つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

天秤はどっちかなっと

2006-09-24 19:56:50 | ミステリ
さて、わんちゃんは出てこないぞの第663回は、

タイトル:レインレイン・ボウ
著者:加納朋子
出版社:集英社(初版:H15)

であります。

結婚して2年足らずの美久の家に、高校時代、同じソフトボール部のキャプテンで憧れでもあった片桐陶子から電話があった。
高校を卒業し、すでに7年が経過して久しぶりにかかってきた電話の内容は、やはり高校時代に同じソフトボール部のメンバーであった牧知寿子、通称チーズが死んだ、と言うことだった。

もともと心臓病を抱えていた知寿子は、しかし誰からも好かれるようなタイプの女性で、ある商事でOLをしていた。
残業続きだが楽しそうに仕事をしていた知寿子の死因は、心不全。

陶子は、高校時代のソフトボール部のメンバー……と言っても9人しかおらず、弱小チームだった部員全員に電話をかけていた。
知寿子の通夜の席で久しぶりに出会ったメンバーたち。
しかし、その中には、知寿子と最も仲のよかった、そして知寿子の死を陶子に知らせてきた長瀬里穂の姿がなかった……。

高校時代の友人の死、と言うものをきっかけとして描かれる加納朋子らしい短編連作のミステリ。
7編の短編から成っており、それぞれ、9人のソフトボール部員のうち、死んだ知寿子、通夜に出席しなかった里穂を除く7人の物語を通して、知寿子の死にまつわる謎が解明される。

ちなみに、
「サマー・オレンジ・ピール」
冒頭にあるように美久が陶子から電話を受けてから通夜に関わる話で導入部。

「スカーレット・ルージュ」
ソフトボール部の元副キャプテンで、ある出版社の編集者となった小原陽子が、担当する若手作家との打合せの中で、知寿子の死やその当時のメンバーの人物像などについて語られる部分。

「ひよこ色の天使」
保育士となった善福佳寿美が勤める保育園で起きた小さな失踪事件について語られる部分。

「緑の森の夜鳴き鳥ナイチンゲール
看護婦となった井上緑が軽度の胃潰瘍で入院している青年との関わりと、定期検診に来た知寿子との姿を描いた部分。
この辺りから長短はあれど、過去に知寿子と出会ったと言う話が出てきたりして、ミステリ色が匂い出す。

「紫の雲路」
暇をもてあますプーの坂田りえが姉の結婚式の二次会で出会った知寿子の兄と、知寿子の死について調査を始める部分。

「雨上がりの藍の色」
管理栄養士となり、福利厚生に関しては悪名高い商事の社員食堂に派遣されることとなった三好由美子が、一癖も二癖もある調理師たちとともに社員食堂を切り盛りする部分。
この商事が知寿子が勤めていた商事だったりと、ミステリ部分の輪郭がだいぶ見え始める。

「青い空と小鳥」
ラストで「月曜日の水玉模様」の主人公でもある片桐陶子、そしてやはりそのときの登場人物である萩広海が、里穂の失踪をきっかけに、それぞれのメンバーの情報などを得て、知寿子の死にまつわる謎が解明される部分。
広海が出てくるまで、ぜんっぜん陶子が「月曜日の水玉模様」の主人公だと気付かなかったよ、ったく……(爆)

さて、日常で発生するミステリの中から、1本の大きなミステリを解明していくと言う手法は加納朋子らしい作品で、それぞれの短編も楽しめつつ、ラストの知寿子にまつわるミステリをしっかりと締めてくれるのは相変わらず見事。
もっとも、そうしたらしさはいまいち薄い感じがするけど。

「月曜日の水玉模様」の主役ふたりが出てくるが、この作品を知らなくてもまったく問題ないし、いつもながらにきちんと読ませてくれるし、それぞれの違ったキャラの書き分け、短編ともにいいのだが、なんかいまいちラストがすっきりしない。
総評としては当然、及第だし、良品と言っていいのだが、辛うじて良かな、と言ったところ。
やっぱり、ミステリのキーとなる里穂が主人公となる短編がなく、情報不足なのがすっきりしないところかもしれない。
まぁ、レインボーだから7色=7人だからしょうがない部分はないのかもしれないけど……。