SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

竜の唄を継ぐもの 第4話

2022-02-04 02:44:21 | 書いた話
乳白色の霧が辺りを取り巻いて、婚礼の行列はなかなか進まなかった。別に急ぐ旅でもないが、花嫁とその一族を待たせているのが気がかりではあった。何せ相手は、地帝の姫君なのだ。そのとき、まるで水神の考えを読んだように、輿の外から声がした。「水神さま」それはどうやら、出迎え役に遣わされてきた神の声だった。返事代わりに水神は顔を覗かせる。人の好さそうな丸顔が見えた。確か牧の神と言ったろうか。輿を曳く馬を操るのになかなか長けていた。水神の顔を目にするや、その丸顔に恐縮の色が浮かぶ。「さぞお退屈でございましょう」「大丈夫ですよ、ご心配なく」寛容な返答を受けて、恐縮と感謝が入り交じる。「おそらくあと一刻ばかりかと」牧の神の見通しは正しかった。一刻ほどして、行列は歩みを止めた。 霧が嘘のように晴れて、澄んだ山の気にも似た、涼しげな風情をたたえた館が現れた。輿から降りた水神を待っていたのは、美しい花嫁だった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 竜の唄を継ぐもの 第3話 | トップ | 竜の唄を継ぐもの 第5話 »

コメントを投稿

書いた話」カテゴリの最新記事