以下は前章の続きである。
決断できないリーダー
「よくもまあ、日本国民もこんなばかな首相をいただいたものだ。私の知る限り、歴史上最低の首相じゃないですか」
これは原子炉復水器の専門家として、原発事故発生直後から官邸に助言・提案を行っていた上原春男・元佐賀大学長の感想である。
古くは福田赳夫氏から最近では安倍晋三氏まで、多くの首相からエネルギー政策全般について意見を求められてきた上原氏だが、菅氏にはあきれ果てたという。
経緯はこうである。
上原氏は事故発生を受けただちに官邸側に冷却系の回復を訴え、外部冷却装置設置のための図面も送った。
3月16日には、事故対策統合本部の細野豪志首相補佐官(当時)に呼ばれて上京する。
枝野幸男官房長官(同)や海江田万里経済産業相(同)とも会い、いったん事務所のある佐賀市に戻って作業に必要な機械類の手配を進めた。
「ところが、官邸高官らといくら話しても『首相がなかなか判断せず、決めてくれない。首相が最終決定権者だからどうにもならない』というばかり」(上原氏)
当時、政府関係者の一人は「首相には大局観がまるでない。反対に、自分が知っている瑣末なことにこだわり、いつも判断を下すのが二日遅れる」と嘆いたが、まさにその構図が展開されていたのである。
3月20日には、上原氏の事務所に民主党の原口一博元総務相や大串博志元内閣府政務官らが集まり、原発事故対応を協議していた。
そこで原口氏が携帯電話で菅氏に連絡し、上原氏に取り次いだところ、こんなやりとりがあった。
菅氏「あなたのリポートには目を通したが、技術的に理解できない。外部冷却装置はどこにつけるのか。私がどこにつけていいのか分からずに決定はできない」
上原氏「そんなことは首相が考えるべきことではないはずだ。技術的に分からずとも、やるやらないの決断はできるでしょう」
すると、菅氏は突然「なにいっ!」と激高して、日本語かどうかも聞き取れない言葉で延々とわめき散らしたという。
上原氏は筆者の取材にこう振り返っていた。
「シヨックを受け、本当に怖くなった。一国の首相がこんな状態では国は危ないと感じた」
この稿続く。
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