一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

『夏の栞 中野重治をおくる』佐多稲子著

2012-11-01 15:43:51 | 読書


      私はてっきり、稲子に小説を書くことを勧めたのは
      夫の窪川鶴次郎だと思っていたのだが、そうではな
      かった。
      キャラメル工場で働いた体験を書かせたのは中野
      重治だった。それが稲子のデビュー作『キャラメル
      工場から』となる。

      むしろ窪川が非合法活動で2年間も警察に拘束され
      ている間、夫を支えたのは妻の稲子であり、生活費
      も稼いだ。
      だが釈放されて帰れば、妻はひとかどの物書きにな
      っており、それを窪川は面白く思っていなかった
      ふしがある。
      (すでに2人の子供も生まれていた)

      新進作家の集まりである「驢馬」同人の中でもひと
      きわ魅力的だった窪川は、他の女性にもマメで、
      次々と女性問題を起こしている。

      その1人が田村俊子で、「田村俊子文学賞」という
      名前を冠した文学賞があるほど、才能豊かで奔放な
      女性である。(現在、この賞は廃止)
      結局は俊子の渡米でこの恋愛は終止符が打たれたが。

      窪川・佐多の結婚生活は20年で破たんし、その後
      も集会などで顔を合わせことはあったが、
      個人的に話すことはなかったという。

      一方の中野重治はプロレタリア演劇派の女優である
      原泉と結婚し、1人の子供も生まれている。
      中野・原の結婚を後押ししたのは、まだ夫婦だった
      窪川・佐多であった。

      中野は胆のうガンだった。
      原泉が仕事で来れない日は、稲子が病床にいて看護
      している。
      その中での中野と稲子のやり取りを小説にしている
      のだが、これは男と女の恋愛というより、文学者
      同士の深い絆というべきであろう。
      
      『夏の栞』は毎日文学賞に輝いている。

      稲子は夫窪川とは20年で別れたが、中野重治との
      つきあいは50年余つづいた。

      (写真はありし日の中野重治と佐多稲子)

      

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