国立劇場閉場後も各地の会場でたまに歌舞伎公演をしているようですが、専用の小屋がない悲しさで情報がなかなか行き渡らないのが現状です。
危機感を感じた萬壽さんたち歌舞伎役者が陳情に出向き、早期の国立劇場建設を働きかけているニュースを見たことがあり、奔走されています。
そんな折、萬壽さんの「かさね」があると誘われ、それは行くしかないだろうとチケットゲット。
国立劇場でも行われていた「歌舞伎鑑賞教室」では毎回、役者が解説を行ってから舞台が始まります。
今回の「歌舞伎のみかた」解説は坂東亀蔵さん。
お兄さんの彦三郎さんに負けず劣らずの美声の持ち主で、素の話し方も非常に聞き取りやすく滑らか。
真面目でやや面白みに欠けるものの、歌舞伎の基本を丁寧かつ簡潔に伝える話術はさすがでした。
音響効果の解説などに加えて裏方さんや職人さんにもスポットを当て、最近、彼らの存在がアピールされることが増えていると感じます。
菊ちゃんの襲名公演のときも同様。
どれほど立派で偉大な役者でも、一人で舞台を勤めることはできないのが歌舞伎です。
時代と共に縁の下の力持ち的な仕事に就く人が減って、役者だけでなく伝統芸能の世界全体で憂えている表れなのでしょう。
亀蔵さんの解説からもそれが十分伝わってきて好感を覚えました。
「かさね」の萬壽さん@腰元かさねは綺麗で上品で、相変わらずのたおやかな美声と折り目正しい踊りを久しぶりに堪能できて大満足。
後半、顔と姿が醜く変化したかさねになっても顔半分、目のあたりだけ傷ついたようになっていて美しさの名残りがありました。
以前、猿之助@かさねを見たときとはずいぶん雰囲気が異なり、役者によって解釈の違いがあるのが歌舞伎の面白さ。
猿之助は、恨めしさたっぷりにおどろおどろしく顔を作ってましたからねぇ。
一方、相手役の芝翫@与右衛門はどうしたのでしょうか。
先ず、その二重顎に愕然となり、脚はむくんでいるのか、白タイツを履いているのかと思うほど太くのっぺりしています。
全員に配られたパンフレットにあるインタビューで、芝翫自身が与右衛門を「頬がこけたようなスラッとしたイイ男でなければならない」と
評しているのに、これはいけません。
歌舞伎役者が役によって体重を落としたり太ったりするのはよくあることで、皆さんそうしているわけです。
野良犬のような荒んだ男でも美しさに女が惑うという姿が必要なお役を勤めるからには、プロ意識を発揮していただきたかった。
「色悪」と呼ばれるお役は誰にでも勤まるわけでなく、芝翫はできると期待されての配役なのですから。
2025年7月17日~26日