玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

経験と直感

2017-02-10 06:31:24 | 生きもの調べ
  生きものを相手の調査は効率が悪いもので、もっと無駄なくしないといけない、とは思いますが、いまの私は無駄を含めて調べることそのものがおもしろいのだから、時間がかかるなら、かければよいと思います。
 11月に武蔵野美術大学で「これまでにわかったこと」を報告したとき、多くの人が
「こんなにいろいろなことを調べていたのですね」
とか
「これだけのことをよくコツコツと調べましたね」
と言ってくださいました。私にはこのことは多少認めてもよい気持ちがあります。それは私が長いこと研究者として生き物を相手にしてきた経験があったからだと思います。
 自然の中を歩いていて「ピン!」と来ることがあります。たとえば津田塾大学の林をみて
「ここにはタヌキがいそうだ」
と感じた直感がその例です。それにはセンサーカメラの調査をして、タヌキはヤブがあるところにいる傾向があることを知っていたことが背景にありました。また玉川上水の植物調査をして、玉川上水の緑の幅が狭いと草原的な植物が多く、広いと森林的な植物も生えていることを知っていたこともあります。そうして経験と動植物のついての知識があるから、玉川上水に接したまとまった林があり、大学という静かな環境ならタヌキがいる確率が高いと考えたのです。それは「直感」ということばで表現されるかもしれませんが、その直感を持つにはそれなりの経験と知識が必要です。
 あるとき私は小平駅のホームで電車を待っていました。そのときホームの屋根からチラチラとオレンジ色のものが降りてきました。私の中で「アカかな?ウラナミアカかな?」とアンテナが動き出し、見ると「ウラナミアカ」でした。これはウラナミアカシジミという小さな蝶で、シジミチョウの一種です。それが駅のホームの屋根のほうから下に降りてきたとき、私の意識はまずこれがハエやハチではなく蝶であることをとらえ、大きさからシジミチョウであると絞りこみ、チラと見えた翅の色からアカシジミ系のものだと判断しました。この仲間には数種がいますが、この辺りにはアカシジミかウラナミアカシジミしかいません。もっとも赤系のシジミチョウといえばベニシジミがいますが、それは赤と焦げ茶色がパターン模様になっているので、違います。シジミチョウ類には街中にでもいるヤマトシジミがいますが、カタバミを食草としますし、もう少し里山的なところならハギなどを食草とするルリシジミやギシギシなどを食草とするベニシジミなどがいます。これらはいずれも草本類や低木を食べますが、アカシジミやウラナミアカシジミの幼虫はコナラなどの木の葉を食べます。だから食草とは言わないで、「食樹」といいます。そうなると、ほかのシジミチョウの仲間のように空き地や畑があればいるというわけにはいかず、雑木林などがなければなりません。私の頭の中で1、2秒のあいだにそういうことが回転し、
「へえ、こんなところにウラナミアカがいるんだ。ということは、そう遠くないところに雑木林があるんだ。もしかしたら大きな家の庭から来たのかもしれない」
と思いました。もちろんホームにいるたくさんの人は誰一人気づいていません。
 そういう背景がありますから、玉川上水でタヌキについて調べるというときに、何ができるか、どういう方法を採るか、それは実行できるかなどを考えました。それには、これまでの経験が活かされていたと思います。事前に計画できることもありますが、ある程度の結果ができてから新たな課題が生まれることもあります。
 糞虫が市街地の狭い公園にはいないという思い込みがまちがっていることを示すために多くの場所で調べることになりました。このときも、これまでの経験で
「ここでやめたらこれまでやったことが無駄になる。ここはがんばりどころだ」
と判断しました。その意味では、一見ずるずると調査を継続したようで、押さえどころは押さえていたと思います。それは非効率なようで非効率ではないといえると思いますし、そこには私の長年の経験が活かされたと思います。
 これについてウィルソンの次の記述は自分のことを言っているように思えました。一部は略していますが、

「・・・科学者の真の仕事、科学という営為の骨格であり、筋肉であるものは、・・・ごく地道なものだ。良い問題を見つけようと努力し、実験の計画を立て、データと格闘し、・・・推論した上に、ようやく何かが - 普通はごく些細なことだが - 明らかになる。・・・科学者の大半は、勤勉で仕事熱心な職人であり、特に聡明なわけではなく、ただ自分の好きなことを職業にしているというだけにすぎないのだ。(ウィルソン、「バイオフィリア」、狩野訳、1994)

つづく

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