つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

理性派御用達(?)

2006-09-22 20:37:27 | ミステリ
さて、ほんとうに久々にご登場願うの第661回は、

タイトル:コッペリア
著者:加納朋子
出版社:講談社(初版:H15)

であります。

自動人形に恋をする男性の姿を描いた同名のバレエ作品と同様に、人形に、様々な形の愛執を持つ人物を描いた作品で、たぶんミステリの手法を用いているのだろうが、どちらかと言うとミステリとは言いにくい。

ストーリーは、若くして独特の作風が注目された如月まゆらという人形作家が作った人形がコッペリアの位置にあり、それを中心に複数の人物が入り乱れながら進んでいく。

まずは主人公であるヒロインの聖子。
女優たった2名のアングラ劇団で女優をやっている勝気な女性で、パトロンからの豊富な資金力でありがちな貧乏劇団員とは一線を画した生活を送っている。
主人公なので当然この物語の中核であり、まゆらの作った人形の1体と瓜二つということから、様々な人間との関係を持つこととなる。

もうひとり、男性側の主人公(のはず)の了。
まゆらの人形に魅せられ、恋をするフランツ役で、まゆらが自宅兼工房にしていた家から捨てられた失敗作を持って帰るほどだったが、聖子……劇団では聖と出会い、ストーカーのように周囲に出現するが、基本的に害のない人物。

聖子=聖のパトロンとして現れる創也。
宝石商の息子で富豪ということや雛人形職人だった祖父からの知識からまゆらの才能をいち早く見抜くとともに、最もまゆらの人形に執着を持つ人物。
聖のパトロンも、もともとは瓜二つの人形がそのまま動いている、そのことから接近。

物語のキーのひとつである草太。
ネタバレからすると、あまり多くを語らないほうがいいんだが、これくらいならということで、人形作家如月まゆらの息子で、幼いころ、まゆらと別れ、祖父母に養育された。

そして最後に物語の根本をなす人形の作り手の如月まゆら。
美大に在学中、人形を描いた絵を創也に見出され、人形作家へとなった、屈折した愛情表現を持つ女性。

さて、複数の人物が入り乱れ……とは書いたが、私はミステリに明るくないので、たぶん、こういう手法はよくあるんだろう、と思っているだけなんだけど……。
それは、一人称で、各主要キャラが様々な行動を起こす……聖なら劇団でのこと、了ならまゆらや聖との関係、創也は現在の聖、過去のまゆらとの関係などが、短い間隔で語られる。

そうした中で、私みたいな感性派の流れに身を任せるタイプは、けっこう各キャラの現在、過去の状況が入り乱れ、錯綜して幻惑された印象が強い。
おそらく、相棒のような理性派で、じっくりと読み解きながらのタイプには、あれこれと想像、解読していく楽しみがあるのではないかと思う。
いちおう人死には出るが、殺人事件とかそういうものではなく、多様な人間関係のひとつの結末としての描かれ方をしているので、想像したり解読したりする楽しみはあるが、ミステリというジャンルとはかなり遠く離れた趣の作品であろう。

個人的には、前半部分でだいぶ頭の中をシェイクされてしまったので、ほほぅ~、と感心したのだが、ラストに至るところがちと消化不良かな。
まぁ、このラストでいいとは思うけど、そこに至るまでがちょっとねぇ。
やっぱり、このひと、恋愛物は苦手なんだろうなぁ、と思ったり(^^

総評、良品、ただし若干の難あり。

しかし、また通常とは違う書き方になったな。
ネタバレしないように、って思ったらこんな感じになったってことだけど(^^