つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

サラリーマンって大変よね

2006-09-09 21:18:09 | 小説全般
さて、な~んてこと書いても半分くらいは嘘じゃないの第648回は、

タイトル:人事異動
著者:高杉良
出版社:集英社 集英社文庫(初版:S57、原書「自らの定年」S54)

であります。

T大を卒業し、叔父の勧めもあり、日本で一、二を争う大手商社、光陵商事に入社した新井治夫は、いわゆるエリート社員で様々な部署を渡り歩きながら、順調な仕事ぶりを発揮していた。
仕事の忙殺されながらも、結婚もし、順調なはずのサラリーマン生活に転機が訪れる。

仕事以外でも親しくしていた社長の経営する会社への増資などを経て、新井の本意ではないにもかかわらず、その会社を子会社化するとともに社長を会長へ退かせ、さらにリストラを実施。
さらに妻の慢性的な病気、官僚に対する民僚と自称する商社の気質への疑問などから、光陵商事を退職する。

学生時代の友人に紹介された電子工業メーカーに再就職し、再出発。
順調に成果を上げていく中で、ここでもやはりその順調さから権力闘争に巻き込まれてしまう。
そして新井は再就職先での様々なしがらみを絶つ決意をする。

タイトルから、18禁を思い浮かべたひとには残念ながら、いわゆる経済小説であります。

一流の大学を卒業し、一流の会社へ就職したエリート社員の半生、特に商社、そしてメーカーでの権力闘争やその体質、しがらみなどを描いた作品。
いままでまったく手を出したことがないジャンルだけに、とても興味深く読めた。
古い作品だから、いまとなっては……と言うところがあるのだろうが、それでもフィクションながら商社という組織の内部というものが垣間見えるところがいい。

ただし、物語として読むと、大して……というより、おもしろくない。
まずはキャラがすべてロボット。
主人公の新井はエリートだが、万事、組織に振り回されつつも信念を貫き、仕事よりも病症の妻を選ぶと言う人物。
対する妻も、夫を思い、懊悩するような、いつの時代だと思えるくらいのステロタイプ。

まー、サラリーマン稼業をやってるひとにとっては、ある意味、理想的な夫婦だろうし、新井のほうは仕事は出来るし、人柄はいいしで、ここまで来るとアホらしさを通り越して拍手したくなるくらい(笑)
対するライバルたちや上司である社長や役員たちも、会社という枠の中でしか語られないため、人間くささが希薄。
濃いキャラもいないわけではないが、デフォルメされているだけで、人間くささがしっかり出てるかと言えば、そうではない。

結局のところ、著者がストーリーを転がす上で必要である部分だけを強調して描いている印象。

まぁ、ジャンルがジャンルだから、主眼とするところが違うと言えばそれまでだから、そういう組織の論理や手法と言った部分を楽しむのはいいだろうね。
実際、上にも書いたけど、そういうところは興味深かったわけだし。

ただ、やっぱり男性向けだよな、これ。
僅かに、新井と言う主人公が見せる妻への思いやりと言った部分においては100%とは言い切れないだろうが、そういうのを読みたいなら、ベタな恋愛小説でも読んだほうがマシだろうね。