SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

新・指先のおとぎ話『光の女神』

2019-01-30 14:29:09 | 書いた話
天宮では、まさに全天をあげての婚礼が執り行われようとしていた。なかなか妻をめとろうとしなかった若き天帝の婚儀が、ようやく整ったのだ。これまで天地を問わず“見聞”を広げ、数多くの恋人と浮名を流してきた天帝の心をついに射止めたのは、北の地に暮らしていた光の女神。折に触れて舞を楽しみ、友人を招いて宴をひらいたりしていたが、天帝を魅了したのはその絵の才だった。天界地界にたゆたうさまざまな光を、画布に写しとる力に恵まれた光の女神がえがく絵からは、見る者によって異なる景色が見えると評判だった。天帝が見たとき、彼の瞳に写ったもの──それは、一条の真っすぐな光の中に立つ美しい新郎新婦の姿だった。心は決まった。「可愛い嫁御はどこにいる、花摘んでやろ、朝まだき……」天帝の歌う気の早い婚礼歌に、光の女神は笑顔で応え、天帝に連れられて天へ昇った。あとに残してゆく北の地と佳き友人たちに、永遠に平穏あれと願いながら。

──佐藤千穂に捧ぐ──
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