元気の源

猫が大好き、動物が大好きな、パステル画家・山中翔之郎のブログです。

マーク君の気持ち

2012-07-28 19:49:23 | My Works -肖像画-


6月後半に開いた聖路加第二画廊における個展の直前に、この絵は完成した。
黒ラブ君の名前は“ マーク ”。


そのちょうど一年前、第二画廊では初めての個展会期中に H さんにお会いした。
「わぁ、可愛い!」
そんな感じのテンションでご覧いただく方が多い中、静かに絵の前にたたずむH さんの表情はちょっと違っていた。
無理もなかった・・・。
そのあとお話をした中で、愛犬を亡くされた直後であることを知った。
それが、マーク君だった。
同じ年の2月に愛猫の元さんを亡くしたばかりだった私には、H さんのお気持ちがよく分かった。
そしてその悲しみから立ち直るには、“時”が持つ偉大な力を借りながら、しっかりと想い出してあげるしかないことも・・・。
しかしその時の H さんには、まだあまりにも時間が足りなかった。
ほんの一瞬想い出しただけで涙が溢れ出し、言葉を遮った。
それでも少しずつ、少しずつ、マーク君の話を続けるにつれ、時折笑顔が見えるようになっていった。
私はただ耳を傾けることしかできなかった。


それからしばらくして、改めて肖像画制作の依頼を受けた。
預かった20枚ほどの写真には、ご家族みなさんのマーク君への愛情が溢れていた。
その中から、いちばんマーク君らしい表情を選んでいただく。
同時に、絵の中に込めたいと思う希望事項をうかがう。

肖像画を描くときはいつもそう・・・。 出来る出来ないに関係なく、とにかく希望されることを全部聞かせていただく。 私も描き手として遠慮なく意見を言わせてもらう。 その上で、最善の形を探してゆく。
何度も繰り返すが、肖像画は私だけが描くのではなく、依頼者と共に描くものだから・・・。

H さんから手渡されたメモ書きにはこんな希望事項が書かれてあった。

 ・笑っている表情(舌が出ている)
 ・目が合うように
 ・元気そうに
 ・優しい顔
 ・丸い目をして
 ・お花がいっぱい
 ・天国にいる感じ

何気ない言葉一つ一つの中に、マーク君への思いを強く感じた。 そして一番最後に書かれた一言が、熱く胸に響いた。


それから数か月の間に、デッサンを見ていただいたり、絵のサイズを再検討したり・・・。 少しでもマーク君らしい絵を・・・というお互いの気持ちが様々な形で積み上げられていった。

マーク君については十分なくらいイメージが固まったが、最後まで絞りきれなかったのがバック。 つまり、希望事項に書かれた最後の二つ。
そんな状況のまま、私は4月のボザール・ミューに於ける個展を控えていた。
その個展では、天国へ旅立って一年が過ぎた元さんを思いきり描いた。
まさに“天国にいる感じ”の元さんの絵も何点か・・・。
その個展に H さんも来てくださった。 そしてその中の一点を特に気に入ってくれたことがきっかけになって、マーク君の絵の全体のイメージが固まった。 

個展終了後、最後の仕上げに掛かった。
もう迷いはなかった。
想い出深いという桜の花の薄紅色、マーク君の気持ちになった勿忘草の青、そのほかに黄、緑、橙・・・などなど、それぞれの色に H さんの様々な思いを描き込み、最後に白のパステルで優しく花々を覆った。


この4月から H さんは聖路加病院でお仕事を・・・。
そんなこともあって、完成したマーク君の絵は第二画廊での個展中に引き渡すことになった。
お約束の日、H さんのご希望もあって朝から展示することにした。
何人もの方々が、マーク君の前でニコニコ・・・。 私も思わずニコニコ・・・。
そんな数時間後、貴重な昼休みの時間を使って H さんが来てくれた。
壁に掛けられた絵を前に、静かに何回もうなずく H さん。 私にはそれだけで十分だった。
そして少し遅れて見えた妹さんが、一言・・・。
「あっ、マークだ・・・」
その言葉にホッとしながら、初めて H さんとお会いした一年前のことが懐かしく想い出された。


社会人としてご実家を出るにあたり、マーク君の絵をご両親に贈られるとのことだった。
きっと今も忙しい毎日を過ごされていることと思うが、はたしてもうご両親にご覧いただくことができたのだろうか?

マーク君がいつも H さんとご家族の皆さんを見守っている。
この絵の前に立った時、そんなふうに感じていただければと願う。
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ダウン症の少年少女6人の絵画展

2012-07-19 01:15:41 | 日記





      



今、聖路加第二画廊で “ talent ダウン症の少年少女6人の絵画展 ”が開かれている。

6月後半の私自身の個展会期中にこの展示会のことを知り、とても楽しみにしていた。
昨日、この夏最高の暑さの中、それでもどうしても観たくて、個展が終わってから初めて聖路加へ出かけた。

13時過ぎの一番暑いころだったせいか、築地駅からたった5~6分の距離にもかかわらず、軽い眩暈を覚えながら旧館に入った。
チャペルの前でペットボトルの水を飲んで一息入れる。 そして第二画廊へ・・・。

二週間通い詰め、自分の描いた作品が両側の壁を埋めていた時の雰囲気にすっかり慣れてしまっていた私は、廊下を左に曲がったところから始まる第二画廊の、今までに感じたことのない新たな空気に思わず息をのんだ。
そこには、様々な色彩とフォルムがきらきら輝きながら、まさに自由自在に飛び交っていた。 それは窓に下げられたブラインドの間から射し込む鋭い陽の光のせいなどではなく、20数点の作品それぞれから発せられているものだった。
そこには、間違いなく、絵の・・・、描くということの原点があった。

どのくらいの時間が経ったのだろう・・・。 一作一作その前に立つたびに不思議な力に吸い寄せられるようで、次の絵に移るのが躊躇われるほどだった。
ようやく全ての作品を観終った後に、作者たちが紹介されているボードに気が付いた。
その時になってやっと展示会のタイトルを思い出した。
“ ダウン症の少年少女・・・・・・ ”
そうだった・・・。 しかし、絵を見ているときに、そのことは頭の中から完全に消えていた。 
私の目に映ったのは、邪心というものが全くない、純粋という概念がそのまま絵になったものだった。
たとえば保育園や幼稚園に通う幼い子供たちが描く絵のような、上手とか下手とかいうことは全く関係なく、ただ自分が描きたいと思うものを、使いたいと思う色を使って無我夢中になって描いた・・・、そんな絵だった。
6人の作者たちの年齢を見て、ちょっと驚いた。 そこには、14歳~17歳という年齢が書かれていた。
その瞬間、何か不思議な感動が私の胸をいっぱいにした。
どんなに年齢を重ねても人間が忘れてはいけない、しかし実際には多くの人たちが忘れ、あるいは失ってしまった大切なものが、彼らの中にはしっかりと色褪せることなく存在していた。

恥ずかしい話だが、私にはダウン症についての正しい知識がほとんど無い。 そんな私に、短時間のインターネットで得た俄か知識だけでダウン症について語る資格はない。
ただ、数の論理からすれば大多数の人たちが “普通” ということになる世の中で、ダウン症の子供たちが生きてゆくのにいろいろなハンディキャップがあるのは事実。
しかし、どんなにハンディキャップがあろうと、この世界に生まれてきた尊い命であることに何の違いも無いはず。
様々なハンディキャップを、みんなでカバーし、共に歩んでいける・・・そんな世の中にしなければ・・・!


6人の笑顔の写真の横には、それぞれのコメント添えられてあった。
みんな素敵な夢と希望を持っているんだな・・・。

ただただ、願わずにはいられなかった。
どうか彼らが、彼女らが、その夢を叶えることができますように!
そして、6人と同じダウン症の、さらにはきっと他にもあるであろう様々なハンディキャップを持つ子供たちが、そのハンデゆえに希望を捨てたりすることなく、彼らの中の、彼らだからこそ持っている才能・・・ talent を思う存分生かして、その胸に抱かれた夢が、希望が必ずや叶えられるような世の中になりますように・・・!
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ちょっ! ちょっ! ちょっ!

2012-07-13 17:23:53 | My Works -ノラ猫たち-
                『 ちょっ! ちょっ! ちょっ!』



現在開催中の白黒猫展に出品しているは三作品。
二回連続のご紹介に引き続き、今回が最後の一点のご紹介。
3年ほど前に描いた作品だが、今回久しぶりに皆さんにご覧いただくことにした。

「 何、このタイトル・・・?」と言われそうだが、これは絵の中の白黒猫の気持ちを代弁したつもり。
ノラ猫のメッカ 谷中へ取材に出かけた時に、この光景に出会った。
夏にはまだ早い時期だったが、かなり暑く感じる日だった。
クターッと昼寝をしている白黒猫のシッポのあたりで、同じような色合いの何かがチラチラと動いているのが見えた。
望遠レンズを付けたカメラのファインダー越しに見えたのは、モンシロチョウ・・・。
急な暑さに蝶もおかしくなっていたのだろうか・・・? どう見ても甘い蜜などありそうにない黒いシッポの先に、懸命にとまろうとしているように見えた。
その髪の毛ほどしかない細い足が触れるか触れないかという瞬間に、その長いシッポが素早く動く。
ビックリしたかのように一旦は離れた蝶が、またシッポの先に近づいていく。
再び・・・、パシッ!
そんなことが何回も繰り返された。 その間シッポにつながる本体の方は全く動く気配のないまま。
シッポだけがまるで別の生き物でもあるかのように、時には素早く、また時にはゆっくりと動いていた。
モンシロチョウの攻撃はそのあとも執拗に続いた。
すると、さすがに我慢の限界を超えたのか、それまで一度も動くことのなかった乱れ八割れ模様の頭がムクッと持ち上げられ、ゆっくりと自分のシッポの先へ鋭い視線が向けられた。
その気配を感じていないのか、モンシロチョウは再度アタックを・・・。
「ああ、やられちゃう!」と、必殺猫パンチが飛ぶ光景を思わず想像した。
しかし・・・、現実は違っていた。 
何回かその攻撃を軽くかわしたあと、大きく長~い溜息が聞こえてきた。
その表情は、まるで「ちょっ! ちょっ! ちょっ! ちょっと、いい加減にしろよ!」とでも言っているかのように見えた。
よほど暑さが堪えていたのだろうか? それとも心が広いのか??? その後、モンシロチョウにパンチを放つこともないまま、「もう、飽きた・・・」と言わんばかりに乱れ八割れは元の寝姿に戻ってしまった。
モンシロチョウがなぜそこまでに白黒猫のシッポの先にこだわるのか、私は最後まで理解でいないまま、それでもなぜかその根気の良さに感心しながら、その場を離れることにした。

何気ない風景の中に、人間には計り知れないような様々な命の営み、そして物語がある。 そのほんの一端でも描くことができれば・・・、そして見てくださる方々にホッとしてもらえれば・・・と願う。
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夏の想い出

2012-07-12 00:17:43 | My Works -天体シリーズ-
                              『 夏の想い出 』


銀座ボザール・ミューで昨日から始まった“白黒猫展”に出品している新作のご紹介。

この形、前にも見たことが・・・と思われた方もいるのでは?
その通り! ここ何年か天の川をバックに描いた数点の作品で、高さと広さを感じさせてくれる形を・・・とあれこれ考えた末に生まれたのがこのカットだった。 そしてこの作品でもそれを使うことにした。
しかし、今回は花火がバック。 
白黒猫展ということもあり、背中の柄でちょっとメルヘンチックな遊び心を出してみることにした。
タイトルは・・・『 夏の想い出 』。

実は数年前に一度、花火をバックに小品を描いたことがある。
何回か個展で展示をしたこともあるが、そのたびに何か物足りない気がして、しばらくはお蔵入りの状態になっていた。
先日終了したばかりの聖路加個展の準備をしていたころ、急にその作品に手を加えてみることにした。 新たな描き方を試してみたくなったから・・・。
その時点ではまだまだ満足というわけにはいかなかったが、それでもいろいろな可能性を感じることができた。

その延長線上にあるのが今回の『 夏の想い出 』ということになる。
セヌリエというフランスの老舗画材店製のパステルに、パール調のシルバーとゴールドがある。 花火の部分にそのパステルを思いきり使った。
直接パステルで描いてみたり、粉にして落とした上から叩くようにして画紙に定着させたり・・・。 いろいろな方法で花火の華やかさを表現してみた。
このパステルは、作品を見る角度によってキラキラ輝いて見える。
もちろんそれは原画を前にしての話で、この画面上でお見せできないのが残念。
ぜひボザール・ミューで原画を見ていただきたいと思う。

そろそろ梅雨明け・・・?
今年もあちらこちらで花火大会が開かれるのだろう。
観客がまばらな場所では、絵の中のような風景が見られる・・・かも???
皆さんにとっても、素敵な想い出がいっぱいの夏となりますように・・・!


“白黒猫展”は21日(土)まで無休で開催されています。
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'12 白黒猫展のご案内

2012-07-09 19:02:16 | 展示会


銀座ボザール・ミューの人気企画展“白黒猫展”が、明日10日(火)から21日(土)まで開催されます。

私はDMに使っていただいた『 キラキラ木洩れ日がゆれる 』を含めた三点を出品しています。
そのうちの一点は、昨日完成したばかりの新作。
今日あわてて額装をし、ぎりぎりで搬入してきたばかりなので、まだその画像をチェックしていません。
次回に改めてご紹介させていただきます。

どの作家さんの作品も、とにかくユニークなコばかり・・・!
ぜひ会いに行ってあげてください。

詳しくはブックマーク欄の“ボザール・ミュー”をクリックしてください。
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星々の詩

2012-07-05 15:31:07 | My Works -我が家の元さん-
                 『 星々の詩 』



毎年7月7日の七夕が近づいてくると、心は自然と宇宙気分になる。

自分で勝手に“天体シリーズ”と呼んでいる、宙(そら)を大いに意識した作品を描きたい気持ちがふつふつと湧いてくる。
今度はどんな絵を描こうか・・・?

・・・と、その前にご紹介しておきたい天体シリーズ作品とも言える絵が一つある。 それが今回の『 星々の詩 』。


4月の銀座ボザール・ミューのおける個展では、天国に旅立って1年余りが過ぎた我が家の元さんを思いきり描いた。
その中で、星になって宙を自由に飛び回っている元さんをイメージして描いた作品が5点あった。
そのうちポストカードになった4点は、既に5月12日にアップした中でご紹介した通り・・・。
ただこの『 星々の詩 』だけは、DMにも使った『 星になって・・・ 』と眼の雰囲気が似ていることもあって、泣く泣くセットに入れることを諦めた。

5点の中では一番最後に完成した作品で、他の4点のどれよりもたくさんの星を元さんの周りに輝かせた。
東京の夜空に見える星の数は少ないけれど、もっともっと空気の澄んだ場所からはきっと満天の星が見え、その星々それぞれの奏でる詩が、互いに響き合い、あるいは一緒になり、億千万の輝きに姿を変えて見る者に降りそそいでくることだろう。
そんなイメージを頭の中いっぱいに膨らませ、その星々の詩の一つ一つに耳を傾けながら、私はただひたすらパステルを持った右手を動かし続けた。
いつの間にか寂しさは薄らぎ、遙かかなたの宙を見上げる元さんの瞳の中に、新たな希望・・・のようなものを感じていた。


ポストカードにはならなかったが、少しでも多くの方々に知ってもらい楽しんでいただきたいという思いから、一筆箋の仲間に入れることにした。
先日終了した聖路加個展でも、たくさんの方々に喜んでいただくことができた。

たとえどんな形であっても、星々の詩それぞれに込められた様々な思いが、一人でも多くの人たちの心に届きますように・・・。
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20th 聖路加個展 終了!

2012-07-01 23:27:29 | 展示会


二週間に渡って開催していた聖路加第二画廊における個展が、昨日終了いたしました。

前半は思いも寄らぬ台風が・・・。 そして後半には、梅雨の晴れ間どころか夏本番を思わせる陽射しが・・・。
日に日に変わる天候にもかかわらずお出かけいただきました皆様、そして偶然の出逢いに足を止めていただいた皆様、本当にありがとうございました。

あたたかい励まし・・・、鋭いご指摘・・・。
これまで続けてきたことへの自信と、新たな試みへの意欲を、今改めて感じています。
本当に、本当に、ありがとうございました。


併せて・・・、銀座ボザール・ミューの“Tシャツ展”も、同じく昨日終了いたしました。 ハシゴいただいた方も何人か・・・。
重ねて御礼申し上げます。


次の個展は9月中旬の横浜山手となりますが、それまでにも様々な展示会に参加の予定です。
また改めて、随時ご案内させていただきます。

ありがとうございました。
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