なんと幸せなことに、我々取材班3名は、あの「フェラーリFF」に同乗させていただく機会を得た。
フェラーリとしては異質の、3ドアハッチバック。FRベースの4輪駆動車である。
かつてのアコード・エアロデッキやボルボ480、あるいはAMCペイサーを、さらにエモーショナルにしたようなそのスタイリング。
全長×全幅×全高は4907×1953×1379mmで、ホイールベースは約3mの2990mm。堂々たる体躯のクルマだ。
革の香りに溢れる黒基調のインテリア。赤ステッチが、見事に映える。
ウインカースイッチ・ライト・ワイパー・エンジンスタートボタン等、ステアリングには操作系スイッチがてんこ盛り!フェラーリのF1マシンをイメージさせる演出なのだろう。ステアリングと共に回転してしまうウインカーは、使いづらそうだが・・・
シフトレバーらしきものは見当たらない。変速はステアリングパドルを使い、リバースにはセンターコンソール下の「R」のボタンを押して入れるのだそうだ。かつてのシトローエン並にトリッキーな操作ロジックである。
なお、ドライバー氏によると、日本国内に入って来るものはもとより、イタリア本国においても、現代のフェラーリはすべて「2ペダル」なのだそうだ。
まさにフロントミッドに配置された6.3リッターV12DOHCエンジンは、なんと660psを発揮!
そして、いよいよ同乗体験開始である。尾車氏・ニータ氏はリヤシートにたたずみ、私はパッセンジャーシートに座らせていただいた。
ドライバー氏がフルスロットルを与えると、そのエンジンは1880kgの巨体を、甲高い咆哮とともに、爆発的に加速させる。フェラーリは、遥か前を走っていたクルマに「あっ」という間に追いつき、助手席に座っていた私は「追突する!」と叫びそうになった。だが、強力なカーボン・ブレーキが、いとも涼しげに、信じがたい減速をこなす。路面がジェットコースターになったかのようなその感覚。未体験ゾーンとは、まさにこのことを言うのだろう。
それでいて、ハーフスロットル状態では至って静粛。上質なインテリアと相まって、まったく普通のサルーンのように泰然と走る。ドライバー氏によると、フルスロットル時とハーフスロットル時では、エキゾーストの通り道が異なるのだそうだ。ううむ、やはり、3000万円以上するクルマは、お金を掛けるところが違うものだ。
後席に座っていた尾車氏・ニータ氏によると、スペース的にはニールーム・ヘッドルーム共に実用上何ら問題ないとのこと。加えて、ほとんどリヤアクスルの真上に座るような状況にも係らず、乗り心地も悪くないというのだから、驚きである。
大柄なFRの3ドアハッチだけに、荷室スペースも、日常的使用には十二分な広さだった。
やはり、合法的に4名乗車できるのは大きい。一家の日常の足としても使うことが可能な、実用性を持ったフェラーリ。なんと素晴らしいのでしょう。ただし、そのお値段は、まったく非日常的ですが・・・
なお、フェラーリというクルマに「カタログ」というものは、存在しないとのこと。「オーダーを入れてオーナーになる人には、納車までの待ち時間を楽しんでもらえるように、しっかりとした冊子が渡される」のだそうだ。その冊子をヤフオクに出したら、幾らくらいで入札されるんでしょうネ・・・
ともあれ、実にワンダーな体験をさせていただいた。ドライバー氏に、激しく感謝である。