興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

Fundamental Attribution Error (基本的な帰属の誤り)

2006-07-17 | プチ認知心理学

私たち人間の認知には、様々な歪みがある。

人間は、大体において、普段何を見ているのか
というと、「見たいものを見ている」と言われている。
つまり、外の世界の様々な事象は、人間の元来持っている
様々な認知の歪みを通して認識される。

たとえば、先日カラオケに行ったときに、あなたは
いまいち満足いくように歌えなかったとする。
それはどうしてだろうか。

「調子が悪かったから」「気分が悪かったから」
「風邪引いてたから」「疲れてたから」
「気になることがあってどうも集中できなかった」
「緊張してた」
「あまり歌ったことのない曲だった」・・・

と、いうような理由に思い至るかも知れない。

では、あなたの友人の歌がいまいちだったとする。
どうしてだろう。

「下手だから」
「うーん、きっと彼女あまり歌が得意じゃないのかも」
「彼、音痴なのかも」

これは極端な例だけれど、もともと人間には、
「基本的な帰属の誤り」(Fundamantal Attribution Error )
という、認知の歪みを持っていて、基本的に、他人の行動の
結果の原因について、その人の能力や性格による要因を
重視しすぎて、その結果の背景にあった「外的要因」を
見過ごしがちだという。

一方で、自分の帰属については、外的要因のほうを重視し、
内的要因を見過ごしやすい。

たとえば、同僚が仕事で失敗すると、周りの人間は、
その人の能力や性格や、怠慢のせいだと思いがちで、
その人の置かれていた状況などの外的要因に意外と
気付かない。

もしかしたらその人は、風邪を引いて調子が悪かったの
かも知れないし、恋人とトラブルがあったのかもしれないし、
家族に問題があって仕事に集中できなかっただけかもしれない。

一方で、もし自分が仕事に失敗したら、人は、外的要因に
その失敗の帰属を見出しやすい。

これは、自分の成功と、他人の成功についても同じこと
が言える。自分の成功は、自分の努力と実力のおかげ。
他人の成功は、その人がラッキーだったから。

それでは一体なぜ人間の認知はこんなふうに出来ている
のだろうか。そのひとつには、やはり、自己評価や自尊心を
守る防衛のメカニズムが考えられる。自分が失敗したとき、
「これは状況が悪かった。悪運だった。自分のせいじゃない」
と信じることで、ひとは大きな鬱状態に陥ることを
防ぐことが出来る。

逆に、成功の理由を(運ではなくて)自分の能力と努力に
帰属させることで、ひとは自信がつくし、自己愛も満たされる。
要するに、いずれの場合も、メンタルヘルスにとって大切な
認知の歪みなのだ。

それは、もしこの真逆のFundamantal Attribution Errorが
僕たちの認知を支配していたら一体どうなるか考えれば用意に
納得できる。もし、自分の成功はたまたま運が良かっただけで、
自分の失敗は、全部自分のせいだという認知の歪みを持って
いたら、ひとはどうなるか。

実は、これは意外とよくあることだ。実際に、鬱状態の人の
認知はこのパターンになっていることが多い。

Fundamantal Attribution Errorが反転してしまった状態だ。
それで、ひとは自分を責める。自分を非難する。

「自分なんて最低だ。自分なんて何の取り得もない。
物事はすべて自分のコントロール外にある。それに
引き換え何で周りの人間はこう、自信と才能にあふれて
いるのだろう」。

さらに悪いことに、周りの人間は、本来ひとが持っている
「基本的な帰属の誤り」により、落ち込んでいる人間の
内因的なものを責める。

この状態は本当に辛い。認知の歪みにより、自分を
過小評価してしまっている。しかも、こういう状態に陥って
しまっているとき、人は自分の認知の歪みに気付かない。
家族や友人からそれを指摘され、励まされたって、
そう認識するのは難しい。

「みんな気休めを言ってくれてるだけだ」と感じる。
この認知の歪みが、ひとを鬱にしている。本当は本人が
思っているほど、本人に責任はないのだ。

さて、これらの事から学べることはなんだろうか。
いろいろあると思う。まず、この人間の認知の問題の存在を
自覚することで、人はもっと謙虚になれると思うし、
他人に対して、もっと共感的になれるかも知れない。

「あの人の失敗はあの人の努力不足に見えるけど、
実は自分の知らないところでいろいろあるのかも
しれない」

とか考えたりして。

逆に、自分が自信喪失に陥っているときに、このことが
少しでも頭にあったら、「もしかしたら、自分は必要以上に
自分を責めてるかも知れない。実際よりずっとまわりの人が
大きく見えてるだけかもしれない。実は自分はそんなだめな
わけじゃないし、みんな大して変わらないかもしれない」
と、こういう風に思えるかも知れない。

さらに、もしあなたの周りの人があなたを非難したり責めたり
してきたとき、

「他人から見ると、自分の状況って見えにくいんだよな。
自分の性格ばかり目立つように人間の認知は出来てるからなあ」

と思うことで、もちろん責められて傷つくけれど、もっと多角的に、
客観的に その状況を見ることが可能になるかも知れない。




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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Fundamental (スペルミス?)
2015-03-28 13:48:56
どの記事も分かりやすくて勉強になります。
返信する
Re:Fundamental (smf405)
2015-03-28 21:31:02
あれ!本当だ!
ご指摘ありがとうございます!
早速修正しました。
またいつでもお越しください。
返信する
Unknown (Unknown)
2015-04-11 06:17:38
すごく勉強になります
感謝です
返信する
Unknown (Taka Kurokawa)
2015-04-13 18:42:03
Unknownさん、

ありがとうございます!
またいつでも来てください。
返信する

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