乳白色の霧が辺りを取り巻いて、婚礼の行列はなかなか進まなかった。別に急ぐ旅でもないが、花嫁とその一族を待たせているのが気がかりではあった。何せ相手は、地帝の姫君なのだ。そのとき、まるで水神の考えを読んだように、輿の外から声がした。「水神さま」それはどうやら、出迎え役に遣わされてきた神の声だった。返事代わりに水神は顔を覗かせる。人の好さそうな丸顔が見えた。確か牧の神と言ったろうか。輿を曳く馬を操るのになかなか長けていた。水神の顔を目にするや、その丸顔に恐縮の色が浮かぶ。「さぞお退屈でございましょう」「大丈夫ですよ、ご心配なく」寛容な返答を受けて、恐縮と感謝が入り交じる。「おそらくあと一刻ばかりかと」牧の神の見通しは正しかった。一刻ほどして、行列は歩みを止めた。 霧が嘘のように晴れて、澄んだ山の気にも似た、涼しげな風情をたたえた館が現れた。輿から降りた水神を待っていたのは、美しい花嫁だった。
goo blog お知らせ
プロフィール
最新記事
最新コメント
- sneed1984/新渡定型詩2024
- 新渡 春/竜の唄を継ぐもの 第3話
- 新渡 春/竜の唄を継ぐもの 第2話
- 新渡 春/竜の唄を継ぐもの 第2話
- Yopi/竜の唄を継ぐもの 第2話
- 新渡 春/新・指先のおとぎ話『雲と雨と』
- Yopi/新・指先のおとぎ話『雲と雨と』
- sneed1984/新・指先のおとぎ話『光の面影』
- Yopi/新・指先のおとぎ話『光の面影』
- sneed1984/新・指先のおとぎ話『沃野を潤す』
カレンダー
バックナンバー
ブックマーク
- goo
- 最初はgoo
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます