今回、「精神科治療学」誌に拙文発表しました。
「精神科領域における新型インフルエンザ対策」
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo01/bo0102/index.html
精神科治療学 23(7)908-911,2008
医療系図書館orその手の書店にアクセスのある方は立ち読みでもいただければ幸いです。
当ブログでも5つに分割して紹介します。こちらは、ワード(投稿原稿)からペーストしたものです。
まず(その1)は前文的なもの、当ブログの常連さんには先刻ご承知の内容かもしれません。「そんなん、とっくにわかってまんがな!」という方は(その2)へどうぞ。
Ⅰ.はじめに
現在、H5N1型鳥インフルエンザウイルスのヒト感染事例が世界中で相次ぎ報道されている。このウイルスが遺伝子変化しヒトーヒト感染能力を獲得すると新型インフルエンザパンデミック(大流行)を発生させることがWHO等保健当局から警告され12)、我が国の厚生労働省も日本国内で最大64万人の犠牲者発生3)を予想している。新型インフルエンザの概略を一般向けに解説し、備えを呼びかける書籍の出版も相次ぎ9)10)14)、社会一般の関心も盛り上がりつつある。 しかしながら、精神科医療の場における検討が十分なされているとはいえず、厚生労働省による「新型インフルエンザ対策行動計画3)」「新型インフルエンザ対策ガイドライン4)」ともに、精神科医療現場の特殊性に配慮した記述は皆無というのが現状である。 筆者は2003年にSARSの大流行に見舞われた北京において、当時、在中国日本国大使館医務官として在勤し、その間の観察を発表してきたが1)2)、その経験を交えながら、われわれ精神科医療者が新型インフルエンザパンデミックに向けて準備すべき事を検討することとした。
Ⅱ.新型インフルエンザの概略 現在、世界各地で鳥インフルエンザとして感染が報告されているのはA型インフルエンザウイルスのH5N1型亜型とよばれるものである。執筆時点では、このウイルスのヒト感染は限定的で,患者と密接に接した場合や病気の鳥類に直接触れた場合が主となっている。 WHOは、この流行をフェーズⅠ~Ⅵに分類しており、現在はフェーズⅢ、ヒトからヒトへの感染は極めて限定的な段階にある。しかし、何らかの遺伝子変化が起こり(インフルエンザはRNAウイルスなので遺伝子複製の際の「遺伝子校正機能」を欠いており遺伝子変化が起こりやすい)本格的なヒトーヒト感染能力を獲得すると、人類がH5N1に対する抗体を誰も持たない以上、極めて広範な流行をもたらすとされ、これをパンデミックという。インフルエンザウイルスは直径100nmと小さく、飛沫感染のみならず飛沫核感染(いわゆる空気感染)も起すためSARSよりも大規模な感染が予想され、全世界で6200万人の犠牲者発生の試算もある8)。 従来のヒトインフルエンザ(H3N2、H1N1、B型)がいずれも弱毒型であるのに対し、H5N1は強毒型である。強毒型とは、呼吸器系にとどまらず、消化器系・泌尿器系・脳神経系まで含めた全身感染を起すことをいい、したがって、多臓器不全から高い致死率に至ることになり、現在の鳥インフルエンザのヒト感染例で61%の致死率を示している13)。