猿若祭と銘打っているからなのか、非常に盛りだくさん、大盤振る舞いの今月の歌舞伎座。
幕開けの「猿若江戸の初櫓(はつやぐら)」では、江戸歌舞伎の発祥エピソードが描かれています。
猿若一座と出雲阿国が善行の褒美として、お奉行様から江戸での興行を許されるという話は実話かどうか不明ですが、
楽しくおおらかな一幕。
勘九郎と七之助兄弟が猿若と阿国に扮し、息がピッタリ。
同じ家に立役と女形がいるってのは、いいものですね。
兄弟の仲の良さがそのまま芝居に反映されるような和やかな舞台は、見ていて穏やかな気分になれます。
続く「黒髪」では寺子屋を営む、松緑@正木幸左衛門、実は源頼朝の役が苦しい。
生真面目な松緑が、寺子屋に通う弟子の女の子にセクハラ行為を繰り返す好色さ、という設定に無理があり、
どこをどう見てもそう見えない、悲しさ……。
これは染ちゃんのお役でしょう。
しかも、これに嫉妬する女房が時蔵なので、妻というより母。
これは全体的にミスキャストではないでしょうか。
「四千両」は今回で2回目ですが、主役の無宿人富蔵は前回と同じく菊五郎なので、予定調和でありながら、
世話物の面白さを堪能しました。
江戸時代の牢屋には牢名主がいたとか、テレビの時代劇でもたまに描かれますが、さすが歌舞伎!
悪党ぞろいなのに形式を重んじ、牢内の作法や型を確立している様子を詳しく伝えて笑えます。
かけ声なんかも見事に揃っている。
これは意外と、管理する側からみると楽かも。
だから、牢名主が積み上げられた畳の上に鎮座していても注意されなかったのかもしれませんね。
新入りは「つる(現金)」を隠し持って入牢し、牢名主に進呈しなくてはボコボコにされるというルールも覚えちゃったわぁ。
犯罪者も大変だ~、投獄されてからさらなる災難に見舞われる人も多かったのでしょう。
しかし、悪いことをしたんですから、その報いを受けるのは当然。
菊五郎が、悪党ながらも筋の通った粋な男を相変わらず好演していました。
そして、トリの「扇獅子」。
ごめんなさい! 見ずに帰りました。
だって、幕間時間と同じか、それより短いくらいの舞踊なので待機時間が惜しく、舞踊に関心の薄い私としては、
お腹いっぱいになってコソコソと歌舞伎座をあとにした次第。
最近、こういう怠惰な行動が増えている……。