『EUの知識』より
EUに生活する人々は、各加盟国の国民としての権利とともに、「欧州市民」としての権利を認められます。多様な価値観を持つ欧州市民の交流はEUの最重要課題の一つです。
欧州市民権の強化
EU基本条約は、超国家EUではなく、民主的EUを築くため、各加盟国の国家市民権に追加する形で欧州市民権を認めています。欧州市民の権利は次のようになっています。
①加盟国の領土内での自由移動と居住権 ②居住する加盟国において、当該国国民と同一条件で欧州議会選挙と自治体選挙に投票、立候補する権利 ③自国が外交代表を置かない第三国領土において、すべてのEU加盟国外交機関から当該国国民と同一条件で保護を受ける権利 ④欧州議会への請願権、欧州オンブズマンヘの申し立て権、EU各機関とのコミュニケーション権。
欧州市民権を維持するための原則として、代表民主主義と、参加民主主義の二つがあります。前者は、欧州議会選挙への直接投票であり、立候補権です。また自国の政府を選挙で選ぶことで、欧州理事会、閣僚理事会に市民の意見を反映させることもできます。
後者は、欧州市民が直接、EUの政策決定過程に参加することを指します。欧州議会への請願権のほか、市民が欧州委員会に対して、法案提出を発議できる規定があります。市民発議の手続きは、「欧州市民イニシアティブ」と呼ばれ、百万人以上の署名と加盟国の三分の一 (現在は九カ国)以上の国の市民の署名があることが条件です。委員会は署名を受け取ると、四ヵ月以内に法案作成の是非を判断しなければなりません。
EU各機関が市民に対して不公正な扱いをした場合などは、第2章でみた欧州オンブズマンに申し立てる権利が確保されています。
欧州消費者アジェンダ(ECA)
統合市場の成果は消費者の市場行動となって初めて実を結びます。現在のEUのGDPの五六%は消費支出で構成されています。「欧州二〇二〇」の実現にも消費行動のスマート化、包括化、持続可能性が欠かせません。そこで委員会は「二〇二〇」に連動する形で、一二年に欧州消費者アジェンダ(ECA)を公表しました。
国境を越えた商品・サービスの提供は商品選択の多様性、価格の下方収斂性等のメリットを消費者にもたらします。その一方で、金融サービスやデジタル商品等の取引をめぐるトラブル増、食品等の安全性、製品・サービスの信頼性、旅行サービスの不便さ等の課題は、EU全体の消費者行動に影響を与えます。消費者の安心・安全の権利をEU全体で確保することが求められるのです。
消費者には購入した商品・サービスの不具合等に対して返品、補償、保護を受ける権利があります。しかしEUの調査では、四人に一人の消費者は自らの権利に自信がないとの結果が出ています。特に統合市場の成果である国境越えショッピングは、そうした不安の影響もあって思うほど伸びていないとされます。そこでEUはネットショッピング等に伴う紛争解決のため、各国間で消費者保護協力(CPC)ネットワ-クを構築しました。
また委員会は消費者紛争を早期解決するため、EU版の裁判外紛争解決手続き(ADR)や、ネット利用紛争解決手続き(ODR)の採用を提案しています。二千ユーロ以下の少額請求案件を早期仲裁する欧州少額請求手続き(ESCP)の普及も課題です。
EU全体での消費者紛争処理ルールの整備は、消費者のEUショッピングの信頼醸成に役立ちます。域内問題だけではありません。たとえばEU内で販売される玩具の八五%は中国製です、EUは「原産地での安全性」を重視、第三国との交渉に加え、OECD、WTOなどの国際機関との連携も視野に入れています。
(4) 教育・職業訓練・若者支援
人材育成はEUの成長と雇用に欠かせません。スマート成長のためには高いレペルの人材が必要ですし、包括的成長のためには、労働者の熟練力を向上させる雇用力強化が必要です。EUは「二〇二〇」戦略の人材育成に向けて「教育・職業訓練での欧州協力の戦略的フレームワーク(ET二〇二〇)」を立案、就学前、初等教育、高等教育、職業訓練、生涯学習へと連なる強化目標を立てています。
教育・職業訓練の「二〇二〇」目標は①四歳以上の就学前児童の少なくとも九五%は幼児教育を受ける ②十五歳時点で、読む力、数学・化学の能力が不十分な子どもの割合を一五%以下に抑える ③学校や職業訓練からの中退率を一〇%以下に抑制 ④成人の少なくとも一五%は生涯学習に参加する、などです。
目標達成のために、複数のサブ・プログラムを展開中です。「コメニウス」計画は、就学前から中等教育までの幅広い分野で、教育法の改善、児童・教員のEU内移動の改善、語学学習でのICT活用などを推進します。高等教育向けの「エラスムス」計画は、EUの大学生が域内他大学で、無料で授業を受け、単位も取得できる制度です。毎年二十三万人以上の学生が活用し、八七年からの累計利用者は約三百万人です。
「レオナルド・ダ・ビンチ」計画は職業技能教育プログラムです。EU内の他国での技能教育の受講を支援します。労働者がEU伝統の熟練技術やICT活用の新規技術を身につけるのを側面支援して失業率の改善を目指します。
EUに生活する人々は、各加盟国の国民としての権利とともに、「欧州市民」としての権利を認められます。多様な価値観を持つ欧州市民の交流はEUの最重要課題の一つです。
欧州市民権の強化
EU基本条約は、超国家EUではなく、民主的EUを築くため、各加盟国の国家市民権に追加する形で欧州市民権を認めています。欧州市民の権利は次のようになっています。
①加盟国の領土内での自由移動と居住権 ②居住する加盟国において、当該国国民と同一条件で欧州議会選挙と自治体選挙に投票、立候補する権利 ③自国が外交代表を置かない第三国領土において、すべてのEU加盟国外交機関から当該国国民と同一条件で保護を受ける権利 ④欧州議会への請願権、欧州オンブズマンヘの申し立て権、EU各機関とのコミュニケーション権。
欧州市民権を維持するための原則として、代表民主主義と、参加民主主義の二つがあります。前者は、欧州議会選挙への直接投票であり、立候補権です。また自国の政府を選挙で選ぶことで、欧州理事会、閣僚理事会に市民の意見を反映させることもできます。
後者は、欧州市民が直接、EUの政策決定過程に参加することを指します。欧州議会への請願権のほか、市民が欧州委員会に対して、法案提出を発議できる規定があります。市民発議の手続きは、「欧州市民イニシアティブ」と呼ばれ、百万人以上の署名と加盟国の三分の一 (現在は九カ国)以上の国の市民の署名があることが条件です。委員会は署名を受け取ると、四ヵ月以内に法案作成の是非を判断しなければなりません。
EU各機関が市民に対して不公正な扱いをした場合などは、第2章でみた欧州オンブズマンに申し立てる権利が確保されています。
欧州消費者アジェンダ(ECA)
統合市場の成果は消費者の市場行動となって初めて実を結びます。現在のEUのGDPの五六%は消費支出で構成されています。「欧州二〇二〇」の実現にも消費行動のスマート化、包括化、持続可能性が欠かせません。そこで委員会は「二〇二〇」に連動する形で、一二年に欧州消費者アジェンダ(ECA)を公表しました。
国境を越えた商品・サービスの提供は商品選択の多様性、価格の下方収斂性等のメリットを消費者にもたらします。その一方で、金融サービスやデジタル商品等の取引をめぐるトラブル増、食品等の安全性、製品・サービスの信頼性、旅行サービスの不便さ等の課題は、EU全体の消費者行動に影響を与えます。消費者の安心・安全の権利をEU全体で確保することが求められるのです。
消費者には購入した商品・サービスの不具合等に対して返品、補償、保護を受ける権利があります。しかしEUの調査では、四人に一人の消費者は自らの権利に自信がないとの結果が出ています。特に統合市場の成果である国境越えショッピングは、そうした不安の影響もあって思うほど伸びていないとされます。そこでEUはネットショッピング等に伴う紛争解決のため、各国間で消費者保護協力(CPC)ネットワ-クを構築しました。
また委員会は消費者紛争を早期解決するため、EU版の裁判外紛争解決手続き(ADR)や、ネット利用紛争解決手続き(ODR)の採用を提案しています。二千ユーロ以下の少額請求案件を早期仲裁する欧州少額請求手続き(ESCP)の普及も課題です。
EU全体での消費者紛争処理ルールの整備は、消費者のEUショッピングの信頼醸成に役立ちます。域内問題だけではありません。たとえばEU内で販売される玩具の八五%は中国製です、EUは「原産地での安全性」を重視、第三国との交渉に加え、OECD、WTOなどの国際機関との連携も視野に入れています。
(4) 教育・職業訓練・若者支援
人材育成はEUの成長と雇用に欠かせません。スマート成長のためには高いレペルの人材が必要ですし、包括的成長のためには、労働者の熟練力を向上させる雇用力強化が必要です。EUは「二〇二〇」戦略の人材育成に向けて「教育・職業訓練での欧州協力の戦略的フレームワーク(ET二〇二〇)」を立案、就学前、初等教育、高等教育、職業訓練、生涯学習へと連なる強化目標を立てています。
教育・職業訓練の「二〇二〇」目標は①四歳以上の就学前児童の少なくとも九五%は幼児教育を受ける ②十五歳時点で、読む力、数学・化学の能力が不十分な子どもの割合を一五%以下に抑える ③学校や職業訓練からの中退率を一〇%以下に抑制 ④成人の少なくとも一五%は生涯学習に参加する、などです。
目標達成のために、複数のサブ・プログラムを展開中です。「コメニウス」計画は、就学前から中等教育までの幅広い分野で、教育法の改善、児童・教員のEU内移動の改善、語学学習でのICT活用などを推進します。高等教育向けの「エラスムス」計画は、EUの大学生が域内他大学で、無料で授業を受け、単位も取得できる制度です。毎年二十三万人以上の学生が活用し、八七年からの累計利用者は約三百万人です。
「レオナルド・ダ・ビンチ」計画は職業技能教育プログラムです。EU内の他国での技能教育の受講を支援します。労働者がEU伝統の熟練技術やICT活用の新規技術を身につけるのを側面支援して失業率の改善を目指します。