つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

感性派向き(?)

2006-09-23 18:24:08 | ホラー
さて、ぢつはミステリなキリ番の第662回は、

タイトル:妖櫻忌
著者:篠田節子
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H16 単行本初版:H13)

であります。

起業してまだ年月の浅いアテナ書房の編集者をしている堀口は、著名な女流作家である大原鳳月の突然の死のため、その喪の手伝いをしていた。
その後、鳳月の優秀な助手である若桑律子が、きっと未完で終わるはずであろうと思っていた原稿とともに、自らの小説を持ち込んできた。

以前、律子の話を読み、研究者=論文としてはいいが、小説としては売り物にならないとしていた堀口は、その原稿を読み、ひとつの案を思い付く。
名の売れた若手演出家と死に、話題を提供した大原鳳月を影で支え続けてきた助手の、大原鳳月をモデルとした手記にすれば売れるのではないか、と。

その目論見は当たり、担当している雑誌の売り上げは上昇。
しかし、続きの原稿を見た堀口は、律子の筆に大原鳳月の影を見出す。
律子は、鳳月の遺作を自らの作品として発表しようとしているのではないか。
そんな疑念を持ち、様々な状況からそうした証拠を見つけ、確信するものの、次第に変わっていく律子の様子から理性と感情は乖離していく。

そして、死んだはずの大原鳳月は……。

裏表紙にホラー小説とあったのでホラーに分類はしたけれど、ホラーかなぁ、これ……。
確かに、ホラーっぽいところはないことはないが、ホラーという言葉のイメージとは違う、人間が持つ執着と言ったものの恐ろしさを十二分に感じ取ることが出来る。
だから、怪談のような日本的なぞっとするような怖さや、ハリウッドのB級ホラー映画のような直截的な恐ろしさ、と言うものを期待するとダメ。

この作品は、そうしたものではなく、もっと生々しい恐ろしさ、と言うのが魅力だろうからね。

ただし、やや読みにくい部分があるのが残念。
作中作として、律子が書いた作品の部分があったりするのだが、そうしたところの密度が濃すぎるきらいがある。
作中の人物の作品なのだから仕方がない部分もあるのだろうが、1行あけるなどの区切りをつけて、明らかに異なるもの、と言うところを見せてくれたりしたら、もっと読みやすくなったのではないかと思う。

ただ、雰囲気など、十二分に作品に浸れる……と言うか、引き込まれるものなので十分良品と言えるだろう。

しかし……作中で、時折登場しては主人公の堀口にあれこれと言ったりする村上顕子という女性編集者がいるのだが……。
いい女性キャラだねぇ、このひと(爆)