つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

息子フェチ

2005-11-01 23:53:44 | 時代劇・歴史物
さて、三大シリーズ第二弾な第336回は、

タイトル:剣客商売
著者:池波正太郎
文庫名:新潮文庫

であります。

池波正太郎の人気シリーズの第一巻です。
秋山小兵衛と息子大治郎の名コンビが江戸を舞台に悪を斬る。
短編集なので一つずつ感想を書いていきます。

『女武芸者』……父の小兵衛が建ててくれた無外流の剣術道場にて、大治郎は今日も質素な食事を取っていた。門人もなく、訪れる者と言えば食事を運んでくれる近所の女房のみというこの家に来客があったのはその直後である。さて、彼の用向きとは――。
レギュラー総出演の第一回。老いてなお盛んな秋山小兵衛、剣一筋に生きる息子大治朗、小兵衛の愛人おはる(実は大治郎より若い)、美貌の女剣士佐々木三冬、小兵衛と昵懇の御用聞き四谷の弥七、個性溢れる面々の紹介と活躍が無理なくまとめられている。短編の見本とも言っていい見事な逸品。

『剣の誓約』……初の門弟を得るも、その朴念仁と言っても差し支えない性格のため、三日でそれを失った大治朗。そんな彼のもとを旧知の老武士が訪れる。彼は、ある重大な役目を依頼するのだが――。
しきりに父・小兵衛とも会うことを勧める大治朗と、それを頑なに断る老武士。最後にさらっと、小兵衛が老武士との関係を明かすシーンは秀逸。

『芸者変転』……小兵衛なじみの料亭・不二桜の女中おもとは料理人との逢い引きの最中にとんでもない話を聞いてしまう。彼女に口止めして、小兵衛は解決に乗り出すが――。
小兵衛大活躍の巻、だが、あまりぱっとしない。殆ど一人で全部片付けてしまうのは何だかなぁと思ってしまう。

『井関道場・四天王』……井関道場・四天王の一人に数えられる佐々木三冬が持ち込んだ難題。小兵衛は道場の跡継ぎ問題解決に乗り出す――。
三冬様お悩みの巻。この二人の微妙な関係はなかなか楽しい。すべてを解決した後、一瞬だけ闇の部分を見せる小兵衛が良い。

『雨の鈴鹿川』……『剣の誓約』の後始末のため、大治朗は大和の国を訪れていた。帰りの道中立ち寄った宿で、彼は隣室の二人連れの会話を聞いてしまう。さらに旧友と再会した彼は否応なしに怨恨絡みの闘争へと巻き込まれていくが――。
大治朗一人旅の巻。剣は鋭いが如何せんまだ若い大治朗の迷いと、事の顛末を聞いても全く動じない小兵衛の対比で締めているのはいいが、さすがに大治朗一人では盛り上がりに欠けるか。

『まゆ墨の金ちゃん』……大治朗の命を狙う者がいる! 表面上は、すべては息子が解決すべき問題と流した小兵衛だが、内心気が気でない。おはるに八つ当たりしてみたりもするが最後は――。
一押し。やたらと強さや老獪さを見せるより、可愛い息子の為にあっぷあっぷする小兵衛の方が私は好きだ。親父の心配をよそに、さりげなく成長しているところを見せる大治朗も良い。ゲストキャラの金ちゃんもなかなか味のあるキャラクターに仕上がっている。

『御老中毒殺』……女武芸者・佐々木三冬は父・田沼意次の家来がスリにあうのを目撃してしまう。犯人を捕まえ、すられた物を確認したはいいが――。
これまたオススメ。三冬様の魅力全開で『井関道場・四天王』より断然面白い。盗人に対する仕打ちといい、父との微妙な関係といい、非常に可愛いのだ(え、違う?)。特に大治朗との絡みは必見。さすが堅物同士、見ていて楽しすぎる。(笑)

楽しゅうございました。
藤田まこと主演のドラマの印象が強い本作ですが、原作には原作の妙があります、一度ご賞味あれ。