つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

どうもこいつァ……匂うぜ、市やん

2005-11-02 23:23:26 | マンガ(少年漫画)
さて、これまた時代劇な第337回は、

タイトル:佐武と市捕物控(全十巻)
著者:石ノ森章太郎
文庫名:小学館文庫

であります。

知っている人は知っている時代劇漫画の傑作。
岡っ引きの青年・佐武と盲目の剣客・市の名コンビが悪を斬る!

ちょっと首をかしげてしまう回も多いけど、上手い話は本当に秀逸。
特に市さん絡みのエピソードは完成度が高いです。
作品解説代わりに、好きな回についてちょこっと書きます。


『氷の朔日(一巻)』……いつもは落ち着き払って、おっちょこちょいの佐武やんをたしなめる役回りの市やん。今日は何故か元気がない。何でも、暗闇の中で長雨の音を聞いていると気が滅入るのだと言う。佐武は評判の医師の所へ市を連れていき、手術を依頼するのだが――。
一押し。自分は臆病だから剣術を習ったのだと告白し、目が見えるようになったら縫い糸すら切れなくなるかも知れないと語る市。自分の顔が見えるようになっても、ひどい顔だなんて言って縁だけは切らないでくれよと励ます佐武。年の差、生きる世界の違いも飛び越えて心を通わせる二人の会話は素晴らしい。市の手術を行うことになった青年医師が顔の火傷にコンプレックスを持っていたという仕掛けも意味深。

『狂い水(三巻)』……島抜けをした芳吉が江戸で斬られた。佐武は斬った居合いの達人・玄斎が何らかの形で芳吉の怨みを買っていたのではないかと推測するが、実は彼は市の剣の師匠だった――。
どうしても玄斎への疑いを捨てきれない佐武。島破りが死んだところで誰も泣く者はいない、といつになく歯切れの悪い物言いをする市。友を取るか、役目を取るか。友を取るか、師を取るか。いつもはツーカーの仲である二人のすれ違いと苦悩が見所。

『木枯が吹いて冬がきた(九巻)』……元スリで今は佐武の下っ引きをやっている銀平がまた盗みを働いた。売られていく隣の娘を哀れんで金を集めていたのだ。事情を知った佐武は御法と人情の間で悩むが――。
岡っ引きとして成長し、市なしで動くことが多くなった佐武の相方として登場した名キャラクター銀平絡みの話。彼は立場こそ下っ引きだが、佐武よりも人の表裏を知る大人のキャラクターとして描かれており、この話でも人情を優先させつつも親分への筋を通そうとする。銀平を心配しつつも動けない佐武に仲間達が釘を刺すシーンは痛快。


何だかんだ言いつつ長く書いてしまいました。
悪い奴斬ってめでたしめでたし、という話は少ないです。
どちらかと言うと、事件が解決しても物悲しさが残る話が多い。
そこが良いのだけれど。

時代劇漫画としてはかなりオススメです。
巻を追うごとに凄味を増していく佐武やんと、ますます剣に磨きがかかる市やん、名コンビの活躍を御堪能下さい。