以下は前章の続きである。
被災者支援も遅れた
菅氏の在任時に東日本大震災が起きたことは、よく社会党の村山富市首相時代に阪神・淡路大震災が発生したことと比べられる。
中には、菅氏に怒鳴られ続けた班目春樹元原子力安全委員長のように「あんな人を首相にしたから天罰が当だったのではないか」と思うに至った人物もいる。
だが、村山内閣と菅内閣の両方で震災対応にあたった官僚は二人はまるで違うと語る。
「村山さんは自分の無能さを知っていて、『全部任せる。責任はワシがとる』と言ってくれた。それに対し、菅さんは己の無能は認めず、『全部俺を納得させてからやれ。失敗したらお前らのせいだ』だった」
人格、識見、政治力から自己認識能力まで、全く首相の器ではないのである。
そんな菅氏の震災対応で特に問題だったのは、これまであまり指摘されてこなかったが、被災者支援の遅れである。
当時の官邸危機管理センターの様子を知る関係者はこう証言した。
「首相のクレイジーな原発へのこだわり方で、被災者支援は10日遅れた。首相は警察庁や総務省に出すべき指示は出さず、全く動かしていなかった」
この点に関しては、こんなひどい話も資源エネルギー庁の官僚から聞いた。
震災発生から1週間から10日たって、突然、面識もない菅氏から携帯に電話がかかってきたのだという。
何事かと耳を近づけると、いきなり怒鳴り声が飛び込んできた。
「アブラ、アブラ、アブラ/・○×▼■(聞き取れず)お前のせいだ、お前のせいだ」
被災地でのガソリン不足が問題視され始めた時期だったので、この官僚はそれを何とかしろという電話だと推測したが、担当部署にいるわけでも何でもない。
彼は話した。
「菅さんは、役所のどこのボタンを押せばいいのかまるで分かっていなかった。それで物事が進まないと、今度は官僚のサボタージュだと言い出す。どうしようもない」
当時、ある全国紙の官邸キャップが私に、こう話しかけてきたのが印象深い。
「菅官邸の現状について、本当のことを書くと読者が『まさかそんなにひどいはずがない』と信じてくれないんです」
国民の常識と良識が、事実を見えないように国民の目をふさいでいたのである。
繰り返すが、掛け値なしに「悪夢」の時代だった。
菅氏と仲がよかった朝日新聞などメディアが、菅氏の無残な実像をストレートに伝えなかったことも、菅内閣を助けていた。
この稿続く。
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