新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

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精神科領域における新型インフルエンザ対策(その3ー”その時”起こりうること)

2008-08-03 09:53:30 | 論文/学会発表/著作

「精神科領域における新型インフルエンザ対策」
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo01/bo0102/index.html
精神科治療学 23(7)908-911,2008 公開しています。

(その3)
Ⅳ.精神疾患関連で起こりうること<o:p></o:p>

1.SARS流行下の北京で見られたこと<o:p></o:p>

 SARS流行当時、北京の精神科医と懇談した際に語られた中で、不安症状・強迫症状が目立つというものがあった。飛沫感染を主体とするSARSにあって、鼻汁や喀痰の形で手すり等に付着したウイルスに触れると手指から口腔・結膜を通じて感染するため、手洗いの励行が社会的に広範かつ頻繁に呼びかけられた。これが強迫性障害の症状を促進してしまうのは想像に難くない。<o:p></o:p>

 また、躁状態を中心とする、調子の高いケースが惹起する問題もあった。SARS患者を収容するため、約1週間という突貫工事でSARS専門の小湯山病院が北京北郊に急造され、SARS医療の象徴的存在となった。その正門に自作のエプロンとマスクを手に「SARSと戦うぞ!」と押しかけ、警備の警察官ともみ合いになる例がしばしば発生した2)。開放的処遇との関連でも前述したが、その精神症状から、新型インフルエンザへの感染リスクが高い行動に出てしまう可能性は中国での経験からも真剣に想定する必要があると考えられる。<o:p></o:p>

2.グリーフケア・トラウマケアの激増<o:p></o:p>

 厚生労働省から日本国内で64万人の犠牲者が出る可能性が指摘されているが、これは弱毒性ウイルスを前提とした数字で、強毒性前提ならば210万人の犠牲者を予測する報告もあり11)、単純計算で日本国民の60200人に1人が犠牲になることになる。これはすなわち、グリーフケアやトラウマケアの莫大な需要が発生することを意味する。本来のグリーフケア・トラウマケア専門家だけでは到底足りず、日本中の一般精神科医がこれらをある程度マスターしてゆく必要があろう。そのための教育体制の確立が望まれる。前田は近年の精神科医不足、なかんずく専門精神科医不足から、ある程度の専門能力を身につけた精神科generalistの養成を提言しており、これは新型インフルエンザパンデミックによるグリーフケアやトラウマケア需要の激増を見据えた時、特に切望される。<o:p></o:p>

3.医療関係者のケア<o:p></o:p>

 激増する受診者数という現実を前に、医療関係者のバーンアウトやうつ状態は容易に想像できるところである。SARS流行下の北京でも、一ヶ月以上帰宅できなくなった医療従事者の家庭ストレス、自身のSARS感染への不安、また、家族に医療従事者がいることによる社会的偏見などの問題が指摘されており6)、医療関係者の心理的ケアも大規模に必要になってくると思われる。 <o:p></o:p>

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