渡辺先生の研究が示すとおり、戦後70年余りを経てもなお、史料を丹念に洗うことによって新たに明らかになる事実がある、と題して2018-07-18 に発信した章を再発信する。
以下は前章の続きである。
正しい戦争などない
中西
渡辺先生の研究が示すとおり、戦後70年余りを経てもなお、史料を丹念に洗うことによって新たに明らかになる事実がある。
だからこそ歴史はいくつになっても、やめられないほど、面白い。
日本に関連していえば、先の日米戦争に関して、日本が真珠湾攻撃へ追い込まれた経緯と並ぶ疑問は「なぜアメリカは二発の原爆を日本に落としたか」です。
1945年5月当時、国務次官を務めていたグルーは、皇室の保全さえ明示すれば日本はすぐに降伏するはずだ、とトルーマンに進言しています。
ところが「公開されていない軍事上の理由」により、この提案は却下されてしまう。
公開できない理由とは何か。すなわち原爆です。
近現代史研究家の鳥居民氏による労作『原爆を投下するまで日本を降伏させるな』(草思社文庫)のタイトルが示すとおりの状況だったわけで、これは、第二次大戦においてアメリカが犯した、あまりにも深い大きな罪、人類史的な犯罪であった、といわざるをえません。
渡辺
鳥居先生にはもう少し長生きをしていただきたかったと残念に思います。
本誌7月号のコラムで書きましたが、チャーチルは原爆使用の是非について、軍事アドバイザーを交えてトルーマンとドイツのポッダムで協議を行なっています(1945年7月24日)。
このとき、チャーチルは「日本は真珠湾を警告もなく攻撃し、貴国の若者を殺したではないか」と語り、原爆の無警告投下に躊躇するトルーマンの背中を押しました。
なぜか日本ではチャーチルを評価する識者が多いですが、第一次、第二次大戦共にチャーチルが起こした戦争といっても過言ではありません。
言行不一致の見本のような人物で、史上最低の政治家であった、と私は考えています。
中西
私は、個人的にはチャーチルは愛すべき性格を多くもった興味深い人間で、人物評としてはいつも評価しています。
しかし、ルーズベルトはまったく違います。
ただ、二人とも権力政治家としてのあざとさやあくどさはまさに世界史的レベルで、その点で彼らは具体的にやったことの内容を別にすれば、スターリンやヒトラーとまったく同じ種類の人間だったと思います。
実際、対日戦争の全期間を通じ、すなわち大西洋憲章から始まってポツダム宣言、サンフランシスコ講和条約に至るまでのあいだ、米英指導部によって唱えられた「平和」「自由」「文明」などの理念は、実際は、世界覇権の確立をめざす戦勝国として自らに好都合な戦時プロパガンダにすぎませんでした。
それを本気で真に受け、その上に自らの歴史観を構築してきた敗戦後の日本人はあまりにもナイーブだったといえます。
私は国際政治の歴史を学ぶなかで、「すべての戦争は帝国主義戦争である」というテーゼに至るようになりました。
20世紀以降、そして21世紀の今日においてもなお、覇権を争う多くの国は自国の排他的な国益を守り、他者への支配を拡大するための戦争に踏み切ることを躊躇しません。
現代においても、いわゆる「正しい戦争」つまり100パーセント「自衛のため」という戦争はありえない。
とくに第二次大戦後の戦後の世界秩序は「領土」の分割と併合を行なって切り分けることによって形成されています。
そこで分配される領土とは、まさにプーチンのいうように、戦勝国にとってのいわば「戦利品」なのです。
むろん私は、世界はしょせんジャングルの論理でしかなく、崇高な理念を掲げることは無意味だ、といいたいわけではありません。
むしろそうした人間本来の理念や価値を守るためにこそ、「すべての戦争は侵略戦争である」という醒めた歴史観が必要なのです。
こうした歴史を見る冷徹な目を備えて初めて日本は平和外交に徹することができるし、透徹した国家戦略を構築できる。
歴史認識において、あるいは現実の国際社会において日本が陥っている深刻な不適応を治癒するためにも、このような、「正しい戦争などない」という透徹した戦争観をもつことが何よりも重要なのです。
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