つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

さぁ、どこまで創作でしょう?

2006-09-11 23:54:51 | 時代劇・歴史物
さて、さりげにキリ番ゲットな第650回は、

タイトル:五台山清涼寺
著者:陳舜臣
出版社:集英社 集英社文庫

であります。

ミステリ作家にして中国歴史小説の大御所、陳舜臣の短編集。
拾い読みではなく、まともに一冊読むのはこれが初めてだったり。(爆)
例によって、一つずつ感想を書いていきます。

『日鋳の鏡』……時は三国時代、舞台は呉の国。鏡作りで知られる日鋳嶺の工匠達は、孫権の命で武器作りを強制されていた。本来の仕事に戻りたいが、戦は当分終わりそうにない。そんなある日、脱走した若者の一人が帰郷し、東方にある倭の国に行けば鏡が作れると持ちかける――。
三国時代、倭の国、鏡と来ればあのネタか? と思っていたら、見事にラストで出てきました。ただ、呉の国の工匠が『景初』を使うのは不自然なので、例の論争を巻き起こした奴とは違うよね?(マイナーなネタですいません)

『天魔舞の鐘』……時は元朝末期。王室需要の物資製造を担う厳安福は、部下の工匠であり幼馴染みでもある羅忠に時計製作を頼んだ。羅忠はこまごました仕事を嫌い、何万斤という大鐘を作ってみたい、ともらす。友のため、厳安福は一計を案じるが――。
元の支配に対する、漢人工匠のささやか(?)な抵抗を描いた物語。厳安福と羅忠の微妙な友情も上手く描けている。

『紙は舞う』……時は北宋末期。名だたる書家の文字に似せた形に紙を切り、客に披露する芸で知られる兪敬之は牢に入れられた。皇帝の寝所に潜り込み、切り抜き文字で脅しをかけた罪であった。兪敬之は身に覚えのないことと釈明するが――。
水滸伝の時代を扱っているが、国の興亡は飽くまで枝葉で、兪敬之の芸に対する想いを描くことに重点を置いている。サブで登場する、娘や助手との会話もいい。

『舌声一代』……時は明代末期。子供同士の戦争ごっこでいつも悪玉をやらされていた曹逢春は、全員を物語に合わせて動かす『語り役』をやりたいと強く願っていた。彼はある講釈師の弟子となるが――。
激動の時代を生き延び、その道の第一人者として名をはせた講釈師の物語。『紙は舞う』よりさらに深く、主人公の芸に対する想いが描かれている。ライバル(?)の名妓・王月生の使い方も面白い。

『五台山清涼寺』……時は清代初頭。南下する清軍と迎え撃つ明の残党に挟まれた豪族・冒襄は、軍隊によって愛妾・董小宛を奪われてしまう。董小宛以外の女性を否定する冒襄は、執拗に彼女を探し求めるが――。
史実を上手く利用したミステリ。最後の真相はちょっと裏技っぽいが、登場人物の設定を考えると納得はいく。イチオシ。

『花咲く月琴』……太平天国の重鎮・楊秀清が、天京内部に潜むスパイを探す話。作者自身が聞いた物語、という体裁なためか、小説と言うよりは中国史解説といった感じ。

『虎たちの宝』……これも形式的には『花咲く月琴』と同じ。第二次大戦終了後、香港に潜伏していたアーサー・ウィルソンの謎を追う話。こちらもイマイチ。

以上、最後の二編以外はかなり楽しめました。
軍人でも王族でもない人々の視点、というのがかなり好み。
ただ、主人公達の話と並行して、結構長い歴史解説が入っているので、中国史に興味がない人にはちと辛いかも。