋め、上に割り箸を渡してそこに糞を入れたティーバックをぶら下げ、雨よけに蓋で覆いました。1カ所に5個のトラップを置きました。そうすると、糞の匂いに魅かれて糞虫がバケツに入ります。バケツの底に少し水を入れておくと、糞虫は飛べなくなります。夕方トラップを設置して、翌日回収しました。ここの森林は糞虫が豊富で、翌日回収に行くと、バケツの底が真っ黒に見えるほど糞虫が入っていることがありました。


糞虫トラップ

 結果は3つの場所で2種の糞が毎月あるので、きわめて複雑です。ここでは8月の結果だけを紹介します。


山梨県大月の3群落で8月に採集された糞虫の採集数(数字はバケツあたりの採集数、小林尚暉卒業論文より)

 これからわかるのは馬糞よりもイヌ糞のほうが多くの糞虫を引きつけたということです。またイヌ糞でも馬糞でも広葉樹>針葉樹>草地という順で少なくなったこともわかります。それからゴホンダイコクコガネはイヌ糞には来ないで馬糞にだけ来た結果、馬糞には数が少ないが、種数は多いということになっています。
 このことの意味を考えてみます。馬糞よりイヌ糞のほうが多くの糞虫が来たということは、イヌ糞のほうが強い匂いがするからではないかと推察できます。人間の鼻にもそう感じられるので、糞虫にとってもそうなのでしょう。地表植物の量は草地>広葉樹林>針葉樹林ですが、哺乳類は見通しのよい草地にはあまり出てきませんから、糞虫にとっての食物である糞の供給量は少ないはずです。森林を比較すればもちろん広葉樹林のほうが動物も植物も豊富ですから哺乳類が多く、糞も多いはずです。このように、糞虫の数が広葉樹>針葉樹>草地であったことは、食物である糞の供給量を反映していると読み取れます。なお草地は直射日光があたるため、糞の表面が乾きやすくて匂いが飛ばないということも考えて置く必要があります。ゴホンダイコクコガネが馬糞にしか来なかった理由はわかりません。多くの糞虫にとっては強い匂いの肉食獣の糞のほうが引きつける力が強いのでしょうが、ゴホンダイコクコガネは草食獣の糞を好むのかもしれません。そうした糞虫の好みの違いがあることで、異なる糞の分解が早く進むという側面もあるものと思われます。

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