つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

そういうものということで

2005-11-25 21:39:10 | ファンタジー(現世界)
さて、またまた初めてのひとの第360回は、

タイトル:天球儀文庫
著者:長野まゆみ
出版社:河出文庫

であります。

まずはカテゴリーに迷った。
ファンタジーというと、だいたいラノベ系がほとんどで、迷うことなんかないんだけど、これは小説全般と言いたいところだけど、作品の持つ不思議な世界観からあえてファンタジーに。

内容は春夏秋冬の各季節を舞台にした少年たちの日常を描いたもので、最初は秋から。
そして、冬、春、夏の順番に4つの物語。

まず最初に、この作品は「そういうもの」だと思って世界観を捉える必要がある。
「筆記帳」に「ノオト」というルビを振っていたり、おなじ文字を続けるのに「ゝ」の記号を使っていたりする。

だからと言って、こういう表記の仕方がされていた時代の話かと言うと、そうでもない。
物語が始まるのが秋で、そこが新学期と言うことは日本の区別ではないので、では外国かと言えば、必ずしもそうとは言えない。

こうしたところが引っかかったのは引っかかったが、そのうち、この世界観をそのまんま捉える、と言うか受け止めることで、とても不思議な雰囲気を持つ作品に見えてくる。
文章的なところを拘ると、たぶんこの雰囲気を味わうことが難しくなるのではないかと思うので、まずはそういうものだと思うこと、だろうと思う。

で、ストーリーはアビと言う少年と、その友人である宵里(しょうり)と言う少年の日常を描いた短編連作。

秋 月の輪船
冬 夜のプロキオン
春 銀星ロケット
夏 ドロップ水塔

の各話で、「月の輪船」は学校で行われる野外映画や古ぼけたレコード、音楽室で歌っていた少年との関わりを描いた話。
「夜のプロキオン」は、毎年のように行っていた宵里の伯父の別荘へ行き損ねた夜に出会った小さな子供との不思議な話。
「銀星ロケット」は題名ともなっている、毎月のように打ち上げられている銀星(ルナ)ロケットを絡めた、アビと宵里のちょっとした諍いの話。
「ドロップ水塔」はふたりの別れを描いたもの。

ストーリーの起伏には乏しいけれど、どの話もアビと宵里の少年ふたりの姿がうまく描かれていると思う。
作品の雰囲気もいいし、ラストの、ホテルの屋上にある水塔で見せるアビの姿や、引っ越した先から送られてきた手紙のない小包のシーンなど、いい余韻を持たせてくれるものになっている。

ただ、個人的には好きかと言われれば、う~む……と悩んでしまうなぁ。
雰囲気のあるいい作品だとは思うんだけどね。
ま、そこは趣味の問題なので、こういうのが好きなひとにはオススメかな。
「どういうのが読みたい?」って訊いてみて「こういう感じ」でヒットすれば、薦めるかな。